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2-1 東の国と北の情勢

前回までのあらすじ!


人使いの荒いレイクサイド領!


ハタラケハタラケ!

 ヒノモト諸島ヒノモト国。もはや世界最強と噂される魔王「神殺し」テツヤ=ヒノモトを筆頭に、こちらも世界最強と呼び名の高いライクバルト艦隊などを有する海洋軍事国家である。魔王自ら設計したと言われる他に追随を許さない造船技術に地の利が加わり、全盛期のエレメント魔人国ですら手がでなかったこの国が、ヴァレンタイン王国との貿易によりさらに大きく国力を上げていた。これに対抗できる国は同盟国のヴァレンタイン王国をおいて他になく、いまだに他国に侵攻し領土を広げている国の勢いは凄まじい物がある。しかし、そんなヒノモト国の侵攻を妨げる者がいた。天災ともよばれる最強の魔物の一つ、「白虎」である。その大きさは朱雀や青竜、玄武と同等であり、尚且つその機動力は想像の域を超える。出会う事は死を意味し、逃れられる者はいなかった。この魔物がヒノモト諸島の東に位置する大陸オーブリオンに巣を作っていた。

 もともとここに国を作っていたオーブリオン国は白虎にその戦力の大半を殺戮され、もはや国としての戦力はほぼないと言ってもよく、白虎が出てくるのをおびえ隠れるだけの生活を強いられている状況であった。国都オーブリオンももはや廃墟である。生き残りの王族であるハルト王子はヒノモト国へと救援要請を送る。見返りはオーブリオン国がヒノモト国の属州となり国を諦める事。すでに多くの国民が白虎の餌食となっていたオーブリオン国の現状から、ハルト王子はこれを承認した。テツヤ=ヒノモト魔王はハルト王子を今後ヒノモト国の一武将として優遇する事を約束し、オーブリオン国は姿を消し、ヒノモト国はオーブリオン大陸を制することとなった。


 オーブリオン大陸中心部、旧国都オーブリオン。この時すでに廃墟となった町に白虎は巣食っていた。

「テツ兄!お疲れ様!」

「ふん、張り合いがなかったな。」

「テツ兄の次元斬と張り合えるやつなんていないよ・・・。」

「いや、フランもシウバも戦える。ハルキに至っては当たりすらしねえ。」

「・・・いや、それ規格外の人達だから・・・。」

魔王「神殺し」テツヤ=ヒノモトが踏んでいるというより乗っているのはその白虎の胴体であった。ちなみに首は次元斬で別の場所に斬り飛ばされている。ハルト王子の要請後、シン=ヒノモト率いるヒノモト国ライクバルト艦隊が白虎討伐に来ていた。実際はテツヤを連れてくるだけの簡単な仕事であったが。

「しかし、本当に最近は魔王じみてきたねえ。」

黒を基調とした「キモノ」が彼の独自の服装である。風になびく足元が見る者によっては威圧感を与える。

「なんだよ、それ?あ、ところで明日ユーナが来るって言ってなかったっけか?」

「え?今日にはもうヒノモトについてるはずだよ?」

「まじか!?ちょっと急いで帰るわ!」

「・・・もう、純人じゃなくてラミィの事を相手してやってよ。テツ兄。」

「う・・・、いや、俺は・・・。」

「その性癖なんなんだよ!なんで純人が好きなんだよ!おかしいじゃないか、テツ兄は魔人族なんだぞ!ラミィを幸せにしろよ!」

「・・・すまん!!では、さらばだ!」

「あっ、逃げた!!・・・・・・もう、なんなんだよ。ラミィと一緒にならないならいっその事、死んでくれよ。」

前世が人間であるテツヤにとって、魔人族の黒いビー玉のような目がどうしても恋愛対象にならないという事を知っているのはハルキとセーラのみである。



「それで、オーブリオン大陸から泳いで走って帰って来たんですか?」

「はぁ、はぁ、はぁ、そうなんだよ、ユーナ。シンの乗ってた船しかなかったもんで。あ、結婚おめでとう。別れたら教えてくれ。」

「別れませんよ!でも、ありがとうございます!」

ヒノモト国ヒノモト島、本来であればオーブリオン大陸から船で2日の距離はあるが、この魔王の走る速度はワイバーンを超す。朝に白虎を仕留めてそれから夕方にはヒノモト国まで来れるのはこの魔王をおいて他にはいないだろう。

「でもシウバは新婚早々に任務でエレメント魔人国まで行っちゃって、ほとんど会ってないんですよね。まあ、それまではずっと一緒にいたんですけど!」

「ぐはぁ!・・・い、いや、幸せそうでなによりだ。・・・ぐすん。」

最近、どこぞの領主のメンタルの弱さが移ってきたのではないかという魔王。白虎に指一本触れさせずに瞬殺したあの男とはまるで別人である。

「それで、こちらがハルキ様からの連絡事項になります!」

極秘情報の入った魔道具を渡す。内容はユーナも知らない。

「分かった、確認するから待って。」

「はい!お願いします!」


 その場で魔道具を開く。暗証番号を入れなければ手紙を取り出すことができない仕組みだ。一読したあと、テツヤはため息をつく。内容はエレメントに侵攻してきた北部の軍をレイクサイド召喚騎士団で迎撃したという物だった。

「真面目な話、ちょっと面倒な事になったな。」

エレメント魔人国に侵攻したトバン王国とネイル国であったが、ヴァレンタイン王国からの増援により帝都エレメントまで迫っていた軍勢は帰還を余儀なくされていた。勢いにのってエレメント魔人国を滅ぼすつもりであっただろうが、最後の最後で横槍を入れられた形となる。

「北は、混沌としている。すでにいくつもの国が生まれては滅んできたんだ。」

トバン王国の北と、ネイル国の北にも多くの小国家が存在する。エレメント魔人国が帝国として侵攻してきた際にはこれらの多くの国が力を合わせて対抗したが、魔王アルキメデス=オクタビアヌスが遠くヴァレンタイン大陸で散った事を皮切りに群雄割拠の時代へと突入した。

「最近、ようやくトバン王国とネイル国がそれぞれ同盟を組んでこれらの小国家をある程度平定し、さらにはエレメントへと侵攻したところだったんだ。だが、これでまだあのあたりは戦争が続いてしまう。」

ヴァレンタイン王国にとってはエレメント魔人国とは不可侵条約を結んでいるのでいいのだろうが、北の大地の魔人族たちにとっては苦悩の日々が続く。ヒノモト国はまだ戦禍に巻き込まれる位置にはないが、このような群雄割拠というのは犠牲が多い反面、得てして力の強い国が生まれやすいのだ。

「特に一つ注意しなければならん国があるんだ。ラミィ、情報は手に入ったか?」

「いえ、かなり厳重な情報規制が敷かれているようです。軍を率いる将軍の存在は分かりましたが、その上に存在する少なくとも3人に情報は皆無ですね。ましてや、魔王の名前さえ分かりません。」

「魔王・・・ですか?」

「そうなんだ。ネイル国のさらに北の方にはいくつかの小国家があった。これが最近、一つの国にすべて平定されたようなんだ。そして、その軍勢がやたら強い。」

ヒノモト国としても、ラミィ達の率いる諜報部隊を北に派遣している。純人ではないために村や町の中にまで入れるヒノモト国の魔人たちはどうしてもヴァレンタイン王国よりも魔人の国の情勢には詳しい。

「現在軍を率いているのは「四騎将」と呼ばれる魔人たちです。それぞれがかなりの強さを持っているのですが、中でも魔物の調教に長けた「魔卒者」とよばれる将軍の部隊が多くの魔物を戦場に投入するために、周辺の国々はろくに戦わずに降伏しているようです。」

「「魔卒者」・・・。」

「いまだに名前すらわかりません。「四騎将」ですら一番上の将軍ではないようです。手に入れた情報によると、魔王の他に3人いるみたいですね。そのうち1人は魔王の后の可能性が高いですが。」

「こいつらの力が未知数な上に、どんどん勢力を伸ばしてきてやがる。今回の敗戦でトバン王国とネイル国がどれほどの損害を被ったか分からんが、下手すると二国とも飲み込まれる勢いだ。だが、うちからあまりにも遠い。ろくな情報が入って来ない。」

「これも信憑性に欠ける情報ですが、その・・・。」

ラミィは一呼吸おいて続けた。



「魔王の二つ名は・・・「邪王」と言うようです。周辺ではこの国を「邪国」と呼んでいますし、彼らも否定しないようですね。自ら「邪」を名乗るという意図を掴みかねてますが・・・。」

「単なる厨二病だったりしてな。」



な、なんだ!?聞いた事のない国が出てきたぞ!?

これは予想がつかない!!


え?茶番はもういいって?

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