第1章 5
部屋の外に出ると、ターシャが煮るジャムの甘い香りが鼻腔をくすぐる。子猫をその場に降ろし、トーマはターシャがジャムを瓶に詰めているのを眺めていた。
「そういえば、子猫の名前、どうするの?」
ターシャがジャムを手に、振り返って尋ねる。
「そうだね…リリーの家に行った子猫と兄弟だろうから、リリーと決めてくる」
「そうね、それがいいわ」
トーマは家を飛び出し、リリーの家に向かった。
リリーの家に着く。扉を叩こうとしたところで、向こうから開いた。リリーが目をまん丸にして立っていた。
「トーマ! 今から行こうと思っていたところだったのよ」
「ちょうど良かったね」
一緒にリリーの家に入った。
リリーの家はアデンタ仕様で、日光がたっぷり入るつくりになっている。ナラール仕様のトーマの家とはかなり異なっているが、幼い時から互いの家を行き来する二人にとって、それは大した違いではなかった。
ターシャに持たされたジャムをリリーの母親に渡す。
「今年のあんずの初物だって」
「まあ、有難う」
リリーの母親は渡された瓶を持って食糧庫へ入っていった。
「ねぇリリー、子猫たちの名前をどうしようか相談しに来たんだ」
先ほど拾って来た子猫は、机の下で丸くなって眠そうにしている。
「うーん」
子猫は小さく欠伸をし、リリーの座る椅子の下に移動した。