1-3 投資家シウバ
結局、テトたちがレイクサイド領に帰るまでにレドン草の調合を教えてもらうことができた。ほんと、泣きついて良かったよ。一般の薬師の所に行っても絶対教えてもらう事なんてできないもんね。これでMP回復ポーションを作ることができる。さすがにレドン草は群生しているところなんてないだろうけど、行く先々で見かけたら採取しておこう。かなりの高額で売れるに違いない。うしっしっし。
エルライトの町まではテトのワイバーンに乗って一瞬だった。帰るとさすがに魔力がしんどいって言ってたけどな。
「シウバ!助かったよ。これ、報酬ね。」
宿のテーブルにドサリと袋が置かれる。ドサリ?ものすっごい幸せな音がした気がしたけど・・・まじか?
「グレートデビルブルとホワイトボア5匹の討伐証明部位を提出してきたから、それ全部上げるよ。僕はこのダイアモンドがあればいい。あ、剣返してね。」
なんですと!?SランクとBランク5匹分の討伐報酬!?あ、ミスリルソードはこちらです。
「また、エルライトに来ることあったら会おうね。楽しかった。」
「こ、こちらこそ。光栄でした。」
俺、「深紅の後継者」と討伐任務に行ったんだな・・・。なんかすっげぇ!
テトは宿で一泊するとウインドドラゴンでレイクサイド領へと帰っていった。リリスちゃんは結局強制送還に失敗したらしく、テトの背中にしがみついてた。マジで一回爆発しろ。
「なんか、夢のような出来事だったな。」
沢山の報酬。完全に幸運だった。あの見つけられなかった銅貨がこの幸運を呼んでくれたのかもしれない。感謝だ。そしてこれは幸運であって実力ではないという事は、今まで両親に受けた教育からも理解している。今、お金ができても明日には収入がなくなるかもしれない。未来に投資が必要だ。
今後、仕事を安定させるためには何を買い、何を節約しなければならないか。自分を高めることこそ、冒険者にとって重要だ。つまり、体が資本の冒険者はその能力を上げるか、それ以外で補助しなければならない。能力は金では買えない。では何を買うか。
つまり、武器と防具だ!
エルライトの町の武器屋はランクが分かれている。最上級の物を扱うSランクパーティーや騎士様御用達の店から露店で中古品を扱うものまで様々だ。俺はどこの武器屋に行くことにしようか。
まず、中古品は目利きが重要だ。俺は目利きができるわけが無い。不良品をつかまされて、魔物の目前で武器が壊れるなんて勘弁だしな。それに、俺の武器は何を買えばいいのだろうか。・・・あれ?俺って、どんな冒険者に・・・?
初心忘るべからずって言うけど、その前に初心をなんとかしよう。
俺は冒険者ギルドで先輩パーティーを観察することにした。俺はどのタイプの冒険者が合っているのか?だが、こういうのは憧れで決まってしまい、素質とかは関係なくなってしまうんじゃないか?あの人、めっちゃ格好いいけどあの重量のハンマーを振り回す筋力は俺にはなさそうだ・・・って感じだ。まずは俺の素質を確かめなきゃいけないようだ。何が向いており、何が向いてないのか。
「そりゃ、まずはステータスを唱えてみれば分かるんじゃないか?」
相談する相手なんて、受付おっさんしかいなかったが、まさか完璧な回答が帰ってくるなんて思わなかった。だが、助かる。
「そうですね。助かりました。」
しかし、ステータスか。俺、まだできないし。
「ハイ・ステータスができる人っていますかね?」
「なんだ、ステータスすらできないのか。銅貨2枚で俺がやってやるよ。」
金とるのかよ!?・・・だが、仕方ないか。今の俺には必要な投資だ。
「じゃ、じゃあお願いします。」
ちゃりんちゃりん。
「全てを見透かせ。ハイ・ステータス。」
どれどれ・・・?
シウバ 20歳 男性
Lv 6
HP 180/280 MP 70/70
破壊 4 回復 4 補助 1 召喚 1 幻惑 2 特殊 0
スキル:なし
眷属 :なし
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・なんだ、その。・・・見なかったことにしとくわ。」
うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!なんだこのカスなステータスは!?見事に何にも才能ねえぞ!一応レベル6まで上がってるのにこれか!?どうりで薬草採取の帰りにゴブリンに絡まれて死にそうになるわけだ。
「おう、シウバ。才能とか素質とかねえのは確かにへこむけどよ。・・・長い事この職業やってると、それだけじゃねえと俺は思ってるぜ?」
受付おっさん・・・慰めてくれるのか?
「かの有名な「大召喚士」ハルキ=レイクサイドは召喚の資質以外はほとんどダメだったそうだ。だが、それでもあれだけの偉業を打ち立てたんだから、お前も・・・その・・・、まあお前はどれも素質がないわけだが・・・。」
慰めになってねえよ!そういうのは最後までちゃんとしろよな!
「まあ、・・・そう。成長!成長ってのは人それぞれだし、待機万歳って言葉もあったと思うしな。」
・・・大器晩成な。だが、晩成できるほど冒険者は甘くねえだろ。すぐ死んじまう。
「どれも素質がないってのは、・・・あれだ。全部素質があるっていうのとおんなじなんだからよ。まあ、へこむな。」
無理だ。へこむ。
だが、へこんでばかりいられないのも事実。俺は前を向くぜ。メンタルが弱いなんて言わせねえ。どれも素質がないってのは全ての素質があるのと同じ。この言葉を胸に、先へと進むしかない。つまり、俺はオールラウンダーだ。なんでもこなせて上手い立ち回りで仲間をサポートする、こういう奴を目指す事にするんだ。器用貧乏とか言うな。
「いらっしゃい!」
駆けだしの冒険者が集う武器防具屋。まずはこのレベルから装備を整えていこう。
「どういったものをお探しで?」
「武器なんですけど、どの武器を使うかを迷っていまして。まずは最も一般的な装備を揃えようかなと。」
「それでしたら、やはり剣が最も一般的でしょう。軽装から重装まで幅広く対応できます。」
「このくらいの金額で、よさそうなのを紹介してもらえませんか。」
「分かりました。こちらへどうぞ。」
なかなか対応の良い店だな。助かった。結局、装備一式相談に乗ってもらいながら買い物した。テトにもらった報酬の半分は使っちゃったけど、今後の事を考えるといい買い物だった。と、信じたい。
そして俺は一般的な剣と一般的な軽装に身を包み、冒険者ギルドへと帰ってきている。
「馬子にも衣装とはよく言ったもんだ。」
ええい、うるさいな。これで心機一転、冒険者として依頼をこなしていくぜ!
「ではこっちの依頼の受理をお願いします。」
「はいよ。ついに武器防具も一式揃って、本格的冒険者デビューだな・・・って、薬草採取じゃねえか。」
だって、魔物は怖ぇもん。