青春?
ある日の放課後。
紫依がいつも通り演劇部の部室に行くために準備をしていると、他クラスの権守が訊ねてきた。
権守はいつもの軽い笑顔ではなく神妙な顔をしており、そのままの表情で紫依に声をかけた。
「桜葉がすぐに来て欲しいって言っているから、一緒に来てくれないか?」
普段の権守を知っている人なら、この雰囲気の違いに何事かと勘繰るところだが、紫依はいつも通り無表情のまま淡々と答えた。
「はい。今から部室に行こうとしていた所です」
桜葉は同じクラスだが、最近は授業が終わるとすぐに教室を出て他部活の部長と打ち合わせをしてから演劇部の部室に顔を出すことが多かった。
そのため放課後である現在、桜葉がどこにいるか分からない。こういう時は探し回るより、部室で待っている方が確実に会える。
そう判断した紫依がカバンを持って歩き出そうとすると、権守が言いにくそうに止めた。
「いや、部室じゃなくて……人に聞かれたくない話をするから一人で裏庭に来て欲しいそうなんだ」
「一人……ですか?」
そう呟いて紫依は隣にいるオーブに意見を求めるように視線を移した。
オーブが権守に無垢な笑顔を向ける。
「私、一緒。ダメ?」
その表情に周囲にいた男子生徒の表情がだらしなく崩れる。だが権守は深刻な顔をして首を横に振った。
「悪いけど、ダメだ。桜葉は龍神さんだけ来て欲しいって」
その言葉にオーブと紫依の視線が合わさる。そして紫依は軽く頷いた。
「分かりました。裏庭ですね。行ってきます」
「あ、待って。裏庭って言っても広いから、そこまで案内するよ」
さっさと教室から出て行く紫依を権守が追いかける。そんな二人の後ろ姿を見ながらオーブは小声で呟いた。
「ガキが何を企んでいるのやら。これ以上の面倒事は勘弁してくれよ」
辛辣な言葉だが顔には聖母のごとき微笑みが張り付けられている。
そして、オーブの呟きが聞こえなかった男子生徒たちの顔は微笑みを眺めているだけなのだが、ますます崩れていく。その結果、オーブ宛てのラブレターの数が倍増するのだった。
思ったより足が速い紫依に追いつくため小走りをしていた権守は腕時計をチラ見してから立ち止まった。
「ちょっと待って、龍神さん」
「どうかされました?」
紫依が足を止めて振り返ると、権守は疲れたように立ち止まって肩で息をしていた。
「ちょっと、体が弱くてね。あまり激しい運動は出来ないんだ」
「そうなのですか。それにしては、しっかりと鍛えられていますよね?」
「え?」
少しだけ目を丸くした権守の腕を紫依が指さす。
「全ての筋肉を均等に鍛えていますよね?これだけ過不足なく鍛えていれば大抵の運動は問題ないと思いますが」
紫依の指摘に権守はワザとらしく笑った。
「龍神さんは面白いことを言うな。体が弱いから軽い運動をして体力をつけるようにはしているけど、鍛えるところまでは出来ないよ」
「……そうですか」
無表情だが紫依の返事に間があいた。そのことに権守が余裕の笑顔で説明を加える。
「嘘だと思うなら先生や他の生徒に確認してごらん。体が弱いから体育はいつも見学だし、医師の証明書もあるよ」
「わかりました。それでは、そろそろ裏庭に行ってもいいですか?」
「あ、あぁ。そうだね、行こうか」
権守は紫依の言葉に微妙な違和感を覚えながらも裏庭へと歩いていった。
裏庭の中でも人が滅多に来ない校舎の影へと権守は紫依を案内した。
「ここなんだけど……あ、ちょっと待って」
権守がジェスチャーで静かにするように指示を出す。すると男女の声が聞こえてきた。
人物の姿は校舎で隠れて見えないが、女子生徒の可愛らしい声がする。
「先輩!好きです!」
それは告白真っ最中の場面だった。




