2 決心
2 決心
いつも通りのあさが来た。西から昇る太陽が部屋の窓越しに流れ込む。
「涼香――。早く起きなさい」
下から母親が涼香を起こすため、声をあげ部屋に入り込む。しかし涼香はこの日も、
「今日も気分悪いから学校休む」
とだけ言い、早々に母親を部屋から追い出した。
涼香が不登校になり既に1ヶ月が過ぎた。流石に親にはいじめが原因とは言えないので何かと嘘を付いたり仮病を使ったりして何とか1ヶ月間、学校を休み続けた。親も当然のように不信感を持ったが両親が涼香に甘いので何とかここまでこぎつけたようなもんだ。しかしこのまま嘘をついて休んでもいずれはバレてしまう。
(明日、久しぶりに学校行こうかな・・・)
涼香はついに決心をした。
「おまえら。1限は移動教室だからな、急げよ!」
学校ではいつものように授業が始まろうとしていた。
今日の1限は移動教室。化学の授業だ、校舎2階の化学室へ向かう途中、同じクラスの藤木が転校生の野田へ話しかけた。
「おい、一樹!お前学校生活慣れたか?」
「う~ん。段々慣れてきたよ。それも君たちが僕に優しくいろいろ教えてくれるからだよ。本当にありがとな」
段々とクラスに馴染んできている一樹。しかしそんな一樹も1つの疑問点が浮かんできた。
一樹はすぐ隣にいた藤木へ疑問を投げかけた。
「そういえばさあ、うちらのクラスって1つ空席あるよね?俺が転校してきた時から空席だけどあそこって誰の席なの?」
一樹が転校してくる数日前まで同じクラスの涼香がいじめにあっていたことは一樹は知らなかった。
「ああ、あ、あそこの席は、今休んでいる奴の席だよ。お前が転校する前から休んでいるからな。おい、それより授業遅れるから早く行くぞ!」
詳しい理由を教えてくれなかった藤木。
そのことばかりが気になり一樹は全然授業の内容が頭に入ってこなかった。
化学担当の藤田先生の話が全く身に入らない。
余計に考え込んでしまい、先生から目を離し自分の世界に入る。
するとその時、
「おい、野田!聞いているのか!」
クラスの目線が一気に一樹へ注がれる。
(やっちまったーーー)
一樹は心の中で後悔した。
授業終了後、一樹はクラスで1番初めに親友になった神田くんの所へ行き、さらに詳しい話を突き止めることにした。
「ねえ神田くん。ちょっと聞きたいことあるけどいいかな?」
「おお?どうした。野田!」
神田くんはクラスでもノリがよくみんなから慕われている存在だった。
そんな神田へ先ほどのさらに詳しい話を聞く。
「俺が転校してきた時から休んでいる人っているの?この授業前に藤木くんに聞いたけどあまり詳しく教えてくれなくて・・・。」
すると神田の顔が少し暗くなった。まるで何かを隠しているみたいに。
「誰にも言わないと約束してくれるか?」
そう言い、人気のない場所へ誘いこっそりと涼香の出来事を教えてくれた。
「・・・・・まあこういうことがあってから涼香は来てないんだよ」
あまりの衝撃的な発言にびっくりした表情の一樹。
(まさかこのクラスにいじめがあったなんて・・・)
一樹は驚きと衝撃の表情に少し動揺していた。
「おい、早く行かないと2限遅れるぞ。」
神田に促されやや急ぎ足で次の授業へ向かう。
「涼香さん・・・・・」
この時一樹は何かを企んでいる様子だった。
翌日の朝。
「やっぱり今日も休みたい。」
いつものように学校に行きたくないと言う涼香。
「でも昨日、明日は学校に行く、と言ってしまったし。ああどうしよう」
布団に潜り込み全然出れない状態になった。
そしていつものように母親が部屋に来る。
「涼香!今日もまた休むの?」
さすがに数日連続で休んでいるのでもう休むことが前提で母親が部屋に来るようになっていた。
「ごめん、今日も休む。なんか気分が冴えなくて。」
そのまま布団に入りそのまま夢の中に入ってしまった。
気が付くと既に夕方4時。
「え?もうこんな時間。私今まで寝てたの?」
もう時間は正午はおろか、夕方4時を回っていた。
さすがに眠気は消えたので部屋においてある漫画を読むことにした。
もう8割以上は読んでしまったものばかりだが意外とこんな時間も楽しかった。
しばらく読書時間に耽っていると突然、玄関のチャイムが鳴った。誰か来たみたいだ。
下にいた母親が対応する。
すると母親が2階に上がって来た。
「ねえ涼香。あんたの同じクラスの友達が来てるわよ」
涼香は耳を疑った。
(うちのクラスの友達がわざわざ来る訳がない。何かの間違いだ)
と言いたい気持ちを我慢し、仕方なくあがってもらうことにした。
母親が2階へクラスの友達を通す。
コンコン。ノックの音が部屋にこだまする。
誰かが来た。涼香が自分の部屋に友達を通すのはこれが初めてだった。
「はいどうぞ」
ガチャ。
ドアが開く。
「お邪魔します」
涼香は目を疑った。
「あの・・・どちら様ですか?」
何とそこに立っていたのは野田、野田一樹だった。
「初めまして涼香さん。僕は涼香さんがいない間にクラスに転校してきた野田一樹と言います。よそしく・・・ね」
なれない対話に戸惑いはあったものの何とか涼香も話すことが出来た。
「私は涼香。よろしく・・・」
もちろんお互いは会うのはこれが初めてだった。まだ慣れていない気持ちもありながらも野田は涼香のもとへ近づき軽く話し始めた。
「今日は突然来てしまって本当にごめんね。実は別のクラスメイトからお前がいじめにあっていて不登校になっていると聞かされてな。俺が心配になった、とういうこともあるし。
何て言えばいいんだろうな・・・。まあ簡単に言えば今日はお前を説得しに来た。」
「!!?」
涼香は思わず
「はぁ?」
と言ってしまった。
驚くのも無理はない。突然クラスメイトが、しかも転校生がいじめで不登校になっている生徒に説得というものがあるのか。仮にあるとしても何人かで来るとこが多い。それがたっての1人で、それも転校生が。
「え?え?ごめんなさい。何を言っているのか理解できません」
どうやら涼香の心は未だに心の整理が出来てないらしい。
「本当に驚かせてごめんな。ただ俺は、お前が学校に来て欲しい!ただそれだけだ」
一瞬涼香の心が動かされ明日から行こうと決意するがその瞬間あの光景が蘇ってきた。
それは、あの時のいじめの光景。
私も本当は学校に行ってもっとみんなといろいろ話したい。もっと青春がしたい。しかしいざ学校に行くとまたいじめに遭うかもしれない。そんな悪夢が涼香の心の中で葛藤していた。
「私だって、本当は行きたいよ。でも私はいじめにあっているから。そんな光景に耐えられなくて・・・」
涼香は学校に行きたくないとう訳ではない。むしろ学校には行きたいと気持ちを強調し一樹に訴える。すると一樹はゆっくりとこう語りだした。
「俺は、君はいじめが原因で学校を休んでいるとクラスメイトから聞いたよ。確かにその気持ちは俺にもよく分かる。実は俺の友人もいじめにあっていたからな。俺はもともと鹿児島に住んでいた。当時、小学校に通っていた俺の同級生女子がいじめにあっていたらしい。そのきっかけはよく知らないがほんの些細なことだったらしい。俺はいじめをしていた奴が本当に許せなくて許せなくていつもこっそり先生や親に相談していた。『俺の友達がいじめにあっている。どうにかしてくれ』ってな。それ以来いじめは無くなったけど、もしあの時俺が誰にも相談していなかったらあいつはずっと嫌な目にあっていたかもしれない。本当にあの時は相談してよかった!って心から思った。だから君も迷わず誰かに相談すれば良い。絶対に君の味方だ。何かあったら俺が守ってやるよ。それは保証する」
話し終えた瞬間、一樹はゆっくりと涼香を抱いて
「俺が必ず涼香を守る。約束だ」
「!!」
涼香は何も言えないくらいドキドキしていた。
(こんなイケメンが私を、守ってくれる!?)
涼香の心は少し少し明るい方向に向いていった。
「こんな少ない高校生活、学校に行かないともったいないだろ?」
一樹の言葉は一言一言が心に染みる。
「あ、ありがと。一樹くん」
今の涼香はこんなことしか言えなかった。
「私、今の一樹くんからの言葉で決心がついた。私、明日から学校に行くね」
これこそ一樹が求めていた言葉だ。
「おお、そうか!よく決心した。俺も全力で応援するから。何か困ったことがあったらすぐ相談しろよな!」
「うん!本当にありがとうね!」
涼香は心から一樹に感謝した。
「和樹くん・・・・かっこいいな」
それと同時に涼香は少しずつ一樹へ想いを寄せていくのであった。
~第3章へ続く~