学校生活~部活編~
今回は一話だけです。
劇はミュージカル調であるため歌とダンスを覚える必要があった。
そのためジャージに着替えた紫依は、ダンスを教えてもらうためにダンス部に顔を出していた。もちろんオーブと朱羅、桜葉も一緒である。
紫依とオーブがダンス部の部室に入ると黄色い歓声で迎えられた。
「本当にお人形みたい!」
「長い手、足!羨ましいわ」
「綺麗な金髪ですね」
「桜葉ちゃん、この二人をダンス部にちょうだい」
最後の一言に桜葉が口をへの字に曲げる。
「ダメよ。スカウトするのに私がどれだけ苦労したと思っているの?龍神さん、彼女がダンス部部長の藤原よ。劇中のダンスは全て藤原が考えてくれたの」
桜葉に紹介された少女は紫依より背が高く手足が長かった。そして、長い黒髪を頭の上でお団子にしており、体は痩せすぎではないかというほど細い。一目でバレリーナだと分かる。
藤原はにこやかに笑うと紫依に声をかけた。
「はじめまして。あなたことは桜葉ちゃんから聞いているわ。とても飲み込みが早いそうね。あまり時間がないから早速始めるけど、いい?」
「はい、お願いします」
ダンス部の部室は壁の一角がガラス張りになっていた。藤原はその前に立つと桜葉に訊ねた。
「今日はどの場面のダンスを教えればいいの?」
「とりあえず、一幕から順番にダンスを見せて」
「もしかして、最後まで?全部?」
「そうよ。他の部員も使って本番と同じ動きを全部見せて」
桜葉の注文に藤原が軽く肩をすくめる。
「ま、全体の流れや雰囲気を掴むには、その方がいいわね。じゃあ、ちょっと集まって」
藤原の声掛けでダンス部員が集合する。そして打ち合わせが終わると全員が定位置についた。
「じゃあ、セリフとかの部分は飛ばして、どんどん踊るから。説明はそっちでしてよ」
「ありがとう」
藤原が手を挙げると曲が流れてきた。
桜葉が解説をする。
「これは第一幕の人形に魂が宿る場面よ。結構、動きが激しいし、舞台には人形役一人しかいないから、かなりの見せ場になるわ」
藤原が曲に合わせて機械的な油が切れたロボットのような動きをする。しかし、それは徐々に滑らかになり、それに合せて曲も明るくなっていく。そして自由に動けることに驚きながら、どこまで動けるのか確認するように激しくなっている。
オーブはそのダンスを見ながら小声で呟いた。
「……結構無茶な動きをしているなぁ」
それはバレリーナとしての柔軟な体があるから出来るダンスであり、素人なら関節の痛みで泣き叫ぶような動きまであった。
しばらくして曲が変わる。激しさはなくなったが、それでもテンポは速く、どこか興奮しているような音楽だ。
そこに一人の男子部員が登場して藤原の手をとった。
「第一幕の中盤、人形師が動く人形を見て自分の才能に歓喜する場面よ。人形は人形師の喜びがわからなくて、戸惑いながら一緒に踊るの」
桜葉の解説通り人形役の藤原の動きはどこかぎこちない。男子部員に引っ張られて踊っている、という感じだ。
少しすると再び曲が変わり、藤原と男子部員が下がる。それと、同時に複数のダンス部員が出てきて一緒に踊りだした。
「これは第二幕の中盤にある町人とのダンスよ。町の人々との交流を楽しむ場面でもあるわ」
お祭りのような華やかな曲に合わせて笑顔で踊るダンス部員たち。そこに藤原が恐る恐る入ってきた。そのままステップを踏みながらダンス部員たちの間をクルクルと周っていく。
このような流れで劇の中のダンス部分だけを藤原は休みなく踊りきった。
「……どう?できそう?」
全身から汗を滝のように流している藤原の表情は笑顔だ。本当にダンスが好きなのだろう。
その姿に思わず拍手をするオーブに対して紫依は淡々と話した。
「桜葉さんが人形役を演じていたときの動きと違うのですが、どうすれば良いですか?」
その指摘に笑顔だった藤原の目が細くなる。
「桜葉ちゃん、どういうこと?まさか私のダンスを勝手に変えたりしていないわよね?」
「まさか!そんな失礼なことしないわよ!そりゃあ、藤原に比べたら動きは劣るけど、教わった振りつけは変えていないわ」
そう言うと桜葉は紫依を見た。
「私と藤原のダンスのどこが違った?」
「全部です」
『全部!?』
驚く二人に紫依が説明をする。
「体を動かすスピードや、手足の角度、それから……」
そこでオーブが紫依の口を塞いだ。そして天使のような微笑みを桜葉と藤原に向けた。
「その……ダンスは、藤原さんのマネ、良い?部長より、藤原さんのマネ?」
オーブは自分が言いたいことが伝わるように祈った。そして、その祈りは届いた。
「そうよ。私のダンスより藤原のダンスを覚えて欲しいの。そのために直接見せたんだから。素人の私のダンスよりプロに教わったほうが劇で映えるもの」
「そうね。私とまったく同じダンスを素人の桜葉ちゃんが完璧に踊れていたらショックで寝込んじゃうわ。動きが多少違うのは、当然よね」
そして、藤原は自分で言った通り、この後寝込むことになる。
だが、そんな少し先の未来のことなど知りようがない桜葉は紫依に言った。
「よし。じゃあ、龍神さん。どのダンスから教わる?練習時間が限られているから、難易度が高いものに練習時間を多くしたいんだけど」
「全て覚えましたので、どれからでもいいです」
紫依の発言に部長二人が硬直する。
そしてオーブは、顔に笑顔を張り付けて心の中では盛大に地面を叩きながらバカヤローと吠えていた。
藤原が渇いた笑いを浮かべながら紫依に訊ねる。
「あの……ダンス経験者?」
「日本舞踊なら嗜む程度に」
「そ……そう。えっと……どうする?」
話を振られた桜葉は開き直ったように叫んだ。
「曲の準備をして!さっき藤原がやったことを龍神さんでもう一度するわよ!」
「なっ!?それは、さすがに無茶でしょ!ね、龍神さん?」
「問題ありません」
「えぇ!?」
そして紫依は藤原の動きを見事に再現したダンスを全て踊りきった。しかも、踊りきった後も薄っすらと汗をかいている程度で疲れた様子が一切なかった。
その光景に藤原が卒倒したのは言うまでもない。
一方の桜葉は
「私よりダンスが上手いし、覚えは早いし。これなら文化祭に間に合うわ!」
と、倒れた藤原の心配より劇のことで頭の中が一杯だった。
混沌と化してしまったダンス部を眺めながら、オーブが空気のような存在感で立っている朱羅に小声で声をかけた。
「おまえもフォローいれろよ」
「?フォローを入れなければいけないことがあったか?」
「おまえ、帰れ」
オーブは自分の不遇を嘆いた。




