爆弾
演劇部の部室に入ったオーブは硬直した。
「オレがいない間に何があって、こうなった?」
ムーンライトブルーの瞳には、舞台で完璧に人形師役を演じている朱羅の姿があった。セリフの言い回し、タイミング、動き方、全てが人形師役の冷泉院そのもので、まるでコピーしたかのようだ。
そんな朱羅の前では紫依が人形役を演じている。
オーブは事態を把握するために、腕を組んで舞台を観ている冷泉院に声をかけた。
「どうした?役は?」
本当は聞きたいことが山ほどあったのだが設定上、片言しか話せないため無難な言葉を口にしただけで、後は瞳で訴える。
そんなオーブの心情を察したのか冷泉院が丁寧に説明をしてくれた。
「龍神さんの感情が出やすいようにカミン君を代役にして劇の練習をしているんだ。桜葉が言い出したんだけど、確かにさっきより良い感じだよ。それにしてもカミン君もすごいね。おれの動きを完璧に覚えている。こうして客観的に自分の動きを観られるって、良い勉強になるよ」
冷泉院の言葉にオーブはすぐにでも朱羅を殴りに行きたかったが、ぐっと堪えて笑顔で訊ねた。
「ダイヤク?今だけ?」
「そう。練習中だけ。でも、このままでも良さそうだよなぁ」
感心したように言う冷泉院の服をオーブが引っ張る。
「ダメ!頑張る!冷泉院君のほうが上手」
オーブは事態の悪化を防ぐために冷泉院を応援したのだが、絶世の美少女に応援された方はそんなことを知るはずもなく。
大きな瞳に真剣に見つめられた冷泉院は頬を赤くしながら顔を背けて頷いた。
「おれの方が上手……そうだな。うん。頑張るよ」
そう言って再びオーブを見た冷泉院は良い笑顔をしていた。オーブもいつもより二割増しの可愛らしい笑顔で応援する。
「頑張って」
オーブは笑顔で返したが、心の中では冷や汗をかいていた。何か間違った選択をしてしまった気がしたのだが、あえて考えないようにした。考えたら別の意味で終わりな気がしたからだ。
そこに権守が声をかけてきた。
「エンフィールドさんも龍神さんの家にホームステイしているんだよね?今度、差し入れをしようと思うから、彼女が好きなものとか教えてよ」
その言葉にオーブは鬱陶しいと思いながらも軽く首を傾げた。
「あなた、誰?」
「怪しい者じゃないよ。僕はこの学校の生徒会の副会長をしている権守 司って言うんだ。演劇部の部員でもあるんだ。そうだろ?冷泉院?」
同意を求められた冷泉院が軽く頷く。
「生徒会の仕事が忙しくて幽霊部員となっていたけどね。と、いうか生徒会も今が一番忙しい時期なんじゃないのか?」
「そこは僕の裁量でうまく抜けてきたよ。それだけのことをしてきたんだから、役を譲ってくれないかなぁ?」
軽そうに言いながらも目が本気の権守に、冷泉院が首を横に振る。
「無理だよ。演劇関係で桜葉に逆らったら命がいくつあっても足りない」
「……仕方ないか。おとなしく裏から支えるよ。で、差し入れの件なんだけど、何が良いかな?」
再び訊ねられたオーブが知らない日本語のフリをして首を傾げる。
「サシイレ?」
その様子に権守が言い直した。
「龍神さんにプレゼントをするから、好きなものを教えてくれないかな?」
「プレゼント?なぜ?」
可愛らしく小首を傾げるオーブに、権守が恥ずかしそうに照れながら説明をする。
「可愛いと思う子にプレゼントを贈るのは世界共通たろ?」
普通に見れば気になる女の子へのアプローチ方法を考えるという、青少年の青春の一ページである。
だが疲労で全てが面倒になっていたオーブは、牽制の意味も込めて満面の笑みで言った。
「紫依はシュラが一番好き。だからプレゼント、ダメ」
その巨大な爆弾発言は瞬く間に全校に広がり、炸裂弾のように各地で衝撃を与えた。
当の本人たちが、まったく知らないまま。




