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チート四人組、学校へ行く……からの婿決定戦(副題:どうしてこうなった?)  作者:


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19/70

 保健室に駆け込んできた三人を見て蘭雪が面白そうに言った。


「あら、どうしたの?水も滴るいい男状態じゃない」


「オーブが避けるなと……」


 朱羅がそう言いながら不服そうにオーブを見る。


 そこにオーブが吠えた。


「普通の人間は避けられないタイミングだったんだから、しょうがないだろ!それに、火を操れるお前なら、そんなのすぐに蒸発させて乾かすことが出来るだろ」


「それは人前でしないほうがいいだろ?しかも、すぐに乾いたら怪しまれる」


 朱羅からの正論にオーブが声を詰まらせる。


「……こんな時だけ、まともなこと言いやがって」


 悔しそうにするオーブを無視して蘭雪が朱羅に声をかける。


「劇の練習用にジャージを持ってきているんでしょ?それに着替えたら?制服はその間に保健室で乾かしたって言えばいいでしょ?」


「そうする」


 朱羅が頷いて濡れた制服を一撫でする。すると、一瞬で服と髪が乾いた。


「着替えてくる」


 朱羅は保健室に置いてあるベッドを仕切っているカーテンの裏に行くと、乾いた制服を脱いでジャージに着替え始めた。


「で、どうして濡れたの?」


「実は……」


 オーブから話を聞いた蘭雪は興味なさそうに頷いた。


「それで避けるなって、こと。まあ、紫依が濡れなかったなら良いわ。……紫依?」


 保健室に来てから、ずっと入り口に立ったまま俯いている紫依に蘭雪が微笑みかける。


「どうしたの?劇が上手くいかない?」


 見抜かれたような言葉に紫依は少しだけ驚いた表情をした。


「え?あの、どうして分かりました?」


「紫依のことだもの。分かるわよ」


 蘭雪は立ち上がると紫依の前まで行き、長い指で頬にかかっている黒髪をかきあげた。そのまま、漆黒の闇のような黒い瞳を細め、紫依の頬に赤い唇を近づけていく。

 蘭雪の妖しい雰囲気に紫依が硬直する。


 そこでオーブが二人の間に手を入れて止めた。


「はい、そこまで。紫依も黙ってないで抵抗しろよ」


 オーブに言われて、紫依が瞬きを繰り返しながら返事をした。


「は、はい。ですが、どうした良いのか分からなくて……」


 その様子に蘭雪が満足そうに笑う。


「学校でも紫依は可愛いわね。その制服も似合っているし」


 この学校の制服は凝ったデザインをしていた。


 女子生徒はセーラー服をベースにしたデザインでリボンのところがネクタイになっている。丈は短めだが、そのぶんスカートがハイウエストで両サイドにプリーツがあった。今は夏服のため半袖で、袖口には二本線が入っている。

 一方の男子生徒は半袖シャツにベストとネクタイというシンプルなデザインであった。

 そして男女に共通しているのが、この学校の紋章である竜胆の花の刺繍が入っていることだ。


 オーブが蘭雪の言葉に対して呆れたように言った。


「セーラー服なんて海軍の服なんだぞ。男の制服を女子が着ているって初めて見たときは違和感があったぐらいなのに」


「可愛いんだから良いのよ。可愛いは正義って言うでしょ?」


「どこのオタクの言葉だ?」


 そこにジャージに着替えた朱羅が出てきた。


「練習に行くか?」


 朱羅の提案に蘭雪が待ったをかける。


「その前に。紫依は劇のどこが上手くいかなくて悩んでいるの?」


 蘭雪に訊ねられて、紫依はカバンから楽譜を取り出した。


「この歌です。主人公が感情を開花させて喜びながら歌うのですが、私はそれが上手く表現できなくて……」


 楽譜を手に取った蘭雪は少し眺めたあと、軽くリズムを口ずさんで歌いだした。


『世界はこんなに美しかったかしら?

 全てが昨日とは違う

 明るく、輝いて見える

 小川の水も、ほとりに咲く花も

 全てが輝いて私に微笑みかける

 あぁ、なんて世界は美しいの』


 それは普段の蘭雪の声とは違って明るく軽い声だった。

 華やかな十代の女の子が、世界の美しさに気付いて感激しながら感情が溢れている様子が表現されている。声量も十分あり、このままオペラ歌手にでもなれる勢いだ。


 歌い続ける蘭雪を紫依が真剣に見つめる。その姿にオーブが苦笑いをした。


「蘭雪は家事も整理整頓もダメなくせに、芸術に関する才能は天下一なんだよなぁ」


 オーブの隣に来た朱羅が頷く。


「絵画、陶芸、彫刻、写真、なにをやらせても良い作品を作っていたな」


「なに?やらせたの?」


「昔、一緒に住んでいた時に、リルが興味半分で蘭雪にさせてみたら、ものすごい芸術作品を作ったと驚いていた。それで、試しに評論家に見せたら絶賛された」


「知識も技量も十分あるからな。まあ、気分屋だから長続きしないだろうけど」


「あぁ。一通りやったら飽きていたな」


「だろうな」


 納得するオーブの前では、歌い終わった蘭雪が楽譜を紫依に返していた。


「こんなもので、どうかしら?」


「素晴らしいです。参考になりました。ありがとうございます」


 賛辞を言っているのだが表情が無いため感動が伝わりにくい。

 だが、蘭雪は満足したように笑った。


「紫依の手伝いが出来て嬉しいわ。分からなかったら、いつでも聞いて」


「はい。では、行ってきます」


「あ、おい!」


 スタスタと歩き出した紫依をオーブが慌てて追いかける。笑顔で見送る蘭雪に朱羅が声をかけた。


「あまり、人前では歌うなよ。騒ぎになる」


「それぐらい分かっているわよ。ほら、さっさと行ってきなさい」


 朱羅は蘭雪に追い出されるように保健室から出て行った。



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