ある休日の午後
同じ日の午後、オーブは何故か権守とカフェにいた。
金曜日の下校時に手紙を渡されて、この日時にこのカフェに来るように呼び出されていたのだ。
当然、オリヴィアとして合わなければいけないオーブは、どこから仕入れたのか淡い若草色の花柄ワンピースを着て、このカフェに登場した。頭にはワンピースの柄と同じ花のカチューシャをしており、嫌々女装をしているというには手が込みすぎている。
カフェの店内は北欧仕様のソファーとテーブルが並び、落ち着いた雰囲気で客も二十~三十代の人が中心で席の半分が埋まっている。
赤いソファーにちょこんと座ったオーブは、目の前にいる権守に無垢な笑顔で訊ねた。
「用事、なに?」
オーブの可愛らしい笑顔に対して、権守はいつも浮かべている人受けが良い笑顔ではなく、どこか知的で余裕のある笑顔で言った。
「日本語は分かるんだろう?無理して、そんな片言で話さなくてもいいよ」
権守の言葉にオーブは可愛らしい笑顔と声のまま話した。
「最近、私たちのことを調べているようだけど、何が目的かしら?」
発音も完璧で淀みなく日本語を話したオーブに、権守が口角だけを上げる。
「やっぱりね。僕の家は調べものが得意なんだ。でも、君のことは、いくら調べても途中で情報が消えてしまう。こんなことは初めてだ」
「それは調べ方が悪いんじゃないの?それとも、調べた人が悪いのかしら?」
そう言ってオーブがクスクスと笑う。明らかに挑発的な態度だが、権守はそれにのってこなかった。
「それはない。結論から言うと、オリヴィア・エンフィールドという人物は存在しない、ということだ」
「あら、それは乱暴な結論ね。私はここにいるのに」
肩をすくめるオーブに権守が話を続ける。
「君はオリヴィア・エンフィールドではない。何者かは知らないし、僕はそのことに興味はない。だが、このことを学校に知られたらまずいだろ?そこで君に相談だ。このことを黙っている代わりに協力してくれないかな?」
「協力?」
「そう。龍神さんを僕のものにするための協力」
「あら、ずいぶんストレートな言い方ね」
「分かりにくいより良いだろ?」
「まあね。それにしても、ずいぶんと紫依に執着しているようだけど、どうして?」
オーブの質問に権守は足を組んで話し始めた。
「僕の家はちょっと特殊な家系でもあるんだ。そのせいもあって僕は普通の人とは付き合えない。でも、龍神さんなら問題なさそうだから是非、欲しいと思ってね」
「どこが問題ないの?」
「彼女は神官の家系だ。でも普段の動きを見ていると、それだけではない。武芸だけではなく護身術まで極めていると見た」
権守の言葉をオーブは頷くこともなく笑顔のまま聞く。
「あの外見でそれだけの技量がある人間は彼女以外にはそうそういない……いや、彼女しかいないだろう。だから今のうちに彼女を僕のものにしておきたいんだ」
「紫依の意見は?」
「僕と付き合えば、僕以外の人間など見向きもしなくなるさ」
「大した自信ね」
オーブは呆れたようにアイスティーに口をつけた。冷房が効いたカフェでは冷たすぎるぐらい冷えている。
「で、協力してもらえるかな?」
「嫌、と言ったら?」
「そう言うと思って先手を打たせてもらったよ」
権守が右手を掲げて指を鳴らす。だが、何も起きない。
「どうした?」
不思議そうに権守が周囲を見ると店の客は全員テーブルにうつ伏せていた。
「な!?どうして……いや、まだ次の手がある」
そう言って権守は目の前に視線を移したが、オーブはアイスティーを全部飲みきって微笑んだ。
「これぐらいの睡眠薬じゃあ軽すぎて眠れないわ」
「薬が入っていることを知っていて全部、飲んだのか!?」
驚く権守を無視してオーブが隣に顔を向ける。つられて権守もそちらを見ると、そこには学校の保健室でよく見かける顔があった。




