1-4 採取人シウバ
エルライト領エルライトの町から東方へ約半日、そこにはちょっとした森が存在する。その森を抜ければ海岸線であるために、以前は魔人族の襲撃でかなりの大軍がここを通ったはずだ。たしか、そんな森だったと思う。鬱蒼とした森の中には様々な植物が生い茂っている。
「よしよし、キュアリーフがこんなに。大量だな。」
何故、俺がこんな所に来ているかを説明しよう。もちろん、薬草採取だ。
「本当に魔物の討伐はしないのか?」
「ええ、まだ早いと思いますよ。」
魔物が怖くて冒険者が務まるか!?って言う奴がいるだろうよ!だが、あえて言わせてもらおう。
務まらねえ!!だから俺は今日も薬草採取に勤しむんだ。わざわざ魔物と戦いに行くなんて命がいくらあっても足りるわけがないだろうが!俺は間違ってねえ!この装備は、薬草採取の時の護身用です!
「しっかし、薬草採取だけじゃ生きていけねえぞ。報酬なんて微々たるもんじゃねえか。」
うぐぅ、痛いところを突いてきやがる。さすがに歴戦の受付おっさんだ。こっちの懐事情が完全に見透かされているな。依頼料払う係だから当たり前か。
「ちなみに、薬の調合依頼とかってあるんですかね?」
俺にはレドン草の調合技術がある。これはテト先生に習った俺の技術であり財産であり生活の糧になるはずのものだ。
「あー、あんまりねえな。あるのは薬草採取の中でも特殊なやつばかりで、調合までしてほしいって奴はむしろ薬を買いに行くからな。薬草師の依頼は多いんだが、ほとんど収集だ。」
やはり、調合してしまえば薬屋で売ればよいのでこんな所に依頼はないか。むしろ薬屋に聞きに行った方が早い気もしてきた。
「シウバは魔物の討伐ではなくて採取専門の冒険者を目指すのか?」
それはいい。そういう冒険者がいてもいいだろう。プロの採取家って奴だな。
「はい、そうですね。」
「じゃあ、ぜひこれを受けてくれよ。」
何々?キュアリーフの採集依頼か。大量に欲しいって書いてあるな。少量でいいんだったらエルライト近郊の森でも生えているが、籠一杯だとちょっと時間がかかりそうだ。もしかしたら足りないかもしれん。
「このな、キュアリーフがたくさん生えている所ってのがあってな。」
なぬ!?それを早く言えよ!
「でも、ちょっと遠いんだ。・・・それに、もごもご・・・問題もあって・・・。」
え?何か言った?問題とか言わなかったか?
「まあ、でも是非受けてくれよ!将来採取のプロになるってんならこういう依頼を受けるのは当たり前だろ?」
「えぇ!?でも・・・。」
なんかやばそうな雰囲気なんだけど。問題があるんじゃないのか?
「いいから、さあさあ、受理するぜ!」
「あ、ちょっと・・・はい。」
結局、受理する事になってしまった。詳細を聞けなかったが、東の森にはたくさんのキュアリーフが生えているとのこと。籠いっぱいに採取して帰ってくるだけの仕事だそうだ。徒歩で半日かかるから、向こうの森で一泊予定だな。仕方ない、行ってくることにしよう。
籠を担いで行くのは特に問題なかった。一人で野営する準備もできている。この前、ようやく炎の破壊魔法である「ファイア」と、水の破壊魔法である「レイン」を覚えたのだ。これがあれば魔力があるだけで、旅先の火おこしや飲み水の確保ができる。つまり料理にはもってこいという事だ。あれ?破壊魔法だよね?
ついでに補助魔法の「ステータス」も回復魔法の「ヒーリング」もなんとか覚えた。魔法の教育量に受付おっさんに銅貨5枚持ってかれたのは痛かったが、仕方がない。これからはこの魔法を主に使って魔法レベルをこつこつと上げていく事にしよう。
森には結構順調に到着した。まずは野営の準備だが、所詮は一人。荷物が置けて食事がとれるスペースと寝れる場所さえあればいい。寒くなるまで火もつける必要ないしな。
「では、さっそく収集するとしますか。」
まだ、日が暮れているわけではない。採取は可能だ。結構たくさんのキュアリーフが生えていて、それをぶちぶち引き抜いていく。この前依頼の時に聞いたのは、根っこも重要だから根っこが折れないように抜くのがプロの仕事だとか。さらに凄い奴は土ごと持ってくることもあるそうで。まあ、キュアリーフみたいな安い薬草にそんな事する奴はいないけれど。
このキュアリーフの効能は「疲労回復、体力増強」だそうだ。回復魔法の「ヒーリング」に似ている。調合の方法はそれぞれの薬草師によって違うそうであるが、凄腕が調合すればそのあたりの魔法使いの「ヒーリング」以上の効果を発揮する事もあるというから驚きだ。だって、ただの雑草だぜ?
「うし、結構な量が集まった。」
持って帰って籠に入れる。だが、これはちょっと誤算だったな。
「籠一杯って・・・、結構この籠が大きいのね。」
籠の大きさは両手が回る程度の周囲にかつぐと高さは腰から首まである。これに全部キュアリーフを詰めるのか・・・。かなりの重労働だ。
「頑張りますか。」
結局、夜ギリギリまでかかってキュアリーフを籠に入れまくった。こんなに採取したのは初めてだよ。依頼料がかなりお得だったのも頷ける。というか、安いじゃねえか。
夜は携帯食を食べることにした。「レイン」で作った水を「ファイア」で温めて、乾燥した穀物を入れてふやかして食べる。美味しいものではないが、必要なエネルギーは得られるのだろう。腹にたまるわけではない。今日は採取も終了したし、早めの就寝だ。明日、早く起きてエルライトの町まで歩かなければならない。もう、寝よう。
受付おっさんの言ってた問題が分かったよ!問題の一つはその薬草1本あたりに換算すると安い依頼料だってのもあるけど、こっちがもっと問題だ!
重い!籠一杯の薬草がこんなに重いなんて!籠がでかいのが問題だよ!これが採取の洗礼ってやつか!?ちゃんと前もって言ってくれよ!後で聞いた話ではキュアリーフは他の薬草と違って比重が高いんだとよ!
行きと同じ道をとぼとぼと帰る。来たときは籠が軽かったから、綺麗な景色だなーくらいだったのが、まだエルライトは見えんのかぁ!?ってなるとこの景色も憎くなるぜ。
「採取、侮るべからず。」
とか言ってみたけど、これ単純に運搬の問題だよね。そういや、この前テトたちとやった討伐の時はアイアンドロイドが荷物全部持ってくれたからかなり助かったよ。俺もああいう召喚獣が欲しいね。せめてノームくらい欲しいんだけど、どうやったら召喚契約できんのかな?
「ノームの召喚契約には土の魔石がいるぞ?」
やっとの事でエルライトの町まで帰り着いた。かなりしんどかった。ギルドで薬草を降ろして依頼料をもらった時に受付おっさんにノームの召喚契約の事を聞いてみるとこういう答えだった。
土の魔石?魔石なんてめっちゃ高くて買えねえよ。みんなどうやって召喚契約してるんだ?
「貴族は貴族院でノームの召喚契約を行うそうだ。毎年土の魔石の調達依頼が来るな。払いが良くて人気の依頼だぜ。」
調達依頼か。
「それは、どうやって調達するんでしょうか?」
「決まってんだろ?魔物からとるんだよ。この辺だとロックリザードとかが手に入りやすいって事になってるな。土属性ってやつか?」
ま、魔物の討伐・・・だと?
よし、召喚魔法は諦めよう。これからも体を鍛えて採取したものの運搬を行うんだ。コツコツと地味に。




