微笑
ガラガラっ……
今日もまた楽しくもない学校に通う。
けど、少しだけいつもと違った。
「あ!亜咲姫ー!」
龍陽が私に向かって手を振ってきた。周りの皆はぎょっとした顔をした。
私は龍陽から目を逸らし、席に着いた。
「うっわー、橋本さん今あからさまに無視したよな。」
「うんうん、見た見た。龍陽君がせっかく声かけたのにねー。」
「ひっでー、何様なんだよって。」
ヒソヒソ、ヒソヒソと周りが言う。もちろん、私に聞こえるように。
私は黙っていた。
「亜咲姫ってばー、何で無視するんだよー。」
龍陽が私の元に来て言った。
「………。教室で声かけられるの、初めてだから…。戸惑うのよ。」
そう。私は無視したのではなく、照れていた。
教室で声をかけられるのが、嬉しくて、嬉しくて…。
「……っ!」
何故か龍陽が顔を赤くした、けど気にしなかった。
「これから、毎日声かけるからな!」
龍陽は頬を軽く染めて言った。私は頷いた。
「え?神薙、橋本さんと会話してね?」
「実は仲良いとか?」
「いやいや、同情だろ(笑)」
「龍陽君、優しいもんね(笑)」
また周りがコソコソ言い始めた。
「お前らさっきから、コソコソコソコソうっせーんだよ!それに俺は同情なんかじゃねぇ!!俺と亜咲姫は友達だっ!」
龍陽が声を張り上げて言った。周りは一気に大人しくなった。
「……龍陽、いいの?」
「あ?何だよ、亜咲姫も同情だと思ってんのかよ…。」
「思ってないよ、龍陽はそんなことしないだろうから。」
ぼそっと私は言った。龍陽がまた赤くなった。
少し可愛いと思った。
「龍陽、顔赤い。」
「…うるせー、赤くねーよ。」
「嘘。真っ赤。」
「赤くねーってば。」
「そーいうことにしといてあげる。」
私は、高校に入って初めて微笑を浮かべた。
「っ!亜咲姫…。」
目の前にいた龍陽だけはその微笑を見ていた。