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チート四人組、学校へ行く……からの婿決定戦(副題:どうしてこうなった?)  作者:


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とあるモブの悲劇 最終話 (モブ……モブキャラクターの略。個々の名前が明かされない群衆のこと)

モブ少年視点です。

これで終わりです。


 翌日の早朝。

 少年が父親とともに道場に行くと、大勢の男達がいた。

 ほとんどが昨日の夕方の集会で見かけた顔だったが、道場の真ん中に異様な雰囲気を放つ青年がいた。


 瞳は黒いが長く伸びた髪は茶が混じった黒だった。整った顔立ちに少し彫りが深い。背も高く純粋な日本人ではないことが分かる。もし年頃の少女がこの場にいれば黄色い歓声が飛んでいそうだ。

 それだけ特徴があるため、昨日の集会に参加していれば記憶に残りそうだが、見かけた記憶はない。


 少年が青年を観察していると、黒い瞳と目が合った。敵意を隠すことなく睨み付けてきた視線に少年の体が硬直する。


 それは、まさしく蛇に睨まれた蛙のような感じだった。息もできないほどの緊張が少年の全身を包む。


 睨み合いが続くと少年が思った瞬間、意外にも青年の方が視線を反らした。

 そのことに少年が無意識に安堵のため息を吐く。


「……なんだったんだ、今の?」


 そう呟いて少年が青年をもう一度見ると、青年は道場に入ってきている男達を一人ずつ睨みつけていた。


「おれだけじゃなかったのか」


 そして睨みつけられた相手は例外なく硬直しており、そのことにも少年は安堵していた。

 ただ付き添いできた人は睨んでおらず、青年の敵は婿候補の男だけだった。


「なんなんだよ、あいつ」


 少年が訝しんでいると、道場に入ってきた寛鐘が青年の隣に立って説明を始めた。


「よく集まってくれた。紫依の婿の決定方法だが、昨日の説明と変更点があるので説明する」


 寛鐘の発言に少しざわめきが起きたが、すぐに静かになった。その様子に寛鐘が満足そうに集まった男達を見ながら続きを言った。


「まずは彼を倒すことだ。彼が負けたら、その時点で残っている者たちで戦い、最後まで残った者を紫依の伴侶とする」


 その説明に青年が寛鐘を睨む。


「僕が最後まで勝ち残った場合の約束は守っていただけますよね?」


 疑問形だが念押しの確認のように少年には聞こえた。あと青年の必死さも垣間見える。


 そんな青年を嘲笑うように寛鐘が軽く頷いた。


「もちろん。勝ち残れたら、な」


 腹の立つ言い方に少年の中での寛鐘の評価は地下に潜った。

 それは青年も同じだったようで視線をキツくしている。だが、寛鐘は気にした様子なく、その場から離れていった。


 代わりに審判だという男が現れてルールの説明を始めた。


「一本先取した方が勝ちだ。規定は剣道と同じだが、木刀を使うため面や胴を決める時は寸止めをすること。これを守らなかった場合は反則負けとなる。質問は?」


 誰も何も言わない。静寂が流れる中、審判は全員を見て声をかけた。


「では、始める。最初は誰からだ?」


「俺からだ」


 三十歳ぐらいの体格が良い男が手を挙げた。青年より少しだけ背が高いぐらいだが、体についている筋肉は倍以上だった。とはいえマッチョというわけではなく、相撲取りのように脂肪のような体型だ。


 二人が道場の真ん中に移動すると、他の男達が道場の隅へ移動して正座をした。

 遠目から見れば体格差は明らかで、青年の方が不利なように映る。


 少年はそっと父親に声をかけた。


「なあ、あいつは誰なんだ?」


「あいつは確か南の地方の神社を任されている家系の奴だったな。体格が良くて昔は力士を輩出していたこともあった」


「いや、そっちのあいつじゃなくて、もう一人の方」


 少年の質問に父親は頷いた。


「あぁ、あいつか。あいつは……」


 たっぷり時間を空けて、空けて、空けて……


「知らん」


 なんとなく予想していた少年は小さくこけた。


「もう、いいや」


 少年が顔を上げると審判が二人の間で試合開始の号令を出した。


「始め!」


 男が大声を上げて巨漢を揺らしながら青年に襲いかかる。だが青年は黙って少しだけ体をずらすと男の手の甲に木刀を下ろした。


「一本!」


 その動きに全員の目が丸くなった。派手な動きは一切なく、むしろ流れるような綺麗な動きだった。


 男が床に落ちている木刀と自分の手を交互に見ている。どうやら、自分が負けたことに気が付いていないようだ。それぐらい一瞬の出来事だった。


 青年はそんな男を無視して審判に言った。


「時間が勿体ない。早くしてくれ」


「あ……あぁ。次!」


 審判の声に応えるように次の対戦相手が立ち上がる。しかし、その相手も最低限の動きであっさりと負けた。


 次も、次も、同じような試合が続いた。


 そのうち青年は審判が次の合図を出す時間さえも惜しむように、対戦相手から一本を取ると同時に


「次!」


 と、声を出して次の対戦相手を求めていた。


 今も二十代半ばの男から軽く一本を取ると、青年は男達に向かって叫んだ。


「次!」


 その声に次から次へと男達が挑戦していく。だが、誰も青年に勝てない。


 少年はそんな試合風景を見ながら顔をひきつらせて父親に訊ねた。


「なあ。あいつ、なんであんなに強いんだ?あんなに強いなら剣道連盟に顔が知られているだろ?おれ見たことないんだけど」


「おまえ、何も分かっていないな。何のために毎日修行をしているんだ?普通の人の動きなど風を読めば簡単に予測できる。おまえは無意識に力を使って相手の動きを予測していたんだ。それなら普通の人に勝つのは当然だ。むしろ、負けるほうが恥ずかしい。それなのに全国三位程度で、あんなに喜びおって……」


 その当時を思い出したのか父親が頭を抱える。


「その話は後でいいから。だから、なんであいつはあんなに強いのに知られていないんだ?」


「我々が修行をしているのは人ならざるモノと戦うためだ。それらは人より強い。そのため自身も人より強くなくてはならない。つまり人より強いことは当然なのだ。当然であることを、わざわざ公言するような人間は龍神家にはおらん」


「小難しく言ったけど、結局は強いのが当たり前だけど、それを言っていないってことか」


「そうだ。それに、おまえはこれが、ただの剣道の試合にしか見えないのか?あいつは全力で力を使って相手の動きを読んで、最低限の動きで一本を取っているんだぞ」


 そう言われて少年はもう一度青年を見た。確かに最低限の動きしかしていないのに青年は汗だくになっている。


 鬼気迫る勢いの青年の姿に少年が固唾を飲む。


「……勝てるのか?」


「まあ、勝機がまったくないわけではないがな」


 父親の言葉に少年が食らいつく。


「どうすればいいんだ?」


「あれだけの力を使うには、ものすごい集中力がいる。その集中力を一瞬でも途切れさすことが出来たら、その隙に一本を取ることも出来るだろう」


「……そうか」


 少年は汗だくの青年を見た。明らかに疲労しており、チャンスは今しかないように思えた。


「よし!親父、おれは行ってくる。そして、あの美少女と結婚するんだ!」


 硬い決意を胸に少年が立ち上がる。


 少年の脳裏には、ある話が浮かんでいた。

 ライトノベルなどで平凡な男子学生が美少女ヒロインと結ばれる王道話だ。これが今、実現しようとしている。


 これまでの無意味に思えてきた修行も、剣道の稽古も、この時のためにしてきたのだ。


 そう考えると、今の自分は平凡な男子学生ではなく、無敵の主人公のように思えてくる。


「やるぞ!」


 少年は強い想いとともに木刀を構えて青年の前に立った。そして………………






 周囲の予想通り少年は一瞬で敗北した。



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