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2-4 トバン王国の若き将軍

大量投下第2弾!

「慌てるな!通常の行軍で構わん!列を乱さずに後退しろ!!」

中等指揮官の怒号が飛ぶ。ここはエレメント魔人国とトバン国の国境付近、今は撤退中だ。兵士たちの足取りは重く、誰もが腹を空かせている。たまに襲ってくるエレメント魔人国の遊撃部隊が非常に鬱陶しい。この部隊全軍で返り討ちにしたい衝動に駆られるが、ここは我慢するしかない。

「ホーリー将軍、第1および第3軍は無事に国境を越えた模様です!」

「ご苦労、配置に戻れ。」

無事とは言っても、撤退を開始した時点から見て無事というだけだ。それまでの戦いで大きく傷ついている我が軍は、あの時に死んでも帝都を落とすべきだったのだ。これでは国に帰ったところで残るのは損害ばかりである。

「エレメントだぁ!!」

またしても遊撃隊のちょっかいが始まったようだ。

「落ち着いて対応しろ!数はこちらが圧倒的だ!補給部隊だけは狙わせるなよ!」

帝都から撤退を開始して5日目、補給部隊にはもうほとんど食糧がなく、押している荷車も軽そうである。まだ、空腹でも歩き続けられる状態だから良いが、これがあと1週間もたつと餓死者が出てきてしまう。それまでにせめて国境を越えなければ。順調にいけばなんて事はない。だが、エレメントの遊撃隊がしつこい。

「またあいつです!「魔槍」ブルーム=バイオレット!!」

「槍の才能は親父譲りでしつこさは母親譲りか!?特に母親のしつこさが敵わんな、さすがにうちのお袋でもあんなじゃないぞ!!」

極限の状況下で兵士にちょっとした笑顔をくれてやれるのがいい将軍だ。つまり俺なんだが、じつはこれは単なる嫉妬である。ブルーム=バイオレットと一対一で戦って勝てる気がしていない。奴はまだ10代でレベルも低いというのに。


 我がトバン王国は一時期滅亡に瀕していた。将軍ニルヴァーナ=クリスタルの率いる第2混成魔人部隊に多くの将兵たちがやられ、首都も陥落間近と言われていた。特に独立遊撃隊を率いる武将ジン。彼には俺の親父も含めてかなりの将軍や将校が殺された。彼は遠く南の純人の大陸で戦死したらしいが、正直信じられない。当時まだ配属したてだった俺は戦場でジンを見たことがあるが、正直この世の物とは思えない槍捌きに近寄る事ができなかった。軍を率いていた親父は目の前で串刺しにされた。別に恨んでいるわけじゃないぞ。

 そして、衰退したエレメント魔人国をまとめているのが第3混成魔人部隊を率いていたリゼ=バイオレットだ。魔王の器ではないと言い続けて魔王代理としてエレメント魔人国をまとめている。その判断は正しかったようで、魔王アルキメデスのいなくなったエレメント魔人国が崩壊せずにまとまっているのも彼女の功績だろう。諦めの悪い性格をしているようで、とうとう我々は帝都を落とすことができなかった。

 つまり、ジンが父親、リゼが母親で生まれてきたブルーム=バイオレットが強くないわけがない。そして奴が執拗に俺の軍隊を狙って撤退の邪魔をしている。本当にしつこい。


「一度、俺が出て行って叩いてやるか?」

というのを待ってやがる。そんなに俺を討ち取る自信があるのだろうか。一応これでもレベル55はあるんだがな。

「防御を固めろ!少しずつでいい、撤退の足は止めるな!」

ここは我慢比べだ。俺も将軍としては若いが、さらに若造と我慢比べをして負けるわけにはいかない。

「ホーリー様!進行方向に倒木です!もしや、やつらが!?」

まさか、俺たちを殲滅する気か?さすがに舐めすぎだ!しかし、一旦冷静になろう。なんで相手がガキの時だけ俺は冷静になれるんだろうか。帝都包囲戦ではあわてて対処をまずって食糧は救えなかったというのに。まあ、あの状況じゃあ誰でも無理だろう。固めて置いてた第1軍将軍のジェイドが悪い。

「俺が奴だったら、できる限りの損害を与えておきたいと考える。だが、兵力が足りない。殲滅は不可能。では、最大の損害とはなにか?」

やはり、俺の首じゃねえか、あのガキが!

「よし、ここはお兄さんが世の中ってもんを教えてあげる事にしよう!」

少数で俺の首を狙うには奇襲しかない。この状況で奇襲をするには場所が限られる。そうすると倒木などで場所を誘導してやらねばならない。つまり、倒木で進路が塞がれている所に俺クラスの将軍が出ていって倒木を除去する所を狙うのか?そんなにたくさん倒木してあるとは思えな・・・あったよ、俺の首取る気マンマンじゃねえか、この野郎。

「どけ!俺が除去する!」

さあ、来い!倒木を除去する魔法を撃つ前に現れないと逃走先ができてしまうぞ!


「エレメントだ!!」

「防御態勢をとれ!ホーリー様まで近づけるな!」

やはり来たか!しかし数十人で俺を討ち取れると思ったのか!?

「将軍ホーリー!その首貰い受ける!!」

魔獣に騎乗した若い魔人族が槍を振り上げて突進してくる。周囲には精鋭とおぼしき数騎が破壊魔法を繰り出しながら俺への道を開ける役割をこなしているようだ。

「なめるなよ!小僧!!」

手からほとばしる雷撃。俺の得意技の「ライトニング」、めずらしい雷属性の破壊魔法だ。親父から受け継いだ技だ。ちなみに今回の戦争では使ってない。切り札は本来、最後にまで取っておいて使わずに終わってしまうものだが、こいつには使う価値がある。というか、むしろこれチャンスじゃね?俺の勘が正しかったら、ここでこいつ討ち取れなかったら次の魔王だよね?こいつ。

「うがぁぁぁぁあああ!!」

あっ、くそ!小僧の横の奴がかばいやがった!まっすぐ飛ばないのがこの魔法の使いづらい所だぜ。しかし、使いやすい所ももちろんある。連射が可能でございますんで!!

「ぐはぁ!!」

雷撃にあたったブルームが堪らず魔獣から振り落とされる。しかし、空中で体勢を直したやつはこちらに突きかかってきた。

「はぁっ!!!」

なんてするどい突きだ。しかし・・・。

「まだ、お前の親父の域にまでは達してないみたいだなっ!!」

こちらは雷を纏わせた槍で弾く。当たるたびにしびれが来るためにこの魔法を使った状態の俺と戦う時は長時間は持たない。

「死ね!!」

奴の胸を突く!!・・・かと思ったが、紙一重で避けられてしまった。しかし、体勢が崩れている。追撃だ。

「くそぉ!!」

「ブルーム様ぁ!!」

あー!なんだよ、お前の側近は一対一の戦いに邪魔をしすぎだぜ。邪魔してきた側近の胸を串刺しにし、再度ブルームへと攻撃しようと思ったが、その頃には死んだ側近の魔獣に乗って奴は逃げてしまっていた。

「すまんっ!!」

その謝罪は俺に対してか?それとも死んだ側近に対してか?世の中を勉強したかい?


 襲撃でこちらも数名の被害が出ていた。俺が討ち取った2人を含めて10名以上が死んだあちらの方が割合的には被害は大きいはずなので撤退戦としては及第点だろう。しかし、こりゃマズイかもね。あいつ、次会った時にはさらに強くなるんだろ?もう、俺じゃ対処できないかもよ?俺でできなければ魔王様になんとかしてもらわないと第1軍のジェイドも第3軍のラッセも俺と似たようなもんだしな。こりゃ、まいった。


「お前らぁ!腹減ってるだろうが、勝鬨をあげろぉ!!!」

「「「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」

この考えは顔に出しちゃいけねえ。撤退戦に必要なのは士気だ。まあ、これで奴も懲りたことだろう。今頃雷撃魔法の後遺症で痛みと戦っているはずだ。少なくとも数日はなりを潜めるに違いない。



「国境までは後2日ってとこか。」

はやく食糧を持った味方が迎えに来てくれねえかな。腹減ったんだよ。


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