劇
観客は三人しかいなかったが、ナレーションとともに小さな舞台の幕が上がった。
劇は若い人形師が自分の腕の良さを証明するために人間と同じ大きさをした、美しい人形を作ったところから始まる。
良く出来た人形は意思を持って一人で動きだすのだが、感情がなかった。そのため、いろいろな失敗、失言をして町の人々と衝突した。だが、人形には悪気がなく、その純真無垢な姿に町の人々は心を許していった。
そうして人々と交流をしていくうちに人形にも変化が現れる。少しずつだが、感情が芽生えてきたのだ。徐々に町の人々と仲良くなった人形は、楽しい日々を送っていた。
そんな、ある日。動く人形がいるという噂を聞いた王様が人形を城へ献上するように命令してきた。人形師と町の人々は頭を抱えたが、命令には逆らえず、兵によって人形は城へと強制的に連れていかれた。
城に連れて来られた人形はほとんど話さず、ついには動かなくなった。人形の美しさの虜になった王様は、人形を笑わそうと国中に御触れを出す。
人形を笑わすことが出来たら、なんでも褒美をやるというのだ。国中からいろんな人が集まったが、人形を笑わせられる人は誰もいなかった。
誰もが人形を笑わすことを諦めていた、ある日。城に一人の道下師が現れた。
どこか落ち着かない様子の道下師を門番は不審に思ったが、王の命令であったため城の中に案内した。
王と人形の前に連れて来られた道下師は手品や玉乗りをしたが、全て失敗する。その下手ぶりに王が呆れて追い返そうとするのだが、そこで人形が微笑んだ。
そのことに王が驚き、道下師にもっと芸をさせると、人形は笑顔となり、最後には声を出して笑った。
人形の笑顔が見られた王は、約束通り褒美をやるので欲しいものを言えと道下師に言った。すると、その道下師は人形が欲しいと言った。その道下師は実は人形を作った人形師だったのだ。
人形は芸を見て笑ったのではなく、人形師の姿を見て笑ったのだと気が付いた王は激怒した。怒りにまかせて剣を抜いた王は、その場で人形師を殺した。
その光景に人形は死んだ人形師の体を抱き上げて一筋の涙をこぼした。そして、そのまま永遠に動かなくなった。
歌あり、踊りありのミュージカル調の劇はここで静かに幕が下りた。
劇の余韻が流れる中、桜葉の声が響いた。
「どうだった?龍神さんにピッタリの役だと思うんだけど」
再び幕が上がった舞台から感想を求めて桜葉が下りてくる。
紫依は素直に感想を言った。
「このまま主役を桜葉さんがしても問題ないように思いました」
「だから、それだと外見がダメなの。王様を虜にする美しい外見が必要なんだから。で、出来そう?どこか難しそうなところがあった?」
ぐいぐいと詰め寄ってくる桜葉に紫依は逃げることなく、あっさりと言った。
「動きは全て覚えたので出来ると思います」
その発言に演じていた部員たちが硬直する。オーブは笑顔のまま心の中で夕日に向かってバカヤローと叫び、朱羅は出来て当然のように頷いている。そして裏方の部員たちは片づけていた手を思わず止めていた。
桜葉が確認するように訊ねる。
「でき……るの?いますぐ、出来る?」
「はい」
頷く紫依に桜葉が狂喜乱舞する。
「さすが、私が見込んだだけのことはあるわ!じゃあ、さっそく第一幕から練習よ!」
桜葉の指示にオーブが慌てて飛びつく。
「今、この服ない。あと、用事ある。練習、明日から」
オーブが言った、この服とはジャージのことである。
「あら、ジャージなら予備があるから貸すわよ」
「用事、ある」
にっこりと怖いぐらいの笑顔で桜葉を見つめるオーブに冷泉院が加担する。
「いきなり練習は大変だろう。用事があるって言っているし、今日はこれぐらいでいいだろ?いきなり飛ばして疲労で倒れたら大変だし」
「……それもそうね。じゃあ、今日はここまで。明日から、よろしくね」
「はい」
桜葉の言葉に返事をしたのはオーブだった。そして、そのまま二人を引きずるように部室から出ると、家まで駆け足で帰った。
そして家に到着するなり、オーブは紫依と朱羅を床に正座をさせて普通について懇々と説明したという。




