学校生活~学力テスト編~
文字数が少なくなるので、前回と同じように二つの話を載せました。
〈学校生活 学力テスト編~オーブの場合~〉
そこは普段ならあまり生徒が集まることのない、掲示板があるだけの廊下だったが、今日は沢山の人がいた。
その理由は夏休み明けの学力テストの結果が張り出されていたからだ。と、いっても全校生徒の結果ではなく、各教科の上位十名と総合点数での上位五十名の名前が書かれている。
一年生から三年生までの結果が張り出されるので、いろんな学年の生徒が集まっていた。
そこに、そんなものが張り出されているなんて知らないオーブと紫依は偶然そこを通りかかり、そして一斉に視線を浴びた。
この外見のために注目をされることに何の疑問ももたないオーブだったが、今回は少しだけ首を傾げた。
いつもと視線の質が違うのだ。
尊敬や妬みも含まれているが、一番多い視線は驚きだった。転校した頃はこの外見に驚きの眼を向けられたが、数日経てば慣れるものである。
そのため、いまさら驚かれる理由が分からない。しかも、その驚きの視線は主に紫依に向けられている。
オーブはその理由を探るため、自分たちが来るまでに生徒たちが注目していた掲示板を見た。そして絶句した。
二年生の各教科の上位一位を紫依の名前が独占しているのだ。しかも満点で。そうなれば、総合点数の順位も当然一位である。
それを見た瞬間、オーブは紫依に壁ドンをしたくなった。ものすごく、したくなった。
そして切々と語りたかった。普通という言葉の意味を。
このテストを受ける時、オーブはちょっとした苦労をした。
まず配布された問題を全て読んで、クラスの学力と照らし合わせて平均点を割り出した。そして、オーブは日本語があまり話せない留学生に相応しい点数を導きだし、その点数になるように回答を記入した。
問題文に難しい日本語が書かれていれば、それが読めなくて問題が解けなかったような回答を書いたり、わざとひらがなや漢字を間違えたりした。当然、赤点などにならないように留意もした。
ここまでの努力を、紫依は、紫依は(大事なことなので二度言いました)一瞬で無にした。
「……泣きたい」
オーブの呟きに紫依が素早く反応する。
「どうされたのですか?どこか調子が悪いのですか?」
「とりあえず、保健室で休ませてくれ」
「はい」
無表情ながらも、どこか心配そうな紫依に連れられてオーブは保健室に入った。
そしてベッドの上で布団に包まると甲羅に閉じこもったカメのようになり、そのまま下校時間まで出てこなかった。
〈学校生活 学力テスト編~紫依の場合~〉
オーブが布団に包まって冬眠カメとなってしまったため、紫依は仕方なく一人で保健室から出ると、朱羅と鉢合わせした。
「朱羅もどこか調子が悪いのですか?」
「も?」
怪訝な顔をする朱羅に、紫依が保健室に視線を向けて説明をした。
「オーブが保険室で寝ています。一人にして欲しいそうです」
「そうか。俺は君たちが保健室に行ったという噂を聞いて、ここに来た」
「そうでしたか。とりあえず演劇部の部室に行こうと思うのですが」
「そうだな。早く行かないと部長が校内を探し回りそうだ」
「そうですね」
真顔で頷いて紫依が歩き出す。朱羅も紫依の歩調に合わせて、ゆっくりと歩いていると、目の前に人山があった。
「そういえば、さっきからここに人が集まっているが、何かあるのか?」
「先日の学力テストの結果が張り出されているそうです」
「あぁ……」
朱羅が話そうとしたところで大声が響いた。
「龍神!一体、どんな手を使って……」
最初は威勢が良かった声も紫依と視線が合っただけで窄んでいき、最後は口の中へと消えていった。怒りで真っ赤になっていた顔も、異性に対する顔となってピンクが混ざっている。
硬直してしまった黒髪、メガネの男子生徒に、紫依が訊ねる。
「私がどうかしましたか?」
絶世の容姿で軽く首を傾げる姿は無表情でもどこか可愛らしい。その姿に見惚れそうになって男子生徒は慌てて頭を振った。
「満点なんて、どんな手を使って取ったんだ!カンニングしたのか!?それとも事前に先生から問題を教えてもらったのか!?」
男子生徒の発言に、周囲の生徒からブーイングが飛んでくる。
「そんな考えをするなんて、最低!」
「場所をわきまえて発言しろよ」
「自分に実力がないだけのくせに」
最後の言葉が耳に入ったとたん、男性生徒が生徒たちを睨みつけた。
「僕はずっと学年一位をキープしていたんだ!それを、それをこんな、外見が可愛い……いや……見た目が良いだけの奴が!満点なんて取れるわけないだろ!絶対、不正をしたんだ!」
可愛いと思っているんだ。
勉強一筋と思われていた男子生徒に、健全な思考があることを知った他の生徒たちが感心する。
そんな中、喧嘩を売られた紫依は不思議そうに朱羅を見た。
「満点を取ることは難しいのですか?」
「回答が一つしかない問題しかなかったのだから難しいことはないと思う。回答が複数あるような問題であれば出題者の意向によるから満点は難しくなるが」
満点が取れて当然のような朱羅の発言に、吠えていた男子生徒の目が丸くなる。
そして他の生徒たちは思い出したかのように振り返って三年生の学力テストの結果が張ってある掲示板を見た。そこで一位にあった名前は……
「スゲー、オール満点だ」
感服した声の先には全教科満点で一位に朱羅の名前があった。
「なっ!?」
男子生徒が掲示板と朱羅を何度も見比べる。そんなに見比べても何も変わらないのだが、何故か男子生徒は必至だ。
「ど、どうして、こんなことが……」
呆然と呟く男子生徒に、紫依が平然と言った。
「そんなに難しい問題はありませんでしたよ。今回はあなたの調子が悪かっただけだと思います。次を頑張って下さい。では、失礼します」
そう言うと紫依は軽く頭を下げて朱羅とともに通り過ぎていった。
もし、この言葉が嫌味を含んでいたなら、男子生徒も怒りで復活出来ていただろう。だが、紫依が発した言葉はあまりにも淡々としており、嫌味どころか感情さえ微塵も感じられなかった。
「おい、大丈夫か?」
他の生徒が思わず心配して声をかける。だが男子生徒は視線を合わせることなく一歩を踏み出した。
「は……そんな……将来有望の僕が……こんなところで…………」
ふらつきながらも倒れそうで倒れない。そんな廃人寸前となった男子生徒を見て誰かが呟いた。
「立ち直れるかな、あいつ……」
「はは……これは夢だ……悪夢に決まっている……」
全てを覆された男子生徒は、他の生徒たちからの憐みの視線を向けられたままゾンビのように歩き去っていった。
その後、友人が一人もいなかったこの男子生徒の周りには、心配した他の生徒たちが集まるようになったという。




