7 信じてたのに・・・
7 信じてたのに・・・
「嘘だ。絶対嘘だ」
さきほど見た光景を信じたくない一樹。しかし俺はこの目でしっかりと見た。
一樹の恋人、涼香が見ず知らずの男と一緒に歩いているところを。しかもその男は俺よりもイケメンでかっこいい。文句無しの男だ。
真相を突き止めたい一樹は2人にばれないように後をつける。
涼香たちは映画館へ向かうみたいだ。
俺もこっそりと付いていく。決してバレないように。
何とか映画館のあるフロアに着く。
休日とあってこの日の映画館は非常に混んでいた。
しかし涼香たちは一樹よりもかなり遠い位置にいる。そのため表情を伺うことは出来ない。
「さて、どのようにして近付こう?」
一樹が映画館の入口付近で必死で考えていると
(!!!!!)
一樹の目の前を涼香が通った。
「え?」
俺は思わず声を出してしまった。
(何でこっちに来るの?映画見ないの?)
そのまま一樹に気付かずその場を離れる2人。
もちろん俺も追いかける。するとその時、
「一樹か?」
偶然その場にいたのは一樹の隣のクラスの天野尚哉だった。
尚哉とは同じ中学の友達だったが高校入学とともに別の高校へ行ってしまった。
それっきり会えてなかったが今日偶然ここに来ていた。
「ああ、もしかして・・・尚哉くん??」
「そうだよ。覚えてる?中学以来だよな?」
「うん。覚えてるよ!」
こうして一樹は、すっかり涼香の事を忘れしばらくたわいもない話で盛り上がった。
「じゃあな。また今度」
「おう、またな!」
2人と別れた瞬間。一樹は思い出した。
「ああ! 涼香!」
(やばい、すっかりと忘れていた)
しかしもうそこにはいなかった。
こんな広い店の中から2人を探すのは非常に大変なことだ。
もしかしたらもう帰っているかもしれない。
(しょうがない。諦めよう)
もう諦めて俺はその映画館をあとにした。
「でも本当に許せないな。涼香のやつ。浮気なんかしやがって」
その時の俺の様子は少し強ばっていた。
「本当に今日はありがとな。涼香のおかげで本当にいい買い物が出来たよ」
「うん、喜んでもらえて嬉しいよ」
その頃涼香と兄はもう帰路についていた。
既に夕焼けが出ている。もうこんな時間なのか。
「でも映画が見れなかったのは残念だったな」
兄が残念そうな顔をする。
「ごめんね。私が急に行きたいって言ったから・・・」
どうやらその映画館ではお目当ての映画がやって無かったらしく・・・
「まあしょうがないよ」
俺は落ち込んでいる涼香を慰めた。
「それと・・・・本当にありがと」
兄は涼香の頭をポンポンと叩く。
「もーーう。」
私もついつい兄に甘えてしまう。まるで付き合いたてのカップルのように。
西には綺麗な夕日が2人を押しているようにも見えた。
「やっぱり優しいな私の兄は」
思わず声に出てしまった。
「ん?何か言ったか?」
(やばい、聞こえていた)
「な、何でもないよ」
私は表情をもとに戻す。
こんな楽しい生活がいつまでも続けばいいな~。
これが私の願いだった。
月曜日の朝
いつものように学校に登校する私。すると偶然生徒昇降口付近に一樹がいるのが見えた。
走って一樹の元へ行く。
「一樹くん!おは・・・・」
「チッ」
私の声を聞いた瞬間一樹は私に背を向け軽く舌打ちをした。
当然私は一樹を追いかける。
「ま、待って一樹くん」
教室へ向かう一樹の腕を取る。
「何で私を無視するの?」
すると一樹は涼香を睨むような感じで
「自分の胸に聞いて見ろよ!」
と強い口調で言い涼香の手を振り払い教室に走って行ってしまった。
「わ、私何かした??」
わたしもそのまま少し重い足取りのまま教室へ向かう。
(何で?何でなの一樹くん。私…何もしてないのに何で冷たいの?ねえ一樹くん)
教室へ入りそのまま席に着くが一樹は話しかけてくれない。
いつもなら
「おはよう涼香」とか
「今日の髪型いいね」とか
「今日も授業あるよ。マジだりーな」
とか、いろいろ話かけてくれるのに。何で?
私はそのショックからか、その日の授業は全く頭に入らなかった。
それどころか逆にそのことばかり考えてしまいどんどん頭が重くなる感覚が出てきた。
そのせいで先生にも
「おい、山西涼香!お前授業ちゃんと聞いているのか?」
などと何回も注意されてしまった。
でも何とか1日の授業を終え校舎を出た。するとその近くに一樹がいた。
しかし私の姿を見るとその場から走って逃げようとする。
「待って。待って一樹くん」
私は必死で一樹を追いかける。その時!
ドサッ
一樹が足を絡ませてその場で派手にこけた。運良く?その場には私1人だったので誰も見ていなかった。
「大丈夫?一樹くん?」
私は和樹くんに手を差し出す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「痛い所は・・無い?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その場に立ち上がった一樹は軽く汚れを落とし再び歩き出す。
「ねえ待ってよ一樹くん。何で私を無視するの?」
すると一樹は足を止め、
「まだ気づかないのか?浮気だよ浮気。」
「え??う、浮気??」
「もう気がついているだろ。俺見たんだよ。お前が別の男といる所を」
「は??」
私は全く意味が分からなかった。
「ど、どういうこと?」
再度私が質問すると
「まだ分からないのか?この前の休みの日。お前が別の男と一緒に歩いていただろ?俺はしっかり見たからな」
「は・・・?」
「俺、お前のこと信じてたのに・・・」
(あ!!!!!!)
ようやく私はピンと来た。
「ち、違うの一樹くん、あれはね私の兄が・・・・・」
(そういえばまだ一樹には私には兄がいること言ってなかったよね。これで納得してもらえるかな?)と思っていた。
しかし、
「そんな嘘信じれるわけないだろ!お前に兄がいるなんて俺知らないし」
(ダメだ。信じてもらえない)
「いや、本当なの。この前うちの兄が買い物に付き合ってほしいと頼んできて、それからあの店で・・・」
「もういい。お前の嘘話は聞きたくない。とにかく俺には2度と話しかけるな。じゃあな」
そう言い残し一樹は帰っていった。
涼香を取り残して………
「か、一樹くん。」
その場で跪く涼香。
(何で?何で信じてくれないの??ねえ一樹!!)
その時突然、神のイタズラなのか、大粒の雨が降り出した。
その雨は涼香にとって悲しみの雨のようにも感じた。
~続く~