1-1 シウバ=リヒテンブルグの号泣
第2部開幕!
第1部のあらすじ
陰謀渦巻くエジンバラ領。
時は「アイオライの治世」。領主タイウィーン=エジンバラはレイクサイド領との力の差を感じとり、全面対決を避ける方針を貫いていた。しかしそれを良く思わないまだ名前の出てこない次期当主!その後ろ盾の筆頭と言われているのが陰謀のせいで後継者が死にまくっているリヒテンブルグ家であった!現実を直視して屈辱を耐え忍ぶタイウィーン派と、死すれども屈辱を良しとしない次期当主派!レイクサイド領には膝を屈するくせにタイウィーン派は遂にリヒテンブルグ家の当主および要人の暗殺を敢行する!揺れ動くエジンバラ領!当主を失って空中分解するリヒテンブルグ家!伝統あるリヒテンブルグ家の執事家系の嫡男であるマジェスター=ノートリオは当主である父親の死とともに仕えるべく主人を探すために旅に出た!
行き着いたのは魔物の発生頻度が最も高いと言われるエルライト領!政争に疲れて平民になったという前当主の弟!その孫というかなり遠めではあるが一応血縁的はまあギリギリ大丈夫そうな男が冒険者をやっているという噂を耳にする!他にいないんだからしょうがない!マジェスター=ノートリオは運命の出会いをする!
しかし立ちふさがるはまたしてもレイクサイド領!そしてその屈指の強者である「勇者」フラン=オーケストラ!彼の無慈悲の攻撃に越えられない壁を感じるマジェスターであったが不屈の闘志で立ち向かう!無数の襲撃の末に両者には師弟にも似た感情が芽生え始め・・・。
シ「これ、お前が考えたの?」
マ「はっ!改心の出来でございます!」
シ「・・・・・・。」
やってしまった。ユーナの他にも2人ほどいたのに・・・。
「えぇっと、シウバ!どうしたのかなぁ?えっと!」
泣き崩れている俺をどう扱っていいか分からずに真っ赤になったユーナが慌てる。ほんと、申し訳ない。
「ほ、ほら!男の子が泣いちゃいけないんだぞ!ねっ!」
その通り。だが、止まらなかったんだよ。申し訳ない。
他の2人は軽く引いている。まあ、当たり前だろう。
「じゃ、俺たちはこれで・・・。」
「待ってぇ!ハル・・・ホープさん!ここに来た意味なくなりますよ!」
「いや、だって俺たち完全に邪魔ものだし。なあ、ヨーレン。」
「えぇ!?そこで俺に振るんですか!?」
ユーナとはどういう関係だろうか。冴えない20代前半くらいの男に、ちょっと頭の薄い30代くらいの男。薄いほうが身分が低いらしい。
「ず、ずいまぜん・・・。」
涙と鼻水でいっぱいいっぱいの謝罪をする。なんて情けねえ姿だよ。
「ほら!泣き止んでよ!」
「う、うん・・・。」
ユーナだ。本当にユーナだ。自分がどれほど彼女に焦がれていたのかを痛感した。もう離れたくない。そう伝えよう。
「ユーナ、もう、いなくならない?」
「うん!あの時はごめんね!第2部隊の奴らに拉致られちゃって!」
「人聞きの悪い・・・。」
「ヨーレン!何か言った!?」
「なんでもありません。」
俺は背中の長剣を鞘ごと取り外す。
「これ、ユーナの剣。ずっと預かってた。ちょっと使わせてもらったりしたけど、きちんと手入れしてあるから・・・。」
「あ!あの時のアダマンタイト?持っててくれたんだ!ありがとう!」
「それで、なんでこんな所まで?」
ユーナがここに来たのはこのホープ=ブックヤードという冒険者が「奈落」を探索するのをたまたま知ってついて来たらしい。もう一人のヨーレンはなんと「神と髪に見放された男」だった。ホープさんはレイクサイド領にとって大切な人なんだとか。それでヨーレンはホープさんの護衛をしているとの事。ユーナも護衛という名目でここに付いてきたらしい。
「まあ、探索以外にもここで生活している集団がいると聞いて興味が湧いた。」
ホープさんは俺たちの噂を聞いたらしい。しかし、この人は召喚士と言っていたが、魔力が半端ない。ちょっとした行動にも召喚獣を使えるほどだ。今も2体のアイアンドロイドが荷物を持っている。ホープさんは手ぶらだ。武器すら持ってない。単純にすげえ。
「探索はどこまで終わってる?」
「今は、第3階層です。第4階層の入り口らしき所は分かったんで、そこまでの近道をしようと部下に梯子を作る道具を買いに町に行かせてます。」
「そうか、ならその部下が帰ってくるまでここにいさせてもらおうかな。俺は第2階層の奥までしか行った事ないから、第3階層はぜひ行ってみたい。」
第2階層の奥まで行った事があるのか!マザースネークが出ただろうに・・・。まあ、この人なら大丈夫そうだ。むしろ俺なんかよりよっぽど強そうだしな。ギルドカードがAランクなのが理解できん。どう考えてもSだろう。
「ユーナ、ヨーレン、ここに野営させてもらおう。数日は動かなくて済みそうだ。食料は・・・どうするかな?何か獲ってこれるか?」
「あ、でしたら討伐した魔物の肉があります。今日は俺がごちそうしますよ。」
「お!それはありがたい!ちなみに何の肉?」
「グレーテストホワイトベアーです。」
「へぇ、食ったことないなぁ。」
「ちょ!?ハ・・・ホープさん!グレーテストホワイトベアーですよ!西の大陸にしかいないんじゃなかったの?もしかして「奈落」にいるの?」
ヨーレンが急に興奮しだした。そういえば、魔物マニアという噂だったっけ?
「第3階層にいます。それも結構いっぱい。俺たちのパーティーでなんとか狩れるくらいの強さです。」
「それってSSランクだろ!?すげえじゃねえか!」
「いえ、俺なんてユーナに比べれば・・・全然。」
「・・・まあ、ユーナとかホープさんは規格外だから、あんまり落ち込むなって。」
「は、はい。」
ヨーレン、髪は薄いのに優しいな。髪は薄いのに。
「シウバ!手伝うよ!」
クマ鍋の準備をユーナと行う。・・・こんな日が来るなんて。
「ねえ、ホープ様。やっぱり俺ら邪魔者ですよね。」
「そうだな、ヨーレン。俺もセーラさん所帰りたくなってきた。」
「おお、旨い!」
クマ鍋は好評だった。やはり、香草マスターの俺のレシピは確かだったのだ。
「これを第2階層の奥の寒い所でたべるとまた格別なんですけど・・・・・・あ、そういえばみなさんウォーム使えます?」
「いや、全然。」
「私も無理かな!」
「俺も使った事ない。」
そりゃあ、ヴァレンタイン大陸で生活していたら不必要な魔法ではある。
「第3階層はものすごい寒いんで、水とか一瞬で凍りますから。ウォームを常にかけておかないと凍傷とか低体温で死んでしまいます。」
「何ぃ!?そのウォームは他人にはかけられんのか?」
「まあ、かけられますけど、2人がいい所ですよ。魔力的に。」
「よし、ヨーレン。残れ。」
「えぇ~!?俺もグレーテストホワイトベアー見たいです!」
「ならば、ウォームなしでついて来い。お前は寒さに弱そうだけど、特に頭部が。」
「髪は関係ないでしょ!?」
なにやら、えらい賑やかである。
結局、次の日にホープさんはマジェスターやエリナの帰りを待つことなく探索をしたいと言い出した。
「ホープさん、言い出したら聞かないから。ごめんね。」
「いや、全然かまわないけど戦力的に大丈夫かな?」
「それは大丈夫よ!ホープさんがいれば私たちはついて行くだけだし!」
え?ユーナも?それで大丈夫なの?
なんと全員フェンリルの召喚ができた。まあ、レイクサイド召喚騎士団に凄腕召喚士だから当たり前か。俺なんかよりも召喚魔法にかけてはすごい人たちばかりだ。
「じゃあ、ついてきてくださいね。」
フェンリルに騎乗して第2階層まで駆ける。やっぱり、俺の全力疾走でも軽々と付いて来る。あっという間に第2階層だ。地底湖も問題なく過ぎた。襲って来ようとする魔物は全て切り伏せる。
「シウバ!強くなったね!」
ユーナほどじゃないけどね。俺、頑張ったからな。
中継地点までついた。
「とりあえず、俺たちはここを中継地点として使ってます。休憩できるようにしてあるんですけど、どうしますか?」
「まだ大丈夫だろう。早く第3階層見たいし、先に進もう。」
「分かりました。」
少しムキになって駆けてきたはずなのに、俺のフェンリルなんかより体力も速度も段違いだ。この人たち、怖い。
第3階層についた。
「そろそろ、気温が下がります。フェンリルから降りてウォームをかけましょう。」
「ざ、ざぶい・・・。」
ホープさんとユーナにウォームをかける。自分にもかけているから、結構な魔力を使うな。
「ヨーレン、お前はこれで我慢しろ。」
なんとホープさんがヨーレンの周囲に10体ほどのサラマンダーを召喚した。あれならいけるのか?というか、どんな魔力量だ!?
「あ、暖かいかも・・・あっち!ちょっと離れて!・・・いや!そこまで離れないでください、お願いします!」
ヨーレンが一人漫才をしているうちに第3階層の吹き抜け広場へと入る。
「このように段差になってる所を何か所か上っていく必要があったんですけど、もうここに梯子をかけてしまおうかなと思ってまして。」
「あー、なるほどね。あの辺に第4階層への入り口がありそうなんだ?」
「たまにシルバーファングとかが出てくるんですよ。それで余りの寒さにすぐに降りてきて第2階層に走っていくのを何回か見ました。」
「シルバーファングが?・・・なるほどな。神楽のやりそうな事だ。」
後半はよく聞き取れなかったな。でもホープさんは何か考え事をしている。
「あ!あそこにグレーテストホワイトベアーがいる!ほら!すっげえ!」
ヨーレンが子供のようだ。サラマンダーのまとわりつかれた禿げたおっさんがはしゃぐ姿にホープさんが苛立つ。あ、殴られた。
「シウバ!ワイバーンでさっさと上がっちゃう?」
!?その手があったな!俺には使えないけどさ。
「そうだね、でも俺の仲間たちが来てから第4階層は探索しようとも思ってた所で、どうしようか。」
「ホープさん!どうしましょうか!?」
「ああ、行こう。」
そういうとホープさんはワイバーンを2匹召喚した。
「おおお!ホープさんの近くだけ暖かい!サラマンダー!もうちょっとこっちへ!」
ホープさんの後ろに乗ったヨーレンが騒いでいる。
「さあ、行こうか!」
久々にユーナと2人でワイバーンに乗ることになった。・・・懐かしいと思うにはまだ数か月しか経ってないのに。
第4階層はあまり寒くなかった。
「これならウォームはいらないですね。」
ようやくウォームをやめる事ができる。あの空間は異常だ。ウォーム使ったままでは疲労と魔力消費が半端ない。
「やっぱり、そういう事か・・・。」
ホープさんが遠くを見つめている。
第4階層に入ったところにはまた大きな空間があった。単純になにもない岩の天井と壁だけの空間である。そしてその先には段差が何段かあり、一番頂上には光の柱が見えた。
「第4階層の存在は知ってても、中に何があるかは誰も知らなかった。さっきのシウバみたいに第4階層の入り口だけを認識したってのが一番奥まで進んだパーティーだったんだろう。ここが「奈落」と呼ばれてるのは、その魔力量も理由の一つだが、魔物の異常な発生頻度も理由だ。そしてその原因がこの「大地の井戸」だな。作ったのはあのアホ神だろうが。」
神?急に次元の違う話をいきなりしてるんですけど?ホープさん何者?
「ユーナ、ここに残ってくれ。俺はジンビーにどうするか聞いて来る。」
「はいっ!分かりました!」
え?どういう事?
「さあ、とりあえず、第1階層まで戻ろう。」
え?え?ジンビーって領主の?え?
ホープさんはヨーレンを連れて帰っていった。急いでるみたいだった。あの光の柱はなんなのだろうか。
「あのさ、ホープさんて何者?」
「うん、聞かないほうがいいと思うよ・・・。」
「そうみたいだね。」
どの分野にも自分の想像もつかない人間ってのはいるもんだ。
「えっと、ここに残るように言われちゃったから、これからよろしくね!」
そういえば、ユーナと2人きりになるんだ。そうか、そうだな。やばい、緊張してきた。
「よ、よろしくお願いします。」
「なんで真っ赤なの!?」
「そういうユーナも赤いよ?」
「えっ!?ほんと?」
勢いに任せて告白なんてしてしまったからな。これで断られたらどうしようか。そして返事をもらってない。怖いからもらわなくていいけど。
「あれぇ?お客様ですかぁ?」
なんてことだ。2人きりの時間が1時間もないとは。マジェスターとエリナが帰って来るのがこんなに嫌なんて。お前ら空気読んで1か月くらい帰ってくんなよ!!!
「あ、シウバの部下の人たちですか?私、ユーナと言います!ちょっと色々と理由があってここにいる事になったんでよろしくお願いしますね!」
「マジですか!?あなたがあのユーナ様!?シウバ様の所に来たってことは!。きゃー!!」
「シウバ様!こうしてはおれません!リヒテンブルグ家直伝の婚礼道具を取りに戻らねば!」
ちょ!?というか、なんでエリナまでユーナの事知ってるの?おい、こら、マジェっち!そこに座れ!
「こ、婚礼!?そ、それはまだ早いというか・・・。」
ほら!ユーナが困ってるじゃないか!
「そうでございました!その前に御婚約の儀式が・・・ブツブツ。」
君たち!早とちりだ!まだ返答をもらってないんだ!そう!まだ早い・・・え?早いって事はその内OKって事か?いや、言葉の綾という事も大いにありうる!油断は禁物だ!下手な事を言うな、お前ら!
「ちょっと、お前ら・・・あの・・・その・・・。」
「シウバ様ぁ!おめでとう!!」
「え?あ、ありがと・・・う?え?いや、違・・・。」
あいつらのせいで、恥ずかしくてその日はユーナとしゃべる事ができなかった。でもユーナが否定しなかったから、ちょっと嬉しかったんだけど。
絶対あいつらには教えてやらん。
次回予告!
愛を確かめ合う2人!
しかし、「テンプレ」にはそれは通用しない!
立ちふさがる強大な壁!
え?それは「なろう」の「テンプレ」じゃない?このままハーレムに行けって?
いや、ハーレムっつったって、誰をあてがうんだよ?
シウバはユーナにベタぼれだぞ?エリナには全く興味示してねえぞ?他の女なんてモジモジしちゃってどうせ話す事できねえぞ?だいたいユーナ相手でもモジモジしてるぞ?ん?これをどうやってハーレムにしろって?な、分かったろ?
えーと、なんて言うつもりか忘れた!
次回「リア充爆発しろ!」
誰が出てくるか分からんだろうな!え?バレバレ?




