3-4 山脈を越えて
大量投下第4弾!!
全身の骨折と魔力枯渇で若干真面目に死の淵をさまよった俺は3人がかりの回復魔法で生還する事に成功した。しかし、全く動けないためにワイバーンに括られて集落まで帰還する事となった。出迎えた魔人族たちが慌てまくったのは言うまでもない。そして、それから長期間の療養に入らざるを得なくなる。どれだけ回復魔法をかけても全治1か月だとよ。まあ、それぐらいで済んだというのが正しい表現に違いない。
「我らのために、こんなになるまで!!!」
意外にも最近はライレルの激情家っぷりがすごい。普段とか見た感じ静かな族長っていう雰囲気なのに、俺の事となると急に叫びだす。なんでだ?
「そりゃあ、大将の人徳ってもんだぜ。」
フェルディの言ってる意味が分からんが、こんな俺でも慕ってくれるというのは得難いものなのだろう。そして、皆で頑張ってきた結果、ここいら一帯の集落は殺し合いを止めて全員で協力しあって生きていく基盤ができた。本当に俺たちが先頭にたってやってきたのか分からなくなるけど、この数か月無い頭をひねりまくって手さぐりで頑張った結果としては悪くないんじゃないかな。
療養は順調だった。少しずつ、体力とかが戻ってくる。1か月を過ぎたころには前のように動けるようになっていた。そして青竜がいなくなって南側へと進出できたために、この集落の問題もほとんどが解決の方向へと向かっていた。
「そろそろ、帰る支度をしないとね。」
ヴァレンタイン大陸へと帰るんだ。こっちに来て結構な時間が経ってしまっていて、いつの間にか新年が過ぎてしまっている。エジンバラ領でのごたごたも片付いてるだろう。皆が、特にユーナは騎士団の人達に心配されているに違いない。テツヤ様とか、ユーナがいなくなった事を知って暴れてなかったらいいけれど・・・。
「今後の話をしよう。」
主な魔人族を集めて、俺たちがヴァレンタインへと帰る事を伝える。
「やっぱりシウバ様たちがいなければ我々はやっていけません!!」
ライレルはいつもの感じだ。でも他は覚悟を決めていたようだ。
「大将、残念だ。でもよ、俺たちは大丈夫だ。皆で力合わせてやっていける。それだけの物をあんたは残してくれるんだ。たまに帰ってきて顔を見せてくれ。もう青竜はいないからワイバーンがあれば来れるんだろ?」
フェルディはさすがだ。ここにいる時はよくフェルディに助けられた。ローレの行動力は皆の指標になって、こいつがいなかったらここまでテンペストウルフを乗りこなす連中ができなかっただろうし、アウラはよく皆をまとめてくれた。それぞれいい所があって、うまい具合に噛み合ってたと思う。
そんな中、思いもしない話が出てきた。
「俺は、シウバ様に付いて行きたい。」
「「ナノ!!?」」
なんと、ナノが俺たちに付いてきたいという。この魔人族の若者は実は年下だったりするのだが、もともと族長でもなければ結婚もしていない。
「世界を見たい!そしてシウバ様を守るのが俺の役目だ!」
「よく言ったぁ!シウバ様!ナノを連れていきましょう!」
「ワイバーンは2人乗りだから、それならマジェスターが残れよ。」
「残念だったな、ナノ!連れて行く事はできん!」
「えええぇぇぇ!!?マジェスター様!?」
しかし、ナノがそんな風に思っていてくれてたなんて、ちょっと恥ずかしい。
「シウバ!私、3頭召喚するからさ!連れてってあげようよ!」
ユーナ!それだと俺がナノと2人乗りになる可能性があって、ユーナと乗れなくなるから!
「ナノは体格がいいから1人乗りですねぇ。」
なんて優秀な子だ、エリナ!!お前は常に俺の味方だな!
「じゃあ、付いてくるか?」
「はいっ!!ありがとうございます!」
こうしてナノも俺たちについてヴァレンタイン大陸へと帰ることとなった。
「大将、元気でな。ナノをよろしく頼んだぜ。」
「ああ、お前らも元気でな。もう殺し合いとかすんなよ?」
「分かってるって。これからは大将たちの生き方を参考にして皆で協力してやっていくさ。大将たちはいつまでも俺たちの大将だ。」
お前ら!!泣かせるんじゃねえよ!
「魔人族の大将ってことはぁ、魔王ですねぇ。」
俺が魔王!?ぶはは、笑えてくる。忙しいな、おい。
「もちろんだ!魔王シウバ=リヒテンブルグ、ここはリヒテンブルグ王国だからな!」
「そんなひどい国の名前にするんじゃねえよ、だいたい俺帰るし。代表4人でいろいろ決めるんだろ?共和国だ。」
「共和国なんて、他の部族に舐められちまう!」
「さて、それじゃ行こうか!」
ユーナがワイバーンを3頭召喚する。これでここともお別れだ。また、機会があれば連れてきてもらう事としよう。さらば!
この時の事を強く後悔するのは数年後になる。俺はただ別れを惜しんでいただけで重要な事にきづいていなかった。
ワイバーンが山脈を越えて南に向かって飛ぶ。山脈の付近は非常に緑が生い茂っていたが、その南は荒野が続いていた。これがユーナの言っていたテツヤ様の故郷なのだろう。そしてさらに南に行くと海が見えてきた。ここまで来るとまた緑が見えてくる。魔人族の集落らしきものも見えた。立ち寄ってトラブルになってもいけないので近づくことはないけれど。
「海を越える前に、野営しよう。」
ユーナの魔力は多いとはいえ、少し心配だ。海がどのくらい広いのかも実はよく分かってない。
集落の皆が食糧とかはたくさん用意してくれた。野営にしては豪華な食卓だった。食事が終わって寝るまでに時間がある。俺は少しナノと話すこととした。
「ナノ、ヴァレンタイン大陸ではまだ魔人族に対する偏見がある。それを今、ヒノモト国の魔王テツヤ様がなんとかしてるところだが、いままで殺し合ってきた違う種族だ。簡単には理解しあえないところもある。その覚悟はあるか?」
「正直分かりません。でも!俺たちはシウバ様たちと理解しあえたと思ってますよ!」
なんだ?なんか、まぶしいぞ!?こ、これが擦れてない若者ってやつか?2歳しか変わらないのに!
「そして、俺たちはユーナを除くと冒険者という魔物の狩りとかをする職業へと戻る。ユーナは騎士団だけどな。ナノが俺に付いてくるなら、冒険者としてだ。」
「分かりました!」
・・・話してて思ってしまったんだけど、ユーナはレイクサイド召喚騎士団なんだよな。一緒にいれなくなるのかな・・・。やばい、心が崩壊しそうだ。どうしよう!?
その日、俺は全く眠れなかった。
「おはよう!シウバ!あれ?どうしたの?」
「え?何?」
「すごい疲れた顔してるよ?眠れなかった?」
うん、一睡もできてない。
「そ、そんな事ないよ!今日モ頑張ローネ!」
「う、うん。」
これは何とかしないといけない。一晩中思考加速使ってたにも関わらず妙案は出なかった。
「確かに、大問題ですねぇ。」
相談できるのもエリナくらいしかいない。マジェスターには気付かれてはいけない気がする。あいつはすぐに暴走するからな。
「まじでどうしよう。」
「レイクサイド騎士団に入団します?」
「それは考えたけど、マジェスターもナノもいるんだよ。あいつらが一緒に来れない。」
「まあ、そうですねぇ。」
結局、出発までに答えなんて思いつくはずもなく。
「さて!海を越えるわよ!ついにヴァレンタイン大陸ね!」
そして、その日の夕方にヴァレンタイン大陸が見えたのだった。
これ投稿した時にはこのくらいで打ち止めのつもりだったんだけどな!




