普通について
金髪の美少女の存在に気が付いた部員たちが再び騒ぎ出した。
「冷泉院、その子誰?」
「モデルみたい!」
「その子のほうが主人公にピッタリじゃないですか?」
「この金髪なんて、本当のお人形みたい!」
わらわらと集まってきた部員から隠れるようにオーブが紫依の後ろに逃げる。
その様子に冷泉院が両手で部員を止めた。
「エンフィールドさんは留学生で日本語の勉強中だ。まだ、うまく話せないし、この二カ月で台本を覚えるなんて無理だぞ」
冷泉院の説明に集まりかけていた部員が下がっていく。
「それは残念」
「絵になると思ったんですけどね」
「仕方ないわね」
周囲から人が離れたところで、オーブは小声で紫依に話しかけた。
「なるべく普通にしろと言っただろ」
「さっきのは普通ではないのですか?」
「会話は一対一が基本だから」
「……普通って難しいのですね」
どこか沈んだように紫依が俯く。その姿にオーブが軽く息を吐いて紫依から少し離れる。そしてオーブがオリビィアとして声をかけようとしたところで、紫依が顔を上げて部室の入り口を見た。
紫依の様子に桜葉が首を傾げる。
「龍神さん、どうしたの?」
怪しむようにドアを見る桜葉の前を塞ぐようにオーブが軽いステップで躍りでる。そして、そのまま部室の入り口まで行って勢いよくドアを開けた。
「シュラ。そこ、ずっといたら、邪魔です」
オーブが開けたドアの前には背が高い茶髪の青年が立っていた。
「ずっと?今、来たばかり……」
青年の反論にムーンライトブルーの瞳がきつく睨む。そのまま青年を黙らせたオーブは満面の笑顔で部室内に引き込んで紹介をした。
「彼は、私と同じです。紫依の家にホームステイしている。名前はシュラ・カミン。三年生です」
オーブに連れ込まれた青年は、不揃いな茶髪で目がほとんど隠れている上に太い黒縁メガネをかけていた。そのため顔立ちは分からないが、背は高く男子学生と同じぐらいの身長があるオーブが隣に並んでも頭一個分高い。
紫依が微笑みながら青年に声をかけた。
「よく、ここにいると分かりましたね」
「……噂になっていたからな」
「噂、ですか?」
軽く首を傾げる紫依に青年が説明する。
「転校生と留学生が演劇部の部長に連行されていた、と」
冷泉院が頭を抱えて座り込む。
「三年のところにまで噂になっているのかよ。しかも留学生の耳に入るぐらい……」
一方の桜葉は気にした様子なく青年を笑顔で迎えた。
「私は演劇部の部長をしている桜葉よ。しばらく龍神さんを借りるわね」
無言で頷く青年の全身を見ながら桜葉は顎に手を置いた。
「良い体格をしているのに、そんな髪の毛で顔を隠して勿体ないわ。切ったら?」
桜葉の言葉をオーブがにこやかに断る。
「シュラ、恥ずかしがり屋。日本語、上手。けど恥ずかしくて、話すない。それより、私、劇が見たい」
オーブの提案に桜葉が笑顔で頷く。
「そう、そう。どんなものか見せようと思っていたのよ。龍神さん、時間ある?」
「はい、時間は大丈夫です。できれば最初から最後まで見せてもらえると助かります」
「そうね。流れとか雰囲気とか知っといたほうが良いだろうし。じゃあ、全員が集まったら、一度、通し稽古をするわよ」
そう言って準備を始める桜葉の後ろ姿を見ながら、オーブはため息を吐いた。
「日本語がほとんど話せない設定になっているオレが、なんでフォロー役なんだよ……」
オーブはこうなった経緯を思い出していた。




