紫依の過去
短いです、すみません。
保健室で朱羅と蘭雪が高度な鬼ごっこをしている中、紫依は幼い頃の夢を見ていた。
どこまでも広がる草原と、小高い丘の上には滑走路とその隣に小屋がある。
その麓には一件の家があり、小さな庭では二人の子どもが道着を着て剣道をしていた。
一人は十歳ぐらいの少年であり、長い黒茶色の髪を後ろで一つに結んでいる。もう一人は五歳ぐらいの女の子で、黒い髪を高い位置で結んでいる。そして、その二人に剣道の指導をしているのは小柄な女性だった。
女性は可愛らしい顔立ちには似合わない厳しい表情で、子どもたちに剣道を指導している。その声には張りがあり手慣れていることが分かる。
張りつめた雰囲気の中で女の子がふと空を見上げた。
練習中によそ見をしたのだが、女性はそのことを注意することなく女の子と同じ方向を見た。そして最後に少年が空を見上げた。
すると三人が見上げている方角からセスナ機が飛んできて、ゆっくりと降下してきた。大きなエンジン音とともにセスナ機が丘の上に着陸する。そのことに家の中からエプロンを着けた茶髪の男性が走って出てきた。
「誰だ?」
男性から白い粉とともに甘い匂いが漂ってくることからお菓子を作っていたことが分かる。
女性はにっこりと微笑んで男性に言った。
「ご友人が来られたようです」
その言葉に男性が怪訝な表情をする。
「私はあいつを友人と思ったことは一度もないけど」
「まあ、まあ。滅多にないお客さんですからね。お出迎えをしないと。風真、紫依、竹刀を片づけて着替えてきなさい」
『はい』
二人の子どもが声をそろえて頷き、家の中へと入っていく。女性はその後ろ姿を見ながら男性に声をかけた。
「私も急いで着替えてきますね」
「あいつにそんな気を使う必要はないよ」
「これは気を使う、とかではなくて、当然のことをするだけです」
「そうかい?」
「えぇ。では、あとは任せますね」
「仕方ない」
男性がようやく折れたので女性は微笑んで家の中に入っていった。
一人残った男性はセスナ機から降りた男性が家の近くに来るまで腕を組んで待ち構えていた。
セスナ機から降りた男性は、家の前にいる男性を見て左肩にボストンバックをかけたまま元気よく右手を振って大声で叫んだ。
「久しぶりだな、クリフ!元気していたか?」
「君が来るまでは、とても元気だったよ」
「相変わらず皮肉屋だな。ところで伊織ちゃんと子どもたちは何処だい?」
「君が来たから稽古を中断して着替えにいったよ」
「ありゃ。それは悪いことをしたな」
「そう思うなら来るな」
「えー。それが、わざわざ訪ねてきた友人に言う言葉かい?」
「腐るほど言っているが、私は君を友人と認めた記憶はない」
「相変わらずだなぁ」
そう言って自称、親友の綺羅・アクディルが明るく笑う。
そんな綺羅を見ながら親友を押し売りされているクリストファー・シェアードが軽くため息を吐いた。
「とりあえず中に入るかい?伊織が準備をしている」
「おう。伊織ちゃんと会うのも久しぶりだな」
こうして二人は家の中へと入っていった。




