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1 いじめ  そして絶望の高校生活

1 いじめ、そして絶望の高校生活


「以上で授業を終わります。ありがとうございました」

4限の授業を終了するチャイムが鳴り数学担当の大野先生が教室から出て行く。

この後は昼休憩。たくさんのクラスメイトが仲のいい友達達と楽しく弁当を食べる時間だ。教室を見渡すと女子達が5~6人で固まって食べている所もあれば男子達も10人くらいのグループでスマホをいじりながら食べている。そんな中私はいつも1人。今日も、そして明日も、教室の片隅で地べたに座り貪るように食べる。当然他のクラスメイトはそのことを知っているが誰も私には話しかけて来ない。もちろん「一緒に食べよ」何て言う人もいない。今日も地獄のような時間が始まった。9月から2学期に入り、数日経っているが約4ヶ月前から始まったいじめは未だに続いている。そう、私はずっといじめられる運命なのだから。


私の名前は(やま)西涼(にしりょう)()。鳥取県の高校に通う高校2年生。私の一番の悩みは同じクラスの女子からいじめにあっていることだ。涼香たちのクラス2年A組は女子16名、男子11名、計27名のクラスだった。その女子の一部からいじめにあっている。それはほんの小さなことがきっかけだった。

今でも昼休みに入る度に当時のことを思い出してしまう。その出来事は約4ヶ月前の高2の5月頃に・・・

(だめだ、今思い出しただけで涙が・・・)

涼香は急いで涙を拭き取りいつものように教室の隅に向かう。そしていつもそこで1人で食べているのだ。そんな様子を見てクラスのリーダー的存在の松田麻里(まり)がニヤニヤしながら私の近くにやってくる。ポケットに手を突っ込んだまま、モデル歩きをするような感じで、どんどん私に近づいて来る。

そして私の目の前に来ると座っている私に対してまるで汚い物を見ているような目線で、

「あ~ら~。涼香さん。あなた今日も1人弁当ですか?」

その声はまるで私を見下すかのように言っているのは一瞬で分かった。

私は(はい、そうです)と言いたかったが何故か変に緊張してしまい小声で

「え、ええ。今日も1人で・・・」

と言うことしか出来なかった。

すると麻里は

「あら~そうなの?可哀想にねー、そういえばあんたいつも1人だよね~」

さらに涼香を下で見るように言葉の追い打ちをかける。

「そ、それがどうかしたの?」

クラス1のリーダー的女子に対して涼香は問いただした。

「はあ?あんたバカァ?なにその態度は!?それがあんたみたいなド底辺女子がクラス1のリーダー麻里様に向かって言う態度なの?」

突然の麻里から言葉に驚きを感じ空いた口が塞がらない涼香。すると麻里たちの親友が数人涼香の元へ集まってきた。

「あんたさあ、ここの麻里さんに向かって何でタメ口で話しているの?」

麻里の大親友、桜庭麗奈(さくらばれな)が涼香に詰め寄る。

「大体ね、あんたみたいな無能な人間がクラスメイトにタメ口で話すなんて100年早いんだよ。そんなことも分からないなんてバカなの?」

同じく大親友の島田奈々も問い詰める。

気が付くと涼香の周りには数人の女子が囲み逃げ場がない状態になっていた。

「早く麻里さんに謝りなよ。『私みたいな無能な人間が麻里様に向かってタメ口で話し、申し訳ありませんでした』って謝りなよ」

「まったく、本当にクズなんだから」

「は~、あんたを見ているだけで吐き気がするよ。気分悪いから早く消えなよ!」

多くの女子が口々に言葉を発する。涼香の心はもうボロボロになっていた。

(私、もうダメだ。こんな生活耐えられない!)

私はそのまま数人の女子を振り払い、勢いよく教室を飛び出した。

今にも泣きそうになりながらトイレの個室に逃げ込む。

「私、悔しい。」

自分の弱さで涙がどんどん溢れてくる。その涙は自分がいじめにあっているからでは無くその自分の弱さのために出ている涙だからだった。

「もっと、私が強かったら・・・・」

そのまま涼香は泣き続けた。


どれくらい経っただろうか。

涼香は気がついたらその場で眠っていた。腕時計を見れみるがまだ15分しかたっていなかった。

「意外と時間経つの遅いな」

呟いたその時、

トイレの入口ドアが開いた。誰か入ってきたみたいだ。

「もしかして~涼香ってここに逃げ込んでいるのかなあ~」

「!!」

(やばい。あいつらだ)

涼香は今入ってきたのが麻里たちだ、とすぐに感じた。なぜなら声の特徴はもちろん、私が傷付いて逃げ込む先はもうこのトイレしか選択肢が無かったからだった。

「涼香さぁーーん。そこにいるのはわかってますよ~。私たちに何か言うことあるのではないのかな~」

相変わらず麻里たちに謝れと強く強要してくる。

当然、ここですぐに謝罪して出て行くというのは私のプライドが許さなかった。

私は仕方なく無視することにした。すると諦めたのか麻里たちがこそこそと話し始めた。

個室のドア越しに聞いてみるとそのまま出ていったようだ。足音が段々と遠くなるのが分かった。

「は~」

安堵のため息をついたのも束の間、突然個室の上から水が振ってきた。その直後に鉄製のバケツが涼香の頭を直撃する。

「!?」

私は何が起きたのか分からなかった。当然だが制服も何もかもびしょ濡れだ。

「え?何・・・これ??」

涼香は何が起きたのか分からなくその場で立ちすくすことしか出来なかった。

「どうしよう・・・冷たいし寒いし」

パニックになり再び泣き出しそうになりその場から急いで出るとそこには麻里たちが立っていた。

「あら?あなたいたの?」

麻里が涼香に向かって呟いた。

「何で・・・こんなことを??」

今の自分の状況が理解しにくくただただ麻里たちを見ることしか出来なかった。

「だって~あなたの声がしないからいないと思っていたんだよ~。だから水をかけても誰もいないのかな~って思っていたら、まさか涼香がいるなんて。誰も思わなかったよ。」

とても理不尽な言い訳だ。もちろん麻里たちはここに涼香がいるのは知っていた。なぜなら涼香が教室を飛び出した直後にばれないように後をつけたからだ。そしてトイレの個室に入るのを確認し、バケツいっぱいの水をかけてやろうと実行した犯行だったから。

「だからって、ここまでしなくても。」

少し弱気になりながらも勇気を持って麻里たちに立ち向かう涼香。

すると麻里は今までに出したことのないくらい大きな声で、

「それならさあ!あんたが早く謝ればいい話じゃないの!本当に何をしてもノロマでクズだから!」

まさかの逆切れだ。私もすぐ謝ればよかったのかもしれない。でもここまでは流石にやりすぎだ。

「それよりさ、次の授業どうするの?」

そう。もうすぐ5限の授業が始まる時間だ。

(どうしよう、このままじゃ受けられない)

もちろん濡れた制服はすぐには乾かない。どうしよう、どうしよう・・・・・

「じゃあ、私たちは先に教室に戻るから。じゃあね~」

麻里たちはそのまま教室へ帰ってしまった。

当然、私を置いて。

悲しさと悔しさと自分へのもどかしさが入り混じり再び自然と涙が溢れてきた。

すると涼香の涙を遮るように校内放送がなる。

『2年A組の皆さんに連絡します。次の5、6限の英語授業は担当の伊藤先生が出張のため、自習となります。2Aの皆さんは静かに自習をしてください』

「え?自習?」

涼香たちの通う学校ではたまに次週になる場合がある。その場合、監督の先生も来ないし、生徒にとって一番の至福の時間でもあった。自習になれば大体2通りに分けられる。真面目に自習する生徒もいれば、スマホ、ウォークマンは当たり前、最悪の場合カオスとも言える空気になってしまうのが特徴だった。

この結果に涼香も喜んだ。

「ラッキー。私は今こんな状況だから先生にばれなくても済む。このままこっそり帰ってしまおうかな。」

もちろんこのまま私が

「同じクラスの女子に水をかけられました」とか言ったらクラス会議になってしまうので黙って帰り別の場所で学校に連絡し何か適当に仮病でも使えばいいだろう。と頭の中で計算済みだった。

しかしそのためには1度荷物を取りに教室へ行かないといけなかった。

「問題はどうやって行くか、だよね」

しばらくその場で考えてみるが中々アイデアが浮かばない。

「う~ん。まあ普通に行けばいいか!」

と思い込み8割方乾いた制服を着たままゆっくりと教室に入る。

ガラガラガラガラ

教室のドアを開けるが自習時間は無法地帯に等しい。騒いでいるためドアが空いた音なんで聞こえない。そのまま黙って自分のロッカーに行き荷物をまとめ速やかに廊下に出る。

「良かったー。誰にも見つからなかった。」

そのまま足早に玄関に向かい一目散に校舎外に出る。

そして一番近いバス停に向かい自分の携帯で学校に電話をする。

「あの~すいません。2年A組に山西涼香ですが・・少し気分が悪いので早退します。・・はい。・・・・はい、はいそうです。・・すいませーーん」

何とか成功した。しかし、もしこのことを親に聞かれたら何て言おう?

そんな不安な気持ちもありながらあえて遠回りをして帰宅することにした。


そして帰宅途中に私は1つの決断をした。

「でももうこんな生活耐えられない。どうしよう、しばらく学校休もうかな・・・」




涼香が不登校になって数週間後。誰も涼香の話題に触れることも無く時間だけがすぎていった。クラスの誰1人涼香のことを心配する者はいない。それどころか涼香がいなくて嬉しい、という人が大多数だった。

「最近涼香来てないよね」

「そのほうがいいよ。あいつがいるだけで空気が汚れるから」

「本当本当、いなくてせいせいするよ」

連日、こんな陰口が教室内のあちこちから聞こえた。

そんなある日の朝、HR(ホームルーム)で2A担任の高橋先生から

「今日は転校生を紹介します」

クラス全員が驚いた。今の時期に転校生?

クラスがざわついていると1人の生徒が教室へ入ってきた。

見るからにイケメンで明るいその生徒は少し緊張した様子で教室へ入った。

「さあ、自己紹介を」

高橋先生からが促すと

「皆さん、始めまして。この度、鹿児島県の高校からこちらの鳥取県の高校へ転校しました。野田(のだ)一樹(かずき)と申します。まだまだ分からないことだらけですがどうぞ、よろしくお願いします。」

教室のあちこちから拍手と

「よろしくな」

「こちらこそよろしくね。」

中々幸先いいスタートだ。先生も転校生一樹も一安心した。

「じゃあ野田君。君の席はあそこ。」

先生は教室の前から3列目の一番右の席を指さした。

そのまま指示された通りその席に向かう一樹。

一樹が席に着くとその隣の横山瞳が

「よろしくね。野田君。私は横山瞳。分からないことは何でも聞いてね」

優しく声をかけてくれた。

野田は転校生ながらもその恵まれたルックスに早くも女子全員が虜になりそうなほど存在感があった。

一樹の席から少し離れた女子のリーダー麻里でさえ

「かっこいいな。野田君♥」

既に釣られていた。

そしてこれから野田にとって新たな高校生活が始まるのであった。

そして不登校中の涼香も、これから意外な人生になるとはこの時、思ってもいなかった。




2章へ続く





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