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のど飴、上履き、時計塔

掲載日:2008/01/02

※注意※ハッピーエンドをご期待の方は、覚悟していただきますようお願い致します。

 僕は、時計塔の中央にある螺旋階段に足をかけた。 時刻は夜の11時過ぎ。外では、純白の羽毛のようにふんわりと、雪が降り続いている。

 時計塔の中には雪が降っていないけど、そのぶん、身を切るようなキンとした寒さばかりが目立って、まるで冷凍庫の中にいるような気分だ。階段を登りながらはく息が白い。僕は、一段一段、踏みしめるようにして階段を登っていった。 何段ぐらい上っただろうか、ようやく階段を登りきり、時計塔の屋上へと続く扉の前にたどり着いた。冷たく思い鉄製の扉を押し開けると、そこには、素晴らしい景色が広がっていた。



 時計塔は、市街地を少し離れた高台に建っているのだけれど、その屋上からは、市街地から放たれた光が降り注ぐ純白の雪に反射して、世界を漆黒に染め上げる宵闇を拒絶するかのように燦然と光輝く様子が一望できる。

 彼女は、よくこの光景のことを話してくれた。

「春の麗らかな青空の下に広がるここからの景色もいいけれど、夏の夜の満天の星空の下に広がるここからの景色もロマンチックで素敵だけど、秋の夕暮れに包まれた哀愁漂うここからの景色も捨てがたいけど、でも、一番好きなのは、冬。しかも雪の夜にしか見れないここからの景色だけが唯一、私を、この世に繋ぎ止めるほど魅了するの」

 彼女が、そういって、微笑みながら僕のほうを振りかえってくれたあの夜は、残念ながら夏だったけれど、あの時、僕は景色なんてどうでもよくて、実は、君の顔ばかりみてたんだ。

「どの季節のここからの景色よりも、君の笑顔が一番素敵だと思うよ」なんて、さすがにこっ恥ずかしくていえなかったけど。というより、そんなことを言った日には、君はきっと顔を真っ赤にして頬を膨らませて、「ばば馬鹿じゃないの!」なんて言いながら僕に殴り掛かってきたりしたんだろうけど。



 思い出に浸るついでに思い出したけど、僕はまだ、君にもらった魔法の“のど飴"、使わずに大事にもってるんだよ。嫌なことや、困難なことがあるたび、お守り代わりにいつも持ち歩いてるその飴を取り出しては祈るんだ。心が弱くて、すぐ挫けそうになる僕に、君はこの飴をくれた。

「この飴には、私の元気が注入してあるの! もし、本当にどうしようもない困難に直面して、死にたくなるぐらい挫けそうになったら、この飴を舐めるの! この飴をなめながら、三回深呼吸すると、どんな困難だって一発で解決出来るんだから!」

 この世に不可能なんかないって顔をして、胸を張りながら得意気に話す君を見たら、悩みなんかどっかにいってしまって、僕はつい吹き出してしまったんだった。君は、「あ、信じてないな! ふん、いいもんね、そんな奴にはあげない!」とか言ってすねちゃって、僕は三回まわってワンとかいう罰ゲームまでやらされてようやく君の機嫌をなおして、この魔法の“のど飴"を手に入れたんだった。でもね、折角もらったのに、結局つかってないんだ。だってさ、どんな困難だって一発で解決出来る“のど飴"だよ!いざ使いたくなるような場面にでくわすと、いや、まだここで使うにには惜しいな…とか考えちゃって、結局、自力で解決してきちゃったんだよ。いざというときはこの飴があると思うと、不思議と気持ちにゆとりが出来て、この飴は、いつしか僕の御守りになってたんだ。

 そういえば、君はもう一つ宝物を持っていたね。そう、いつだったか君は、君のあのお気に入りの上履きは“魔法の上履き"なんだって話してくれた。

「この上履きを履いて、目をつぶって行きたい場所をイメージしながらジャンプすれば、一瞬でそこに連れていってくれるんだよ!」

 僕が、「じゃあ跳んでみてよ」っていうと、「きき今日は調子が悪いからちょっと無理なの! な、なによ、本当なんだから!」とかいいながら、僕にキックをかましてきたんだった。




 ねえ、君は結局、君の望む場所へ飛んでいけたのかな?

 君がいなくなってから、僕は毎日が後悔の連続だった。もし、僕が君からどんな困難だって一発で解決出来るこの魔法の“のど飴"を取り上げなかったら、君がその上履きを使うことは無かったのかな?

 僕がもっとしっかりしてたら、いつも明るそうにしていた君の本当の顔に気付いてあげられたのかな?

 君がこの時計塔の屋上から旅立ってしまった今となっては、君にそれを確かめるすべは無いけれど。いや、実際はある。けれど、僕にその勇気が無いだけだ。だから僕は、今こそこの飴を使おうとおもうんだ。

 僕は、魔法の“のど飴"を口に放り込み、目を閉じて深呼吸を三回繰り返したあと、一歩ずつ歩み始めた…




(翌朝、日売新聞より)

 今日、午前7時頃、◯◯市内において、男性の遺体が発見された。

第一発見者は同市内に住む主婦で、毎朝の日課であるジョギングの最中、市街地から少し離れた場所に位置する時計塔の付近で遺体を発見した。遺体の身元は、その遺留品から市内にすむ男子高校生であると判明。警察は、自殺として捜査を進めているが、先月も、同じ時計塔から女子高校生が飛び降り自殺をしており、事件の関係性を調べている〜

 初めまして、アサガタネムルと申します。今回、初めて完結した小説を投稿させていただきました。元々は、小説をかく練習として、三題噺を書いていたとき、“のど飴"、“上履き"、“時計塔"という全く関連性のないお題のもと書いたものです(笑)最後までお付き合いいただき有り難うございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめましてleftです。 ・文章はなかなかだと思いました(^-^)V ・ストーリーがもう少し濃いほうが良いと思い星2つにしました(^。^;) もうちょい『彼たち』の関係や過去を書いたら…
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