服装
学校では蘭雪の予想通り噂が光の早さ並みの速度で広がり、好奇の視線を受けながらも、二人はまったく気にすることなく学校生活を送っていた。
そして迎えた問題の週末。
「おはようございます」
いつも通りの時間に起きてきた紫依にオーブが笑顔で答える。
「おはよう。お、完璧だな」
それは紫依の服装のことだった。
紫依はレースがついた七分袖のブラウスに、ふんわりと膨らんだチュールスカートを履いていた。その下には動きやすいようにショートパンツを履いているのだが、それは膝上まであるチュールスカートによって見えない。
あとはハイソックスを履いているため肌の露出が少ないが、それが紫依の雰囲気と相まってお淑やかなお嬢様という印象を与える。
全体的に白色やベージュ色でまとめており、そこにフェミニン効果も加わり可愛らしいデートコーデといった感じだ。
満足そうなオーブに対して、紫依は少し心配そうに自分が着ている服を眺めた。
「布地の強度に少し不安がありますが、本当にこれで良いのですか?」
「囮と言っても、服が破けるような戦闘にはならないって。それに、他人からデートしているように見えないといけないんだぞ。それなら、それぐらい可愛らしい服を着ないと」
「そういうものですか」
オーブの説得に頷きながら紫依が朝食をテーブルの上に並べる。
そこに、まだ頭が半分寝ている朱羅がリビングに入ってきた。その姿を見てオーブが吠える。
「おまえ、昨日言ったことを忘れたのか!?おまえは日本文化のオタクってことになっているんだぞ!地味にしないといけないだろうが!いや、むしろダサい服を着ろ!」
そう言って指さされた朱羅はグレーのTシャツの上に黒の薄手のテーラードジャケットを着ており、下は黒のパンツを履いていた。胸にはいつも付けている水晶のネックレスが輝いている。
全体的に色は地味だ。
だが、グレーのTシャツが黒を引き立てており、全体的に統一されている。むしろカッコイイ部類に入る。オーブが主張するダサいとは対極の服装だ。
朝から元気に騒ぐオーブの声も、朝が弱い朱羅の耳には半分も入っていないらしく反応はない。
オーブは肩を落として紫依を見た。
「先に朝ごはんを食べといて」
「オーブはどうされるのですか?」
「オレはこいつの服を考えてくる」
オーブは朱羅の襟首を掴むと、朱羅を引きずってリビングから出て行った。
「遅いですね」
朝食を食べ終えて片づけまで終わらした紫依は時計を見ながら呟いた。
「あれから一時間経ちましたのに」
紫依は様子を見るために朱羅の部屋へと移動すると、ドアをノックして声をかけた。
「オーブ?服は選び終わりましたか?」
紫依の声にドアが開く。そこにいたのはオーブではなく朱羅だった。
「どうした?」
一時間前の寝ぼけた様子はなく、しっかりと覚醒している朱羅に紫依が微笑む。
「起きられたのですね。おはようございます。お二人がなかなか来られないので、様子を見に来ました」
「あぁ、それは悪かったな」
そう言って朱羅が紫依を部屋の中へと通す。すると部屋中に服が散乱していた。
「どうしたのですか?」
紫依の問いに、部屋の中心で崩れ落ちているオーブが半泣き状態で叫んだ。
「ダサくできねぇ!一つ、一つがブランド物で良い服だし、似たようなデザインや色が揃っているから、どんな組み合わせをしてもカッコよくなる!くそ!こんなことならダサい服を一着でも買っておけば良かった!」
オーブが悔しそうに言いながら床を叩く。そんなオーブを見た後、紫依は朱羅を見上げた。
「オーブはどうされたのですか?」
「気にするな。自分の非力さを悔やんでいるだけだ」
「そうなのですか。服装はそちらで決まりですか?」
「あぁ」
確認をした紫依の目の前にはグレーのTシャツの上に紺色のチェックシャツを羽織り、下にジーパンを履いた朱羅がいた。
ブランド服がモデル以上に整った体型に見事に合っており、茶髪の長い前髪と黒縁メガネで顔を隠しても、人目を惹くには十分な恰好となっている。
だが、そんな世間の流行や常識に疎い二人は、オーブが嘆いている理由も理解することが出来ない。
朱羅は時計を見て言った。
「予定より時間が遅れている。早く出かけよう」
「そうですね」
二人は床を叩き続けているオーブを放置して出かけて行った。




