囮
ある日の夕食時。
四人が夕食を食べ終えて、いつものように食後のお茶を飲んでいると、オーブが思い出したように言った。
「そういえば、この前の小型ヘリ。あれの持ち主が分かったぞ」
「あぁ、ヘリストーカーね。珍しく時間がかかったのね」
蘭雪の造語にオーブが呆れたように言いながら一枚の紙を出した。
「勝手に言葉を作るなよ。ただでさえ日本語は言葉が変化しやすいんだから。で、これが持ち主特定までの経過」
「なに、これ?えらい遠回りね」
四人が眺めている紙には小型ヘリの購入ルートが書かれているのだが、それがかなりの人の手を通して複雑になっていた。
「そう。何がなんでも持ち主を特定させるか、という意地さえ感じられたよ」
「逆にここまでしたら深い意味がありますって臭わせているようなものよね」
「そうそう。シンプルだったら、ただのヘリストーカーで終わらしたんだけどな」
「そういえば、最近の尾行も最初の頃の方とは違いますしね」
紫依の意見に朱羅も同意する。
「そうだな。人数が増えているし、目つきが違う」
「あぁ、あれ。探偵からプロに代わったって感じだな」
実際に現場を見ていない蘭雪は思いつかないらしく素直にオーブに訊ねた。
「なんのプロ?」
「誘拐・暗殺系だな」
「日本でも、そういうのいるの?」
「そうみたいだ」
「そう。でも、誰を狙っているのかしら?」
蘭雪の呟きに紫依が手を挙げる。その行動にオーブが慌てて紫依の口を塞ごうとしたが一歩遅かった。
「私のようです」
狙われているとは思えない、きっぱりはっきりした態度。しかも怯えや恐怖は一切ない。
その代わり蘭雪から吹き出した氷点下のブリザードにオーブが恐怖した。
「へえ?紫依を狙うなんて、いい度胸をしているじゃない」
「い、いや。まだ何も起きていないから。だから動くな」
危険な微笑みを浮かべたまま立ち上がる蘭雪を、オーブが文字通り体を押さえて止める。
「起きてからじゃあ、遅いわよ」
「わかっている。わかっているから、とりあえず座ろう」
たとえ何かが起きても紫依なら相手を殲滅して終わりだとオーブは思ったが、それは言わずに別の提案をした。
「じゃあ、相手が事を起こす前にこっちが起こす。これなら、いいか?」
「えぇ、いいわよ」
どちらにしても紫依が危険にさらされるのだが、相手から起こされるのと自分から起こすのでは安全度が違う。と、いっても紫依の場合はたいして変わらない気もするが、オーブはその意見をグッと飲み込んで蘭雪に言った。
「今度の休日は紫依と朱羅の二人で買い物に行ってもらう。その話を学校中に流す。それでいいか?」
「あら、そんな話題なら、わざわざ流さなくても勝手に流れるわ。クラスメイトに話すだけでも十分よ」
あっさりとブリザードを収めた蘭雪に拍子抜けしながらオーブが椅子に座る。
「そうか?」
「えぇ。今や二人は学校中の話題の的だから。でも、それで相手がどう出るか楽しみね。フッフッフッ……」
不気味に笑う蘭雪にオーブがほっと胸をなで下ろす。
その一方で勝手に休日の予定を決められた二人は、静かに顔を向き合わせていた。
「朱羅はどこか行きたい場所がありますか?」
「特には、ないな」
「でしたらクレープを食べに行きませんか?クラスの方から美味しいクレープのお店があると教えてもらいましたので」
「なら、そこに行こう」
囮としての自覚がないのか、それとも身の危険を感じていないのか、二人は和やかに休日のプランを話し合っていた。




