夢と微睡みの狭間で
十六歳となった紫依は隠れ里で護衛術を中心に様々なことを学んでいた。
紫依の体が成長していくとともに力も強くなっていた。ある程度は制御できるが力が体内に溜まるスピードの方が速く、結界が解けかけるようになっていた。
そのため結界をかけ直すか、補強する必要が出てきた。結界の基礎は風真が施したため、かけ直すにも補強をするにも風真が必要であった。
しかし風真は大学生であり学校に通うためクリストファーとともに米国に住んでいる。紫依の様子をみるために、隠れ里に来ることもあったが回数は多くなかった。
兄に迷惑をかけたくない紫依は極力普通を装って生活していたのだが、それがまずかった。
限界まで我慢していたため、周囲の人間が気が付いた時には紫依の結界は解ける寸前となっていたのだ。
結界が解けかけていることを聞いた風真は、急いで隠れ里へと来た。そして長である祖母と相談して、その日の夜により強い結界を紫依に施そうと準備をしていた。
だが準備をしている途中で隠れ里が何者かに襲撃された。隠れ里全体に張り巡らした罠をもろともせず突き進んでくる襲撃者たちに、隠れ里の人は苦戦を強いられた。
それでも、どうにか襲撃者は撃退できたが、その反動で紫依の力は結界を破って溢れだし暴走した。
紫依を中心に現れた巨大な竜巻が、周囲の物を粉々に粉砕していく。このままでは周囲の山脈を消して、衛星写真でも分かる程の巨大なクレーターが完成してしまう。
紫依の力の大きさに愕然としながら風真が膝から崩れた。他の人たちも腰を抜かし、力なく座り込んでいる。
絶望感が漂う中、竜巻の中から小さな声が響いた。
「兄……様……」
「紫依!?」
声を聞き逃さなかった風真が顔を上げる。紫依の姿は竜巻で見えないが確かに声が聞こえた。風真の声に他の人も竜巻に注目する。
「みんなを連れて……逃げて下さい!」
「紫依!?」
「早く!長を……お婆様を連れて……お願いします!」
「だが……」
「私は……大丈夫です。一人で力を抑えられます。ですから……今のうちに遠くへ……」
紫依は体を小さく丸めた。少しでも力を抑えるように自分で自分をキツク抱きしめた。
少しでも気を抜くと力が暴走してしまうため全身の神経を集中させる。
この力のために、ずっと一人だった。
いつの頃からか、それでも良いと思うようになっていた。
闇夜のような暗い世界に一人ぼっち。
そのことを紫依は疑問にも不安にも感じたことはなかった。けれど、それでも心のどこかでは求めていた。
この力を持っていても、恐れることなく触れられる相手を。そして、恐れることなく自分に触れてくれる誰かを……
実際には数分の出来事だったが、紫依には何時間にも感じられた。
紫依の意識は神経の使い過ぎで朦朧としており、限界が近づいていた。
「みんな……逃げて……」
うわ言のように呟いた紫依を温かい風が包む。
「な……に……?」
紫依が力なく顔を上げると、温かい手が頬に触れた。
「一人で、よく頑張ったな」
その言葉とともに今まで溢れていた力が吸い取られていくのが分かった。全身に圧し掛かっていた重みが消えて体が軽くなる。
急激な解放に紫依は体を支えられなくなり地面に倒れそうになったが、そこに手が伸びてきて支えられた。
「あな……た……は?」
紫依が支えている人物の顔を見ようと、気を失いそうになる中で必死に瞳を開けた。すると、眩しい程の光が飛び込んできて、その中心には……
夢か現実かわからない微睡みの中で紫依が目を開けると、そこには自分を心配するように見つめる翡翠の瞳があった。




