成敗
蘭雪が軽く指を鳴らすと、寛鐘を覆っていた粘液が綺麗に消えた。
今まで悪戦苦闘していた粘液が跡形もなく突然消えたことに寛鐘が驚いて、全身を見ている。
「どうしたのだ?」
消えた粘液を探している寛鐘に、蘭雪が前触れなく爆弾発言をした。
「さっき言っていた高名な政治家や有名な権力者は、全てあんたとの縁を切るって言っていたわよ」
「何をバカなことを!そんなことがあるわけないだろう!」
考えるより先に叫んでいた寛鐘に、蘭雪が懐から取り出したタブレット端末を押し付けた。
「はい、証拠」
そう言って蘭雪が映像を再生する。そこには寛鐘がよく知る人物たちが一つのテーブルに並んで座っていた。
その光景に外れそうになった顎を押さえながら寛鐘が蘭雪を睨む。
「どうやって全員を一度に集めたのだ!?忙しくて合う時間などないのに!」
「こちらから日時を指定したら全員集まったわよ。本当、日本って外交に弱いのよね。日本国内の有力者の知り合いがいないから、海外の知人経由で頼んだら、あっさりと集まってくれたもの」
淡々と説明する蘭雪に対して、寛鐘はタブレット端末から聞こえてきた言葉によって百面相のように表情を崩していった。
「嘘だ!でたらめだ!こんな……こんなことがあってなるものか!」
叫ぶ寛鐘の前では、タブレット端末に映っている代表者が気まずい表情で寛鐘との絶縁宣言をしていた。
「この映像は合成だ!勝手に作ったのだろ!でなければ、このようなことはありえない!」
盛大に取り乱す寛鐘の前から蘭雪がタブレット端末を下げる。
「そう思うなら本人たちに確認したら?まったく。この程度の人脈と力で、権力を持っていますって勘違いしているところから間違っているのよ。こういうのを井の中の蛙、大海を知らずっていうのかしら?」
蘭雪の言葉に紫依が頷く。
「権力などはよく分かりませんが、話を聞いていると言葉の使いどころは間違っていないと思います。ところで、その映像は作り物ではないのですか?」
「本物よ。本当はネバネバおじさんの前で直接言ってほしかったんだけど、それだとグダグダと遠回しなことを言って時間がかかりそうだったから、録画にしてスパッと終わらせたの。まあ、向こうも時間があまりないみたいだったから録画したら、さっさと解散したことを考えると、むしろこのネバネバおじさんと縁を切りたかったのかもね」
無情な説明が終わると同時に、寛鐘がガクリと床に崩れ落ちた。
「私が半生をかけて作り上げた人脈を…………こうなれば!」
復讐に燃える寛鐘を前に、再び蘭雪が先手を打った。
「さっきの液体の成分、知りたくない?」
「何を今更!?こうなったら、そんなものはどうでもいい!」
「あーら、そう。じゃあ、これもいらないわね」
そう言って蘭雪が青い液体が入った小瓶を見せて微笑んだ。
「そろそろ、効いてくると思うのだけど。始めは髪あたりかしら?」
蘭雪の言葉に寛鐘が反射的に自分の髪に触る。すると触れただけなのにブチブチと髪が切れた。
「な……なんだ、これは!?どうして髪が!?」
切れた自分の髪を呆然と眺める寛鐘に、優しい声音だが背筋どころが全身が凍るような声が響いた。




