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チート四人組、学校へ行く……からの婿決定戦(副題:どうしてこうなった?)  作者:


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絶対領域

 思いのほかゲームセンターを堪能した二人が移動するために店を出ようとすると、入り口には人山が出来ていた。


 二人がゲームセンターに入った時に後ろをついて歩いていた人々は解散したように見えたが、複数人は出待ちをしていた。

 その出待ち姿を見て、何事があるのかと野次馬が出現。その野次馬姿に、芸能人がいるだの、有名人がいるだの、という根拠のない噂が飛び交い、この人山が完成した。


 警察が出動してもおかしくない状況でも、二人は平然と人山を眺めながらのんびりと会話をしている。


「ここは、こんなに人が集まる場所なのでしょうか?」


「休日だから人が多いのかもしれないな」


 この話の内容から分かるように、この状況の原因が自分達にあるとは微塵も思っていない。


「とりあえず行くか」


 朱羅が紫依を促すと、そこにガラの悪い声が響いた。


「お姉ちゃん、可愛いね。オレたちと遊ばない?」


 人山の最前列に五人ほどの青年たちがいた。全員、二十歳前のようだが、髪を金髪や茶髪に染めて、ピアスや指輪などのアクセサリーを付け、腕や足など見えるところにタトゥーを入れている。


 そんな五人の登場に周囲にいた人々が騒ぎ始めるが、やじ馬の一人がぼそりと言った。


「なんだ、撮影かよ。そこにカメラがあるじゃないか」


 その指摘通り、紫依たちと五人の青年たちの中間となる位置に集音マイク付きのカメラを担いで撮影している男がいる。


 その姿を見た人から次々と声が上がった。


「あ、本当。ドラマかしら?」


「プロモーションビデオかも」


「じゃあ、あの二人は芸能人ってこと?」


「えー、男の人の顔を見てみたい。ハリウッド俳優だったりして」


「キャー」


「いや、ちょっと押さないでよ!」


「私も見たい!」


 ざわざわと騒ぎが大きくなっていく中、紫依が静かに視線だけを朱羅に向ける。

 朱羅はその視線に応えるように、長い前髪で隠れた翡翠の瞳で二人の斜め前にいるカメラを睨んだ。すると、突然カメラから小さな爆発音が響き、黒い煙が上がった。


「うわっ!?熱いっ!」


 撮影をしていた男が慌てて煙を出しているカメラを肩から下ろした。その様子に周囲の人々の注目がカメラに集まる。


 人々の注目が逸れた隙に紫依は、懐から小指の先ほどの大きさに千切った紙片を取り出した。そのまま自然な動作で手を下ろして紙片を手放す。すると紙片は羽根のようにフワリと人々の足下を飛んでいき、撮影をしていた男の靴に張り付いた。


 そこに朱羅が声をかける。


「行くぞ」


「はい」


 二人が駆け出したことに気が付いた青年たちが慌てて声を出す。


「逃げたぞ!」


「待て!」


 驚く人々の隙間を軽く走り抜けて行く二人に対して、青年たちは人々を押しのけて追いかけて行く。


 見失いそうで見失わない絶妙な距離感を保ったまま追いかけっこが続く。

 少しずつ人が少ない場所へと移動し、青年たちが紫依たちに追いついた時には人通りがまったくない細い路地だった。


 ようやく追いつめたと思っている青年の一人が息も切れ切れに声を出す。


「やっと……諦めた……か」


 全身汗だくで今にも座り込みそうな青年たちに対して、紫依と朱羅は汗一つ出ていない。


 紫依が青年たちに無表情のまま訊ねた。


「どなたからの指示で私たちに声をかけましたか?声をかけた後はどうするように言われましたか?」


 突然の美少女からの問いに青年たちの表情が崩れる。


「……は?」


「何言っているんだ?」


「わけわかんねぇ」


 どこか誤魔化すように嘲笑う青年たちに紫依は無表情のまま一歩前に出た。


「私に嘘は通じません。思ったより時間がかかりそうなので早く言って頂けると助かります」


 紫依の言葉に金髪の青年が軽く笑う。


「なんだ、それ?漫画の読み過ぎ……」


 と、言いかけたところで体が反転した。顔に地面が押し付けられて背中を踏みつけられる。


「知っていることは全て言って下さい」


「は?あぁ!?」


 金髪の青年はどうにか動かせる首を動かして周囲を見ると、うめき声をあげて倒れている仲間の姿があった。


「な、何をした!?何者だ、おまえ、ぐぇ……」


 踏みつけられている足に力を入れられて青年の口から思わぬ声が出る。だが紫依は淡々と質問をした。


「答えなければ指を切り落としていきます」


「なっ!?」


 青年が慌てて首を回して紫依を見た。


 最初に目に入ったのは背中を踏みつけている足だ。

 形の良い脚がふんわりとしたスカートからスラリと伸びている。絶対領域である中心部は何重ものレースとフリルに守られているため見えない。たとえ近くまで見えたとしてもショートパンツという鉄の守護壁があるため見えないのだが。


 そんな絶景の先には無表情をした絶世の美少女がいる。手にはしっかりと巨大な羊のぬいぐるみを抱いており、それはそれで可愛らしい姿のはずなのだが、今は言い知れぬ恐怖が青年を覆っていた。


 青年は助けを求めて叫ぶように言った。


「せ、先輩だ!先輩から頼まれたんだ!さっきカメラで撮影していたのが先輩だ!」


「では、その先輩に詳しく聞くことにしましょう」


 青年の背中に乗せられていた重みが無くなる。そのことに青年がほっとした瞬間、体が宙に浮かんで壁に叩きつけられた。


 突然のことに状況が理解できていない青年たちは、全身に走る激痛にこらえながら紫依を見た。どうせなら気絶したいぐらいだが、紫依がそうならないように加減したため青年たちは痛みに耐えるしかない。


 紫依はそんな青年たちに無表情のまま声をかけた。


「次に私を狙いましたら命はありませんから」


 感情なく事務的に発せられた言葉が真実味を持たせるには十分だった。青年たちは激しく頭を上下させて言った。


「狙わない!」


「何もしない!」


「悪いのは先輩だ!」


 紫依は命乞いに近い叫びを興味がないと言わんばかりに背中を向けて歩き出した。





 ずっと黙って様子を見ていた朱羅が歩きながら声をかける。


「カメラで撮影していた男の現在地は分かるのか?」


「私の式をつけておいたので、すぐに分かります」


 紫依がそう言いながら懐から端が欠けた白い紙を取り出す。そして、その紙で鳥を折ると軽く息を吹きかけた。


 白い紙で作られた鳥は二人を案内するように目の前を飛んでいく。


「行きましょう。思ったより関わった人が多いようです」


「面倒そうだな」


 鳥を追いかけながら走る朱羅に紫依が少しだけ眉を下げる。


「申し訳ありません。ですが、もしも、ということもありますし……やはり全てを把握しておかないと」


「わかった。とりあえず、予定時間までに終わらせよう」


「はい」


 こうして二人は気配を消して細い路地を駆け抜けていった。


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