尾行
演劇部の練習が終わるのは、いつも日が暮れる直前だった。
桜葉はもっと練習をしたいと思っているのだが、暗くなってから下校した時に何かあっては困る。しかも今は極上の外見をした二人の美少女がいるのだ。こうした経緯で紫依たち三人は日没前には学校から出られていた。
いつも通りの通学路を歩きながら、紫依は両隣を歩く二人に声をかけた。
「どうしますか?」
周囲には三人しかいないためオーブが地声で話す。
「いつもみたいに撒けばいいけど、こうも毎日だと鬱陶しいな」
「捕まえるか?」
朱羅がさりげなく二十メートルほど後方にある交差点の角に視線を向ける。
「いや。どうせオレたちの家を知りたいだけだろう。見たところ探偵っぽいし、オレたちに興味を持った生徒の誰かが雇ったんだろ」
「ですが、今日はもう一つ別の目がありますよ」
「別の目?」
オーブが軽く周囲を見渡すが視線は感じられない。
紫依は視線だけでその存在の位置を伝えた。
「あの空飛ぶ機械です」
紫依の視線の先には玩具のような小型ヘリが飛んでいた。しかも距離は五十メートル以上離れている。
「誰かが遊んでいるんじゃないのか?」
オーブの意見に紫依が軽く首を振る。
「いえ。一定の距離を保ってついてきています」
「しかも小型カメラ付きか。こちらの動きを観察しているな」
「ますます面倒だな。空からだと、ちょっと本気を出さないと撒けないし」
「壊していいなら壊しますけど」
紫依の提案にオーブが喜ぶ。
「そうだな。撒くより、そっちのほうが楽だし手っ取り早いな。じゃあ、任せる」
「わかりました」
紫依が頷くと同時に小型ヘリに向かって突風が吹いた。
小さく軽い機体は風に遊ばれているように遥か上空に飛ばされた後、コントロールを失って三人の前で地面に激突してバラバラになった。
「とりあえず、こんな手の込んだことをしたのが誰かだけ調べとくか」
そう言うとオーブは憐れな残骸となった機体を拾い上げてカバンの中に入れた。
「で、尾行はどうする?」
「とりあえず、いつも通り、いつの間にか見失っていました状態にしよう。下手に動いて面倒ごとを増やしたくないし」
「ヘリを壊すことは下手な動きではないのか?」
「これ?これは、たまたまオレたちの前に落ちてきたから回収しただけ。ゴミを道路に捨てたらいけないだろ?だから、オレが回収してゴミ箱に捨てるんだ」
「そうか」
納得した朱羅にオーブも頷く。
「そういうこと。ただ、ちゃんと分別して捨てないといけないから、しっかり分解するけどな」
「そこから持ち主を割り出すのですね」
「紫依。それは思っていても、ここでは言ったらダメなことだぞ」
「そうなのですか」
神妙に頷く紫依を見て軽く笑いながらオーブが次の話題を出す。
「さて、早く帰ろう。今日の夕食は何が食べたい?」
オーブの質問に、歩き出した紫依と朱羅が同時に答える。
「デザート付きでお願いします」
「ウバ茶」
微妙にずれた回答にオーブは足を止めることなく頭を抱えた。
「おまえら、オレは食事の内容を聞いたんだ!せめて食べ物を言え」
その言葉に紫依が可愛らしく小首を傾げる。
「デザートは食べ物ではないのですか?」
「いや、食べ物だ。オレの言い方が悪かった。けど、朱羅。おまえの場合は違うだろ。ウバ茶は飲み物だ。それとも夕食をウバ茶料理にするのか?」
「それも美味しそうですね」
「いや、美味しいか分からないから。しかも、そのメニューを考えるのはオレだから。オレへの負担が半端ないから止めて」
「……俺は食後の茶の意味で言ったのだが」
「わかっとるわ!」
軽快な会話をしている三人だが足の動きは早い。人通りが多い道に出てからも、そのスピードは落ちない。
尾行をしていた人は、自身が気づかぬうちに自然と走り出して三人を必死に追いかけていた。だが、その努力も虚しく三人は雑踏の中へ姿を消していた。




