クレーンゲーム
二人の視線の先には大きなクレーンゲームがあった。
そのゲーム機の中には、五十センチはある大きな白い綿の塊りに、くるんと巻いた角がついている物体が転がっていた。そして、よく見ないと分からないが小さな顔と、それより小さな手足がちょこんと生えている。
それは巨大な羊のぬいぐるみだった。
「このアームを動かして取ればいいのか?」
朱羅は手元にあるレバーと、そこに書いてある説明を読んだ。すると、少し離れた場所で同じクレーンゲームを始めた人がいた。
そこの景品は丸いヒヨコのような形をしたぬいぐるみであった。
お金を入れた後、レバーを動かしてアームをぬいぐるみの真上まで移動させている。
そして、ココ!という場所でボタンを押すと、三本爪が開いてぬいぐるみに向かってアームが落下した。
そのまま三本爪がぬいぐるみを掴んで持ち上げるが途中で爪から滑り落ち、操作をしていた人が残念そうな顔をした。
「そうか。ああいう風に取れば良いのだな」
朱羅は一人で納得して頷くとクレーンゲームを正面と側面、そして下から上を覗きこみクレーンゲームの作りを確認した。
「できるのですか?」
紫依の質問に朱羅は財布を取り出してお金を入れた。
「分からないが、やってみる」
朱羅は迷いなくレバーを操作すると羊のぬいぐるみの真上でボタンを押した。アームが下りてきて三本爪が羊のぬいぐるみを掴む。そして、そのまま真っ直ぐ持ち上げた。
だが、このゲームの難しさはアームが上がりきった時に起こる振動にある。
その振動でぬいぐるみが爪から滑り落ちるのだ。そのため少しずつ、ぬいぐるみを移動させてボックスに落とすようになる。
しかし羊のぬいぐるみはアームが上がりきっても爪から滑り落ちなかった。むしろ、その振動でしっかりと三本爪の間に挟まったのだ。
こうなれば、あとは何も問題はない。
羊のぬいぐるみは三本爪に運ばれて見事にボックスの中に落ちた。
「すごいです」
紫依が景品の取り出し口から羊のぬいぐるみを取り出す。
「わぁ……やわらかいです」
無表情ながらも、どこか嬉しそうに紫依が羊のぬいぐるみを抱きしめる。それを見た朱羅は口元を緩ませて紫依の頭を撫でた。
「良かったな」
「はい。ありがとうございます」
ほのぼのとした雰囲気が二人を包む一方で、純粋にゲームをするために来ていた客(主に独り身の男性)から怨念の籠った視線が朱羅に向けられた。
怨念の内容は、
『爆発しろ、リア充!』
『滅べ、リア充!』
『そのぬいぐるみになりてぇ!』
等々である。
当然、そんな視線を気にすることのない二人は再び歩き出した。紫依は羊のぬいぐるみの感触を確認するかのように色々な角度から抱きしめている。
少しして紫依が再び足を止めた。
そこには紫依が持っている巨大な羊のぬいぐるみを小さくしたぬいぐるみが、山積みにされているクレーンゲームがあった。
「どうした?」
「ちょっと持っていてもらえませんか?」
突然、巨大な羊のぬいぐるみを渡された朱羅は言われるまま黙って預かった。
「私もやってみます」
そう言うと紫依はお金を入れてアームを動かすボタンを押した。
今回のクレーンゲームは二本爪でアームを動かすのはボタンである。先ほどのレバータイプは時間内であれば何度でもアームの位置を修正することが出来たが、今回はボタンタイプであるためチャンスは一度きりだ。
それでも紫依は迷うことなくボタンを押して目的の羊のぬいぐるみの上にアームを移動させた。そして二本爪のアームは少しだけ開くと真っ直ぐ下へと降りた。
そのまま羊のぬいぐるみを挟むと上昇をしたのだが、二本爪であるためバランスが悪く、羊のぬいぐるみが爪から滑り落ちた。
しかし、羊のぬいぐるみが滑り落ちた先はボックスであり、そのまま景品取り出し口へと転がっていった。
「取れました」
紫依はチェーンがついた手のひらサイズの羊のぬいぐるみを取り出し口から取り出すと嬉しそうに微笑んだ。
「良かったな」
爽やかな笑顔を見せる朱羅に、紫依は手のひらサイズの羊のぬいぐるみを差し出した。
「お礼です」
どうやら紫依は巨大な羊のぬいぐるみを取ってくれた朱羅にお礼として、手のひらサイズの羊のぬいぐるみを取ったらしい。
そんな紫依の意図を瞬時に理解した朱羅は、巨大な羊のぬいぐるみと交換するように手のひらサイズの羊のぬいぐるみを受け取った。
「ありがとう」
そう言うと朱羅は迷うことなく腰に付けているウォレットチェーンに手のひらサイズの羊のぬいぐるみをつけた。ちなみに、この羊のぬいぐるみにはパステルカラーのチェーンがついており、色はパステルピンクだ。
服を紺やグレーの寒色系で統一している中で白色(チェーンはパステルピンク)の羊のぬいぐるみは明らかに浮いている。しかも顔は長い前髪と黒縁メガネで隠れており、いくら服装がカッコよくでも、この羊のぬいぐるみ一つでシュールな姿へと変貌した。
ここにオーブがいたら壁を叩きながら叫んだであろう。
「オレが求めていたのは、そういうダサい恰好じゃない!」
しかし生憎とオーブはこの場にはいなかった。
この話を書いた時、景品を垂れ耳うさぎで有名な、ぽて〇さにするか迷いました。
ただ私がずぅーと昔に書いた小説に垂れ耳うさぎのぬいぐるみが登場していたので羊に変更しました。
この話を書いていた頃は私が行くゲーセンに羊のぬいぐるみはなかったので妄想で書きました。
ですが最近は羊のぬいぐるみが登場していて……!Σ( ̄□ ̄;)
驚きです。




