学校生活~弁当編~
一つの話が短かったので二つ同時に載せました。
〈学校生活 弁当編~朱羅の場合~〉
転校して初めて学校でお昼を食べる時のことだった。
長い前髪で顔の半分を隠し、あまり話さない朱羅はクラスメイトから興味の対象として視線を集めていた。
声をかけても必要最低限のことしか話さない朱羅が、どのような昼食を持ってきたのか。生徒たちが自分の昼食を広げながらも好奇心満載でチラ見をする中、それは机の上に現れた。
重厚な漆塗りがされた弁当箱は、金箔と銀箔で松が描かれており、職人ワザの逸品ものだと分かる。
だが、そんな貴重品を弁当箱として持参していても驚くような生徒はこの学校にはいない。むしろ、これぐらいは普通のことだ。
生徒たちの視線を浴びていることに気付いていながらも、朱羅は気にすることなく平然と弁当箱の蓋を開けた。
覗き見など行儀の悪いことだが、好奇心に負けて生徒たちが弁当箱の中身へ視線を向ける。すると、我が目を疑う光景が飛び込んできたのだ。
そこには弁当とは思えないパラダイスがあった。
白米で立体的に作られ、薄焼き卵や海苔で顔を作られた世界的に有名な猫のキャラクターたちが中心に鎮座している。その周囲をウインナーやうずらの卵で作られた小さな動物たちが、可愛らしく点在している。
そして、キャラクターと動物の隙間を埋めるように、カラフルな野菜が彩っている。だが、その野菜もただの野菜ではない。全てに職人顔負けの細工切りがされており、弁当箱の中にお花畑が広がっているのだ。まるで、その弁当の中に一つのテーマパークがあるかのような風景だった。
それは一般的に言われているキャラ弁だったのだが、一つ一つの内容に手が込みすぎており芸術作品の領域に両足を突っ込んでいる。と、いうか立派な芸術作品だ。
生徒たちが息を飲んで芸術作品を観賞していると、朱羅が無情にも箸を突き刺して食べ始めた。
目は前髪で隠れているために見えないが、少なくともこの芸術作品に感動したり、キャラ弁であることを恥ずかしがったりしている様子はない。
可愛らしいキャラクターの顔面に躊躇いなく箸を突き刺して食べる姿は一種の鬼畜のようにも見え、気の弱い女子生徒からは小さな悲鳴が漏れるほどだ。
そんな冷淡な朱羅の行動に周囲の生徒たちがドン引きするが、当の本人は気付いていない。例え気がついたとしても、気にすることはない。
今回の出来事は生徒たちの間で噂となり、その途中でかなり飛躍された話となっていった。その結果、数年後には学校の怪談話の一つ「恐怖の弁当」として語られるようになる。
〈学校生活 弁当編~オーブ・紫依の場合~〉
昼食時間になり、オーブはカバンから重箱を取り出した。
漆塗りなのだが、蓋と側面に桜と花びらが舞う螺鈿という細工が施されており、優雅さの中に可愛らしさを感じられる代物だ。桜の花びらは白銀をベースにした虹色に輝いているが、時々薄桃色にも見え、幻想的な美しさを放っている。
その輝きの正体は、薄く研磨された貝であり、繊細な作業が必要な職人ワザによる逸品ものだ。
その重箱は一人で食べるには大きすぎたが、紫依の分も含まれているので二人分としては丁度良かった。
紫依が自分の椅子をオーブの机に近づけて微笑む。
「外でお弁当を食べるなんて久しぶりです」
どこか嬉しそうな紫依にオーブも微笑む。そこに自分の弁当を持った桜葉が現れた。
「二人ともお弁当?なら一緒に食べましょう」
「あ、おれも一緒していい?」
桜葉の後ろにいる冷泉院も声をかける。紫依が横目でオーブに確認すると、オーブがにこやかに頷いた。
「みんな、一緒に食べる。美味しいです」
その無垢な笑顔に、春風が吹いたかのような温かな雰囲気が教室を満たした。実際は残暑で蒸し暑い上に、外ではセミの大合唱が響いているが。
オーブの一言で桜葉と冷泉院が椅子を近づけて弁当を開く。その動きを見ながら、オーブも目の前にある大き目の弁当の蓋を開けた。
「え?ちょっと、何、それ?」
「すごい……誰が作ったの?」
オーブが持ってきた弁当の中身を見て、桜葉と冷泉院が質問をする。
その声にチラチラ覗き見していた周囲の生徒の視線が弁当に集まり、感嘆の声がもれた。
「うわぁ……」
「すげぇー……」
「どうやったら作れるの?」
周囲からの称賛の声にオーブが不思議そうに首を傾げる。
「日本の弁当……キャラ弁?マネした」
その言葉に生徒たちの口があんぐりと開いた。
オーブが持ってきた弁当は朱羅と同じもので、白米で作った有名な猫のキャラクターを中心にパラダイスが広がっている。量は朱羅の弁当より多いため、その分キャラクターの数も多く手が込んでいる。
唖然としている生徒たちの中で比較的早く立ち直った冷泉院が声を出した。
「いや、これキャラ弁ってレベルじゃないでしょ?芸術作品だよ。この野菜の飾り切りなんかプロレベルだよ」
「そうよ……食べ物で、これだけの物が作れるなら……誰が作ったの!?」
桜葉がオーブと紫依に詰め寄る。オーブがムーンライトブルーの瞳を丸くしておずおずと右手を挙げた。
「私。頑張って作った」
その言葉に桜葉はオーブの右手を両手で掴んだ。
「いいわ!その手先の器用さ!是非、小道具作りを手伝って!」
桜葉の発言に全員がこけた。
「おまえ……どこまで演劇バカなんだよ」
桜葉の頭の中は常に演劇で一杯だった。芸術作品レベルの弁当を見て、そこから演劇に結び付けてしまうほどの。




