紫依vs朱羅
オーブの問いかけよって朱羅に視線が集まる中、紫依が手を挙げた。
「あの、この中にいる人で勝ち残った人が私の伴侶になるのですよね?でしたら、この中にいる私も勝負の参加権はありますよね?」
紫依の発言に全員が、あっ、という顔をした。そして慌てて紫依を止めようとしたが、それは再び蘭雪の睨みによって遮られた。
紫依は壁にかけてある木刀を取ると朱羅に微笑んだ。
「手合わせ、お願いします」
朱羅が紫依が着ている着物を指さす。
「そのままでいいのか?」
「はい。この服でも問題ありません。ここで本気を出したら道場が壊れてしまいますし」
「そうだな」
二人が道場の真ん中へと歩いていく。
その後ろ姿を見ながら風真が悔しそうに呟いた。
「最悪、力で黙らせるつもりだったのか。龍神家の中で紫依に勝てる人間はいないから」
「でも紫依は勝敗をつけるつもりはないみたいだぞ」
オーブの言葉に蘭雪が同意する。
「そうね。自分の力を見せつけて諦めさせるのが目的なんじゃないの?」
「だろうな。伴侶決定戦なんかしないで最初っから、こうすれば良かった気もするぞ」
「まあ、成り行きっていうのもあるし。とりあえずは観戦しましょう」
「そうするか」
道場の真ん中に着いたところで、紫依が審判をしている男性に声をかけた。
「すみませんが、下がっていて下さい。怪我をさせてしまいますので」
「わ、わかった」
紫依の実力を知っている男性は素直に道場の端へと移動した。
その様子を確認した朱羅が無言でオーブを見る。それだけでオーブは理解したように指を鳴らした。
「二重結界にしといたぞ」
「助かります」
紫依が礼を言って木刀を構える。朱羅も無言で木刀を構えた。そして全員の視線が集まる中、二人は合図もなく同時に動いた。
木刀がぶつかり合い、木とは思えない質量のある重い打撃音が道場内に響く。そのまま朱羅が容赦なく木刀を打ち込んでいく。それを紫依は着物が着崩れない程度に裾を広げて攻撃を受け流していた。
次々と容赦なく降り注いでくる斬撃を紫依はひたすら受けるか、避けるかして耐えていく。
この勝負は紫依の防戦一方に見えたが、少しして変化が起きる。
紫依が朱羅のすきをついて反撃をしたのだ。
だが朱羅は体を傾けるだけで、その反撃を軽く避けた。そして、その反撃の被害を喰らったのは観戦している人たちだった。
朱羅が避けた攻撃が、目に見えない衝撃波となってオーブが張った結界にぶつかり、打撃音と振動が響いたのだ。そのため、その周辺に座っていた人が、その衝撃の大きさに驚いて腰を抜かして倒れかけた。
そこからは二人の勝負より、観戦している人たちの表情の変化の方が面白かった。
顔は平然を装うと固い表情になっているが、目の前で繰り広げられる激戦によって、微妙に表情が崩れてきている。
そこに、いきなり飛んできた衝撃波が目の前で結界に弾かれ、その威力に驚いて腰を浮かせて逃げそうになる。だが、そこは意地とプライドだけで、なんとかその場に座り続けようと、再び腰を下ろす。しかし顔色にはしっかりと無理していることが表れており、青くなっている。
この繰り返しのため、いつの間にか観戦している人たちは、全員がいつでも逃げられるように中腰姿勢になっており、足がプルプルと震えていた。
そんな大人たちの姿を見ながらオーブが呆れたように言った。
「そんなに怖いなら逃げればいいのに。まあ、オレの結界が壊れることはないけど」
蘭雪も頷きながら、表情筋をひきつらせている大人たちを見た。
「紫依が着物だから朱羅も加減しているのに、これぐらいで逃げ腰になるなんて情けない。それぐらいの力しかないのに、よく紫依の伴侶になろうと思ったわよね」
明らかに見下した視線を蘭雪が観戦している人たちに向けるが、当の本人たちは勝負に釘付けになっており気が付いていなかった。
冷や汗が頬をつたい、無意識に両手を握りしめている人たちの前で、紫依と朱羅は結界内を縦横無尽に駆け回っていた。
立ち振る舞いも攻撃もどんどん大きくなっていく。
紫依が壁の代わりに結界を蹴って宙を飛び、自分の体重を乗せて攻撃をしたかと思えば、朱羅はそれを木刀一本で受け止めて弾き返す。そして飛ばした紫依の着地点に向けて攻撃を繰り出した。
だが、その動きを予想していた紫依は木刀で天井を突くと朱羅の予想より一瞬だけ早く床に着地して攻撃をかわし、すかさず足を狙って木刀を滑らせた。
そのことに気が付いた朱羅は木刀の持ち方を変えると床に突き刺して体を持ち上げ、そのまま紫依に飛び蹴りをした。このままでは蹴りが当たると判断した紫依は、木刀を手放して無理やり後ろに飛んで回避する。
木刀を手放した二人が素手での格闘に移行した姿を見て、オーブが風真に訊ねた。
「これ、剣道か?」
驚くことなく平然と試合を眺めていた風真は、オーブに視線を向けると軽く首を横に振った。
「違うな」
「じゃあ、止めるか」
「どうやって、止めるんだい?」
「一声で止まるぞ」
「そうなのか?」
立ち入る隙がない、というか、下手に止めに入ると、こちらまで怪我をしそうなほど激しく争っている二人を、たった一声で止める術があることに驚く風真に、オーブは意味深な笑顔を見せた。
「まあ、見ていろ」
オーブは口元に手を当てると、遠くにいる人を呼ぶように少し大きめの声で呼びかけた。




