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チート四人組、学校へ行く……からの婿決定戦(副題:どうしてこうなった?)  作者:


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土地神

 隠れ里に連れてこられた紫依は巫女装束に着替えていた。周囲に見える山々は少しずつ紅葉を始めており、秋の到来を教えてくれている。


 紫依は隠れ里の端にある白滝の麓の大岩に腰掛けていた。静かに水面を眺める紫依の目の前に微かな気配が降り立つ。


『つまらなそうだのう』


 紫依は驚くことなく顔を上げると、水面より数センチ上に浮いている女性に微笑みかけた。


「お久しぶりです。土地神様」


 大いなる力で古来より龍神家を見守り、いつからか人々に土地神と呼ばれる存在なのだが、紫依にとっては本音で語れる数少ない相手の一人であった。


『久しぶり?そなたがここを離れて、そんなに時間が経ったかえ?』


 色もなく半透明の輪郭が見えるだけの存在である土地神が首を傾げる。宙に浮いている長い髪が首の動きに合わせて少しだけ揺れた。


 紫依が軽く首を横に振りながら答える。


「あまり時間は経っていないかもしれませんが、私にとっては数年分ぐらいの時間が過ぎたように感じるほどのことがありました」


『それでは久しぶりのように感じるのう。で、そなたはここで何をしておるのじゃ?』


「身を清めるように言われたのですが、私はそれが必要だと思えないのです」


『ほう?』


「外に出て汚れたと言われましたが、私にはその汚れが分かりません。確かにここは清い気で満ちています。だからと言って外が汚れた気で満ちているのかといえば、そうではありません。それに私が今、住んでいる場所もここと同じぐらい澄んでいます。それなのに私の話を聞かず、汚れを落としてこいの一点張りでした」


 紫依の話を聞いた土地神が面白そうに笑う。


『ならば清める必要はない。だが、そなたが自分の意思をここまで強く持つようになるとは。成長したのう』


「そうですか?」


『そうじゃ。以前なら、それぐらいのことなら相手の言うことを聞いておったぞ。そなたは自分が傷つくことには頑固だったが、それ以外のことには関心が薄かったからのう』


「……自分では、あまり分かりません」


『それでもよい』


 土地神はそう言うと半透明の手を紫依の頭上にかざした。


『……ふむ。良い出会いをしたようだのう。なかなか面白い(わらし)たちではないか』


 土地神の言葉に紫依がどこか嬉しそうに微笑む。


「はい。みなさん、良い人です。私のことをとても考えてくれて、大切にしてくれて……」


 そこまで言って俯いた紫依に土地神が近づく。


『どうしたのかえ?』


「それなのに私は何も言わずに、ここに来てしまいました。みなさん心配しているでしょう……」


『ここに来た……か』


 土地神の言葉に紫依が顔を上げる。


「土地神様?」


『自分の居場所を見つけたのだな。帰るべき場所を。ならば安心せい。そなたが強く望めば、すぐに帰れる』


「そうですね」


 どこか嬉しそうに頷いた紫依とは反対に土地神がどこか寂しそうに微笑む。そこに紫依を呼ぶ声が響いた。


「おーい、紫依!」


 手を振って少年が走ってくる。丸い大きな瞳は可愛らしい顔立ちに合っており、中性的だ。後ろに一つで結んだ長い黒髪が左右に揺れている。


 土地神は少年を見ると風となって姿を消した。


 突風を正面から受けた少年は思わず立ち止まって顔を背ける。そして、風が過ぎ去ったところで着物についた枯葉をはたきながら言った。


「遅いから何かあったのかと思ったら、土地神様と話していたのか」


 納得したように頷く少年に紫依がすまなそうに顔を伏せる。


「すみません、まだ(みそぎ)をしていないのです」


「そうなの?そんなに長く土地神様と話していたの?」


「いえ……そうではなくて……」


 言いにくそうに言葉を濁す紫依に少年が笑いかける。


「じゃあ、したことにすれば?」


 少年の提案に紫依が深紅の瞳を丸くする。


「え?ですが……」


「大丈夫。紫依の力は禊をしていても、していなくても分からないぐらい強いんだし。土地神様と直接話せるほどの強い力を持っているなんて、史書にも残っていないぐらい未曾有なことなんだぞ。あ、でも体と服は濡らさないと、すぐにバレるか」


 そう言うと同時に少年が紫依の腕を掴もうと飛びかかる。が、紫依は最小限の動きで少年を避けた。


「うわっ!」


 派手な音をたてて少年が白滝の中に落ちる。少年は慌てて水面から顔を出して叫んだ。


「もう!ここは一緒に落ちるところだろ!」


 少年の主張に紫依が首を傾げる。


「そうなのですか?」


「まったく。外に出たんだから、こういうことも学んできたのかと思ったのに」


 文句を言う少年を見ながら紫依が頷く。


「……わかりました」


「へ?」


 少年が滝壺から出ようとしたところに紫依が飛び込んできた。


「うわっ!どうしたの?」


 驚く少年に紫依が無表情のまま説明する。


(けん)()さんの言う通り禊はしても、しなくても分からないと思いました。ですが禊をしたと嘘をつくのであれば、服が濡れていないのはおかしいです。ですので、手っ取り早く濡らしてみました」


 その様子に憲護と呼ばれた少年は大笑いをした。


「やっぱり紫依は紫依だね。変わってないから安心したよ」


「変わってない?」


「そう」


 憲護は身軽な動きで滝壺から出て紫依に手を伸ばした。右手の掌には昔、紫依が傷つけた痕が残っている。


 紫依は一瞬考えたが、しっかりと憲護の右手を握った。そのことに憲護は驚きながらも、力を入れて紫依を引っ張り上げた。


 紫依が大岩の上に立つと憲護は肩を軽くすくめながら言った。


「僕がいない間に外に出たからさ、何か変わったことがあったのかと思って。大人たちに聞いても、誰も何も教えてくれないし」


 そう言われた紫依は、自分が隠れ里を出る出来事が起きた時に紬と憲護が不在だったことを思い出した。


「あの時、憲護さんは紬叔母さまと一緒に全国にある龍神家の神社廻りをしていたのでしたね」


「そう、そう。だから帰ってきたら紫依がいなくてビックリしたよ」


「ご心配をおかけして、すみません」


 頭を下げる紫依に憲護が慌てる。


「謝らなくていいよ。母様が今日は紫依のために腕によりをかけて夕食を作るって言っていたよ」


「紬叔母さまのお料理は美味しいですから、楽しみです」


「じゃあ、早く戻ろう」


「はい」


「そういえば、外では何をしていたの?」


「いろいろありましたが、今は……」


 二人は濡れたまま雑談をしながら母屋へ歩いていった。


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