2-6 オーブリオンの元王子とレブ島の探索
大量投下第4弾!
オーブリオン大陸の玄関口、港町リオレイン。すでにここにはヒノモト国から行政を司る官吏が入っている。本格的な支配に入る前に、オーブリオン王国は全面降伏した事と、白虎に国中を荒らされていたために行政が機能していない部分も多く、ヒノモト国から多くの役人を連れてくるしかなかった。そして、その第一陣が入ったのが港町リオレインであり、白虎に荒らされていない町としてはハルト王子の潜伏していた南東のマルセインに次いで2番目に大きな町になる。
俺たちはテツヤ様と一緒にライクバルト号でオーブリオン大陸へと上陸した。付き従う船団は30にもおよび、島国で領土が少なくてもヒノモト国には国力が十分にある事が分かる。昔は食糧事情が問題だったみたいだが、今ではヴァレンタインからの輸入で解決したため問題なく領土を増やせるのだそうだ。今回、オーブリオン大陸を範疇に入れた事で食糧の自給が可能になるのではないかと言われている。
「ようこそ、オーブリオン大陸へいらっしゃいました。この度は我々を救っていただきありがとうございます。」
リオレインに到着すると、元王族をはじめとした騎士団に迎え入れられた。先頭に立っているのがハルト=オーブリオン元王子だそうだ。彼は継承争いから外れてマルセインにいたことで首都オーブリオンを襲った白虎から逃れる事ができたらしい。白虎に襲われた首都を守るために王族は一人残らず討死したそうだ。
「これからは皆平等にヒノモト国の国民だ。よろしく頼むぞ。」
そしてここリオレインを中心にオーブリオン大陸の統治を開始するらしい。
「シウバ!僕たちは仕事が山積みなんだ!テツ兄の事はよろしく頼んだよ!!」
待て!なんで同盟国の俺たちに魔王を押し付けるんだ!?
「いや、シン様。・・・あの・・・。」
「なんか、未開の土地も多いみたいで、魔物のレベルも高いからテツ兄が張り切ってるんだ!ヒノモト国の人間は本当に仕事山積みだから誰も付き合ってあげられないんだよ!ユーナもよろしくね!ついでに名目上の護衛も!」
おい!本当に誰もついて来ないのか!?
「おお!いたいた、ユーナ!シウバ!北の方にやたら魔物の多い島があるらしいんだよ!行ってみようぜ!」
・・・まさか、オーブリオン大陸で冒険者をする事になるとは・・・。
リオレインの北にはレブ島という島があった。もともと、人の住んでいない島らしい。ここは魔物の巣窟となっており、オーブリオン王国時代に何回か入植が試みられたようであるが、大型の竜に阻まれたという記述があるそうだ。
「で、なんでこのメンバーで向かう事になったのがを誰かに説明してもらいたいんだが・・・。」
「うむ!こいつもついて来たいっていうから連れて来た!」
テツヤ様の横にいるのはハルト=オーブリオン元王子だ。
「もう王子ではないのでな。私はテツヤ様にお仕えする新参の武将だ。ならばここで少しでも手柄を立てようと思うのは自然な事だと思わないか?」
いや、付いてきても手柄になんねえよ。むしろ獲物横取りは怒ると思うよ?
「ハルトは変わった奴なんだ!!」
「よしてください、魔王。たしかに私の妻は魔人族ではありませんが。」
なんと、こいつの妻はエルフだそうだ。魔人族の中では純人や亜人は身分的に下に見られがちだ。ハルトが継承争いから外れていたのもエルフを妻とした事で子供を成す事ができなかったからだそうだ。
「落ち着いたら、養子をもらうつもりでいるのです。」
「うむ!愛に種族は関係ないという事だ!」
「ご理解していただけるのですか!?魔王!一生ついて行きます!」
「愛する者に魔人族だとか純人だとか関係ない。障害は二人で乗り越えればいいだけだ。」
あんた、純人しか愛せない性癖じゃないか・・・とは言えない。
「ではワイバーンで向かう事にしますよ。このパイロットゴーグルをつけてくださいね。」
テツヤ様は俺の後ろ、ハルトはマジェスターの後ろ、エリナはユーナの後ろに乗って、ナノは体格がいいから一人乗りだ。ユーナが2頭召喚してくれる。
「おお、これがワイバーン!」
怪鳥フェザーにも乗った事がないというハルトが少しはしゃぐ。やはり王子として育てられているためにお坊ちゃまなのだろう。今回の島で危ない所があれば守ってやるとするか。
「さて、どんな魔物がいるか楽しみだな!さすがに白虎クラスはいないだろうが、文献上はかなり強い奴がいるみたいだし。へへっ。」
テツヤ様はご機嫌である。こっちは胃が痛い。
数時間後、レブ島へと付いた。海岸線に上陸する。
「よっしゃ、数日はここに滞在する事になるだろうから野営の準備だな!」
慣れた手つきで野営の準備を手伝ってくれるテツヤ様。一方、ハルトは全くどうやればいいか分からないらしい。
「ほらぁ、ここをこうやって結ぶんだよぉ。」
エリナが手取り足取り教えている。マジェスターとナノはいつも通りの動きだ。一切の無駄がない。
海辺から少し入った所で雨露の防げそうな場所を見つけ、テントを設営する。もう何度も行ってきた作業だ。あっという間に設営されたテントを見てハルトがびっくりしている。
「じゃ、ここを拠点にして探索に行くとしよう!」
「残って連絡とかを受け取る人もいりますね!探索5人、残留2人くらいで別れましょうか!」
「だったらぁ、私とユーナ様は残留組かなぁ。」
エリナとユーナは残るようだ。ご飯の用意なんかをしてくれるみたいだが、エリナに料理はさせないでほしい。
「よし!獲物を取ってくるのは昔から男の仕事と決まっている!今日は魔物の肉で御馳走だぜ!!」
そして男5人での探索が始まった。
「この島には大型の竜がいるそうです。さすがに青竜ではないと思いますが。」
ハルトがテツヤ様に向かって説明している。ごめん、青竜は俺が討伐したからもういないよ。
「大型の竜というと・・・なんだ?」
魔物で竜と言ってもあまり思いつかない。だが、マジェスターがぼそりとつぶやいた。
「ティアマト・・・ですか?」
ティアマトか!あれならば確かにありうる。俺の家族を殺した魔物大量発生の際に主犯が乗っていたと言われる魔物がティアマトだったはずだ。当時のマジェスターの仲間も奴らに全滅させられたと言っていたな。唯一生き残ったんだっけ?俺にとってもマジェスターにとってもあまりいい思い出がない。
「ティアマトの可能性があるか!それならば納得だな!」
ティアマトは一応SSSランクという事になっている。フィリップ様がアイアンゴーレム3体でタコ殴りにして仕留めたというけれど、あのアイアンゴーレムでも3体必要だったというからかなりの強さに違いない。当時を知っている人間はハルキ様の作戦で魔物たちは何もできずに駆除されたとか言ってたけどな。
島の中心部には山があった。とりあえず麓まで移動しようという事になった。移動中にまさかワータイガーに襲われるとは思ってなかったけど。
「いきなりSSランクか!幸先いいな!」
良くねえよ!ワータイガーはテンペストウルフと同格とも言われている魔物だ。下手すりゃ死ぬ。テツヤ様は大丈夫だろうけど!
「マジェスター、ナノ、二人ともハルトを守ってやってくれ。」
「はっ!」
「かしこまりました。」
どう考えてもハルトだけレベルが足りてない。
「シ、シウバ殿。私はここに来るべきではなかったのかもしれない。」
ほら、びびってしまってる。
「大丈夫だ。テツヤ様の近くが一番安全だし、残っててティアマトが出るなら・・・。」
ここで重大な事に気付いてしまった。こっちは5人でテツヤ様も俺もいる。しかし、キャンプに残ったのはエリナとユーナだけだ。あそこが安全という保障など全くない。そしてティアマトだけでなくSSランクの魔物もうろついているような島である。
「ユーナたちは大丈夫なのか!?」
ぎょっと驚くテツヤ様。テツヤ様も気付いたみたいだ。
「シウバ!あっちにティアマトが現れたとしらユーナたちがアブねえ!!とにかく一旦帰るぞ!!」
「うぉぉぉおおおおワイバーン召喚!!」
そしてキャンプに帰って俺たちが見た光景は・・・。
「ふん、このクソ虫どもが。今頃帰ってきよってからに。やはり我が主の護衛は私一人で十分だな。死んで詫びろ。」
「あ!お帰り!へんなトカゲが出ちゃってさ!」
「あー、テツヤ様ぁ、ごめんなさい。私止められなかったぁ。」
ケルビムに討伐されているティアマトだった。




