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3-2 山脈に潜む刺客たち

大量投下第2弾!!

 ユーナにはいい事とか言ったけど、実際はそうでもない。作戦は単純に・・・。


「寝込みを襲う!」


 青竜だって魔物だ。巣もあれば睡眠もとるだろう。そしてここには幻惑魔法の達人であるエリナもいればゴーレム召喚ができるユーナもいるし、奴の鱗を裂く事のできる俺と「小型犬」マジェっちがいる・・・。まあ、マジェスターの奴はそのうち氷魔法を上達させて青竜にも通用するレベルに上げてくるだろう。それよりも、青竜の巣を探索したり、近づく際に気付かれないような幻惑魔法をエリナと相談する必要があるな。

「それなら、サイレントがいいかもぉ。もうちょっと頑張ればバニッシュで消える事もできるよぉ。でも、臭いは消せないよ?」

臭いか。魔物だけに臭いでだいたいの場所がばれそうだな。でも、バニッシュができるのであればかなり近くまで行けるに違いない。それなら考えがある。

「では、バニッシュができるように訓練してくれ。それと、マジェスターがどこ言ったか分かるか?」

「知らなぁーい。マジェっちは秘密の特訓って言ってどこか行っちゃったぁ。」

あいつは本当に行動が予測できん。

「まあ、最悪は3人でもいいとしよう。」

そして問題は俺にもある。


 威力は上がったが、一撃で青竜の首を飛ばせるようになったわけじゃない。

「場所によってはゴーレム空爆ができない所かもしれないしな。」

巣穴とかがあるのであれば空爆はできない。青竜だって雨露をしのげる場所に巣を作りたがるだろう。そうすると俺の攻撃の重要性は増してくる。

「薬で身体能力と魔力を上げて、補助魔法で全体的に上げて、・・・。」

他にできる事はないだろうか。テツヤ様の次元斬のように何でも切れるというのは無理だろうが、オフェンスアップで魔力を込めた時のような切れ味の増強とかである。前回はフランさんの真似だったけど、おそらく今回はオリジナルで何かを思いつかない限りはすぐに解決するような問題じゃないと思う。それが一番難しいのだけれども。

 そもそも俺は基本的に全ての才能がないと診断されているのだ。逆に言うと全ての属性を使う事ができるなんて言葉を頼りにしてきたわけなんであるが。薬屋の師匠に弟子入りして薬草師をめざしたのもそこが原因である。薬で底上げができたらと思ったからだ。補助魔法も同じようなもんだな。

「底上げ・・・全ての属性・・・。」

そうか!他の魔法を足せばまだまだ底上げができるぞ!たとえば破壊魔法を補助魔法のように使って・・・。



 青竜討伐の準備は少しずつ進んだ。食糧事情がすこし改善されて訓練に割ける時間が増えたのもいい事だった。そして決行の4人メンバーで最終確認を行う。

「まずはエリナのサイレントとバニッシュを使って青竜の巣穴の特定および周囲への潜伏をします。」

サイレントとバニッシュが同時できいていればよほどの事がない限りは見つからないだろう。

「場所は巣穴にすぐに行ける所であれば望ましいですけど、そんなに近くでなくても構いません。むしろ発見の危険がなくて全員が隠れられる場所を探しましょう。場合によってはエリナの幻惑魔法を継続して使う事も考えてます。」

念には念を入れます。

「襲撃決行は雨の夜です。臭い対策になるというのが理由で、最初の一撃が決まるかどうかで討伐成功率が変わってくると思うからです。」

しかし、青竜も雨露が防げる所にいるんだろうな。ゴーレム空爆は期待しない事としよう。

「ユーナはケルビム召喚で戦う?」

「そうだね!一番攻撃力が高いのはゴーレム空爆だけど、あれは使い捨てだから長時間の戦いになったら不利だしね!」

「では、なおさら巣穴で寝ている事を期待したいね。マジェスターはなんとか修行が終わった?」

「はっ!もちろんであります!我がノートリオ家代々に伝わる秘法「やせ我慢」を持ってすればどのような特訓であろうとも・・・。」

要するにいつもの特訓を限界までやってたわけか。まあ、それで攻撃力が上がったんなら文句があるわけじゃないけれど、少し釈然としないものも感じる。もうちょっと何か考えろよ。

「エリナは潜伏活動を頑張ってもらう事としてるけど、戦闘面で使えそうな魔法はある?ないなら潜伏先で留守番かなぁ。」

「大丈夫でぇす!!この前フォグミスト覚えましたから!逃げる時には目くらましに最適ですぅ!」

フォグミストとは濃い霧を発生させる魔法だ。たしかに討伐できそうにもなかった時に生き残る手段としてはいいかもしれない。

「よし、じゃあ戦闘の時はバニッシュで姿を消して後方から見守っててもらおうか。あと、回復も頼む。」

「分かりましたぁ!」

これで、なんとか戦える準備は整った。少し不安であるが、俺たちがヴァレンタイン大陸に帰るためにもなんとしても青竜は討伐する必要がある。



「フェルディ、ローレ、ライレル、アウラ。俺たちはこれから青竜を討伐しに行く。もし、戻らなければお前たち4人でここを守って行くんだぞ。食糧事情や狩猟方法の問題はなんとかなりそうだ。青竜にさえちょっかいを出さなければやっていけるだろう。」

「そんな!我々はシウバ様が帰ってくるのをお待ちします!」

いつもは冷静なライレルがまっさきに言う。

「大将!俺たちの事は気にすんな!それより青竜をどうにかしてくれ!信じてるぞ!」

「シウバ様!お待ちしております!」

「シウバ様、あんたがいなくなっちゃあ、ここの連中をまとめる奴がいないんだよ。」

そんな事を言っても死ぬときは死ぬし。

「青竜が討伐できたとしても俺もいつかはヴァレンタイン大陸へと帰るんだ。いなくなった後の事も決めておかねばならない。」

「なっ!!?帰るなんて!?大将!そりゃねーぜ!」

「だから、もともとは迷子だって言っただろうが!いまの場所が分かってんだからお家に帰るの!俺とエリナはともかく、ユーナやマジェスターは帰らなきゃならない所があるんだから!」

「私はシウバ様の傍が帰る場所でございます!執事ですからっ!」

これ、マジェっち。めんど臭くなるからいらん事言うな。

「俺もエルライトの町に待ってくれてる人たちがいるから帰らなきゃ。」

薬屋の師匠や受付のマスタングにも会いたい。しかし、ここにも情が湧いたのは事実だ。悲しいけれどな。



「では出発するけど、フェンリルは2匹で行こう。できるだけ少ないほうが発見されにくい。」

「はぁーい。」

そして当たり前のようにマジェスターの召喚したフェンリルの後ろに乗るエリナ。お前はなんてできる子なんだ!!

「ついに青竜討伐だね!」

ユーナを後ろに乗せてフェンリルが走る。あまり古くない森は高い木々が少ないために上空からだとすぐに発見されてしまうだろう。慎重に行かねば。

「マジェスターも上空には注意を払っておいてくれ。もし青竜が飛んでいるような事があればすぐにバニッシュをかけてもらわないといけない。」

まだ、集落を出たばかりだから発見される事も少ないだろうが、念には念を入れて慎重にだ。


 フェンリルで数時間も南へ下ると山脈が見えてくる。あの山脈のどこかに青竜の巣があり、そしてその向こうのさらに向こうの海の向こうがヴァレンタイン大陸なのだろうか。帰る話なんてしてしまったから、エルライトの町が恋しくなってきやがった。是非とも青竜を討伐して制空権を確保し、ヴァレンタイン大陸へ帰らなきゃな。

「シウバ様!あれを!」

すっごい遠くの空に点が見える。あれだけ遠くなのに点として認識できるのはそれがでかいからだろう。青竜だ。あの辺りに巣があるのかな?

「さらに慎重に移動する事にしよう。エリナ、バニッシュは連続でどれくらいいける?」

「バニッシュ単独なら半日ってところかなぁ?サイレントとかを合わせるともっと少なくなるけどぉ。」

「なら、そろそろバニッシュだけかける事にしよう。それで今日は山の麓で野営だ。」

「はぁーい!バニッシュ!」

4人と2匹の姿が消える。自分の姿さえも見えなくなる状況にすこし不安がある。後ろからぎゅっとユーナが抱き着いてくる感触があった。皆同じなのだろう。これはもうちょっと訓練してからきても良かったかもしれない。特にこの2人乗りの状況を念入りに!


「ちょっと!マジェっち!どこ触ってんの!?」

「なっ!?見えんのだ!仕方なかろう!それにその呼び方はやめろ!」

あの・・・、もう少し静かにしてもらえんかな。青竜はあんだけ遠くにいるとしても他の魔物にも会いたくないんだけれど・・・。


 夕までに山の麓に着くことができた。雨を凌げる奥が深くない穴を探して野営とする。この辺りは草木がでかいために上空から見つけられにくい。バニッシュを解いても大丈夫だろう。

「明日、青竜の巣穴を確認する。場所的に遠ければ移動する事になるけど、もしこの近くだったらここを拠点としてもいいかもしれないな。」

 火が使えないために携帯食のみで過ごす事になってしまうな。


 翌日、マジェスターとエリナが偵察から帰ってきた。

「シウバ様、青竜の巣穴を発見しました。ここから歩いて数時間の距離です。」

「近くに拠点になりそうな場所はあったか?」

「今の所は発見できてません。しかし、地形はここと似たようなものです。おそらく探せばあるかと。」

「よし、ならば明日に拠点の探索を兼ねて移動する事にしよう。拠点ができたら青竜の観察だ。奴の習性を知らなければ足元救われるしな。」


 もはや、これは狩りだ。討伐任務である。ならば魔物の習性を知り、地形を知り、準備は怠らない。冒険者の基本だ。俺はこんな所でも冒険者をやっている。いや、こんな所だからだな。エルライトの町では薬草師といったほうが近かった気もするし。


 それから俺たちは巣の近くに拠点を作って青竜を観察する事にした。奴はだいたい朝に巣穴を出て行って、周囲の縄張りの見回りや狩猟、そして1日に数回巣穴に戻ってくる。餌を持ってきてないから子供たちがいるとは思えない。そして臭いにも敏感そうだ。一度しっかり近づいた事があるが、何かを察したらしい。サイレントとバニッシュがなければ死んでいたかもしれない。それほどに奴の感覚は優れている。これは寝込みを襲っても起きるかもしれないぞ?しかし、やらねばならん。


 巣穴の大きさは青竜が入っても十分なほどに巨大だった。じつは麓からも目立つくらいに大きな穴があるとは思っていた。まさか本当に青竜の巣穴とは思わなかったが。あそこの奥ならば飛ぶことはできないだろう。


「青竜にブレスはなかったよな。」

いままで遭遇した時はブレスなんて吐いてなかった。あったとしたら狭い巣穴の中で吐かれて回避できずに焼け死んでしまう。

「この前、鱗引っぺがした時はそんな事しなかったよ!」

よし、これで憂いはない・・・はずだ。・・・多分。




「シウバ!」

「どうした、ユーナ。」

「たぶん、今夜雨が降るよ!」

・・・・・・ついにか。


 俺たちは青竜討伐の準備を始めた。


まだまだ続くよー

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