前編―【GAME】
本作品は残酷な描写を含みます。
ご注意下さい。
「さあ、愉しいゲームの始まりだ……」
脳内に響く笑い声。
それは、不愉快な気分になる。
「うっ……」
頭痛がする……。
痛む頭を抑え、俺は目を開けた。
起き上がると、俺を見つめる4人組が視界に映る。
「チッ、やっと起きたのかよ。呑気なもんだぜ」
4人の中で一番ガラの悪い金髪男が舌打ちした。
「ここは一体……あんた達は……?」
4人の顔を見渡す。
いずれも、初対面の顔である。
すると、メガネをかけた男がメガネをクイッと上げる。
「それはこちらの台詞です。我々も、気づいたらここに居たのですよ」
その言葉に、残り2人も頷く。
頷いた2人は、両方とも女性。
1人は20前半のように見え、意思が強そうな瞳が特徴的だ。しっかり者という雰囲気だ。髪型はロングヘアー。
もう1人は反対におっとりとした雰囲気がある。垂れ目で、なんとなく抜けてるのが伝わってくる。年齢は17または18くらいだろうか。こちらはショートヘアーだ。
「あれ……?」
全員の顔を見た時、ふと気づいた。
全員の首に、なにやらチョーカーのようなものが巻き付いている。
自分の首にも触れてみると、同様にチョーカーのようなが巻き付いていた。
チョーカーをよく見てみれば、ディスプレイがある。そこには【13】という数字が映し出されている。
〈おお、全員お目覚めのようだね〉
すると、突如アナウンスが流れる。
不快感が沸き上がる機械の声だ。
「なにモンだ、てめえ!」
ガラの悪い金髪の男が、アナウンスの人物に向かって声を荒げる。
〈まあまあ、落ち着きたまえよ。今から説明するし〉
アナウンスは「こほん」と呟き、俺達に向かって言う。
〈レディースアーンジェントゥルメーン! ようこそ、我が“Kingの館”へ!〉
「Kingの館……?」
俺がそう呟くと、アナウンスは肯定の意を示す。
〈そうだよん〉
「ご託はいいから、さっさと出てきやがれ!!」
金髪の男はアナウンスに敵意を剥き出しにする。
それに対し、アナウンスは「やれやれ」と肩を竦める。
〈せっかちさんが1名ほどいるねぇ。まあ、仕方ないか。キミ達だけ私の顔を知らないのは不公平だもんね〉
アナウンスは「うんうん」と続ける。
〈じゃあ、皆様方〜! 右手にあります巨大モニターにご注目あれ〜!〉
全員が一斉に右方向の壁に設置されたモニターに視線を移す。
ブツッと音がした後、モニターに顔が映し出される。
〈やあやあ〉
そこに映し出されていたのは、トランプのキングのような顔のお面を被った人物だった。
〈こうやってキミ達と顔を合わせるのは、もう少し後の予定だったんだけどね〉
「顔を合わせるという割りには、素顔を見せる気はないのね?」
ロングヘアーの女性がお面野郎を睨みながら言う。
〈ごめんなさいですねー。私、とてもシャイなものでね。素顔は晒せません!〉
「調子のいいこと言ってんじゃねえぞ!」
金髪の男が、ドスの効いた声でモニター越しの人物に言った。
それに対し、モニター越しの人物は「アハハ!」と笑う。
〈まあまあ、そう興奮せずに。落ち着いて、落ち着いて……ね? あ、良い機会だから自己紹介をしようかな〉
そう言うと、謎の人物はクルクルとその場で回転する。
〈私の名前は、【Mr.King】! 親しみを籠めて【K】と呼んでも構わないよ〉
「あの……」
すると、ショートヘアーの少女が口を開いた。
「私達は一体……なぜ、ここにいるのでしょうか?」
〈おお、ご最もな意見だねー。いいよー、キミ可愛いから教えちゃう〉
Kは「ごほん」と一息入れてから話し始める。
〈えー、ではもう一度改めまして……ウェルカーム、レディースアーンジェントゥルメーン!! ようこそ我が館へ。キミ達は、私が考案したゲーム【BLACK JOKER】のプレイヤーとして見事選ばれたのです!〉
「ブラック……ジョーカー?」
聞き慣れないワードに、一同が首を傾げる。
〈あ、似た響きだけどトランプのブラックジャックとは全く違うよ? 皆さん、モニターの左手にある台をご注目願いたい〉
左方向を見ると、確かに台がある。
台の上には、カードの束が5つほどあった。
メガネの男がその台に恐る恐る近づき、カードの束を1つ手に取って広げる。
「これ、トランプのカードですね。赤と黒の1から13までの26枚で構成されています」
「ああ? なんだよ、結局はトランプかよ」
金髪の男は「ケッ!」と悪態をついて、メガネの男からカードの束を乱暴に奪い取る。
そのままモニターを睨んだ。
「で。これは一体なんなんだ? てめえはこれで俺達に何をさせたいんだよ?」
〈まあまあそう慌てずに。そこにあるカードは、メガネくんが言ったように、何の変哲もない普通のトランプです。私がキミ達に何をさせたいかと言うと、さっきも言ったように、キミ達には【BLACK JOKER】をやってもらいたいんだよ〉
「じゃあ、そのBLACK JOKERってのは何なんだよ!!」
〈そのデッキ――カードの束のことね――が置かれていた台にルールブックが置いてあるから、まずはそれを読んでルールを頭に入れてよ。【BLACK JOKER】についての質問は、その後に受け付けるよ〉
台に再び視線を戻せば、確かに冊子のようなモノが一冊置かれていた。
俺はそれを手に取ってページを捲る。
◇◇◇◇◇◇
数分後。俺達5人はひと通りルールブックを読み回してルールを頭に叩き込んだ。
そのタイミングを見計らったかのように、モニター越しのKが俺達に話しかけてきた。
〈どうです? ルールは理解できましたか?〉
「一応な」
答えたのは、俺。
〈では、これより質問タイムに入りまーす! ジャンジャン聞いてくれたまえよ〉
「ならまず、この俺達の首に巻かれてるチョーカーは何だ?」
〈あらら……【BLACK JOKER】についての質問じゃないの〜?〉
「それは後回しだ。早く答えろ」
〈ちぇ〜。まあ、いっか。そのチョーカーはね、キミ達の命綱だよ〉
「命綱?」
〈そうそう。中に小型の爆弾が入ってるんだぁ〉
『ッ?!』
その言葉を聞いた瞬間、俺達は一斉に顔を青くした。
金髪の男が声を荒げる。
「ば、爆弾だと?! 冗談じゃないぜ!!」
「この! この!」と、チョーカーを外そうともがいている。
〈あー、金髪くん。無理矢理外さない方がいいよ。場合によってはすぐ爆発するからさ〉
「えっ!?」
金髪の男はすぐに手を離した。
Kは説明を続ける。
〈そのチョーカーのディスプレイに【13】って表示されてますよね。それが0になった瞬間、爆発するように設定されてるんだぁ。勿論、爆発したらビックリ人間でない限り、頭は木っ端微塵ですよ。でね、気になるチョーカーの外し方だけれど………〉
全員が息を飲む。
〈……どうしようかなぁ。教えようか教えまいか……〉
「てめえ!!」
金髪の男はモニターを殴る。
Kは面白そうに爆笑する。
相変わらず不愉快な声だ。
〈いいですねぇ。生に執着するキミ達と、そのキミ達の生を支配する私。見てて笑いが収まりませんよ〉
Kは「可哀想だから教えてあげますか」と続ける。
〈チョーカーを外す方法並びに、この館から脱出する方法はただ1つ。チョーカーのディスプレイに表示されている数字を、今から三日後の正午までに【300】以上にすること。因みに、正午を過ぎた時点で【300】に満たなかった場合、チョーカーは自動的に爆発するよ〉
「数字は、どうやって増やせばいい?」
俺は、恐る恐るKに尋ねた。
〈そのための、【BLACK JOKER】だよ〉
Kは、満足そうに答えた。
〈【BLACK JOKER】のプレイヤーのライフは【13】。つまり、チョーカーに表示されてる数字はキミ達のライフポイント――命を表しているんですよ。ポイントの増減は、一日に一回行われる【BLACK JOKER】のカードバトルによって行われます〉
「ふーん」
ロングヘアーの女性は小さく笑いながら言う。
「あら、ずいぶんと簡単なのね」
〈どういう意味だい?〉
「ルールブックを見たかぎりじゃ、互いに黒のカードを出し続ければ、こんなゲームすぐに終わるじゃない。だから、簡単だって言ったのよ」
その言葉に、俺は思わず頷く。
確かに、黒のカードを出せば互いが出したカードの合計値がポイントに加算されるわけだから、それを続ければ全員ここから無事に出られる。
しかし、Kは「フフフ……」と笑う。
その態度に、ロングヘアーの女性は眉間に皺を寄せる。
「なにが可笑しいの?」
〈いや、キミの言う通りだよ? 黒のカードを互いに出せば、すぐに終わるよ。皆ハッピーにね。でもさ、黒のカード……そんな簡単に出せます?〉
「……どういう意味?」
〈キミ達のライフポイントは【13】。つまり、赤い13のKを出されたら一発で死んじゃうってこと。赤のKはKillerのKなのですよ。あ、私ったら上手いこと言う〜〉
「だから……なんなのよ」
〈だからさぁ、キミ達は互いに見ず知らずのはずだよ? 今日会った人間をキミはいきなり信頼できるの? 命を預けることできるの?」
「私達は貴方の被害者。互いに命を奪い合うメリットが無いわ」
〈なるほどねぇ。あ、じゃあ、良い事を教えてあげる。この館から出られるのは先着3名まででーす〉
「そんな!?」
メガネの男が叫ぶ。
「先着3名ってどういう意味ですか?!」
〈いや、全員ココから返すのって、なんかつまらないじゃん? だから、3名までに限定します。先にライフポイントを300以上にした先着3名のみが、晴れてこの館から出ることが可能です。よって、他2名のチョーカーは爆発するように調整しておこっと。因みに、この館の出入り口にはセンサーがあってね、脱出条件を満たさない人が通ったらチョーカーに爆発指令を送信するから気を付けよう。いやぁ、笑えるね〉
『っ……』
俺達は、互いの顔を見合わす。
笑えない冗談だ。
生きて脱出できるのは、3名だ。
それはつまり……。
〈あ、そうだ〉
Kはパチンと両手を合わせる。
〈折角だから、キミ達の名前を私の口から言うとしようかな。名前が分からないと困るだろうし〉
そして「じゃあ、まず1人目!」と言う。
〈金髪のキミ。名前は【川越 タケル】くん〉
「……おう」
金髪の男――タケルは、肯定の意を示すように頷く。
〈じゃあ、2人目。そこのロングヘアーの彼女〜! 名前は【榎本 サキネ】ちゃん、だよね?〉
「ちゃん付けはやめてくれないかしら?」
ロングヘアーの女性――サキネは顔を不快感に染めて、Kを睨む。
〈おぉ、美人が凄むと恐ろしいですねぇ。では、気にせず3人目! メガネくん!〉
「は、はい!」
メガネの男がビクつきながら返事をした。
〈キミの名前は【利川 セイジ】。合ってるかな?〉
「……はい。合ってます」
〈では、一気に4人目、5人目行ってみようか! ショートヘアーの美少女は【和田 ユリ】ちゃん、そっちの平凡そうなのは【田崎 シュン】くん!!〉
「は、はい……和田ユリです」
「……平凡そうで悪かったな。田崎シュンだ」
そう。田崎シュン。
それが、俺の名前だ。
そして……
俺は、他の4人の顔を見渡す。
金髪のガラが悪そうな男――川越タケル。
メガネをかけた真面目そうな男――利川セイジ。
意思の強そうなロングヘアーの女性――榎本サキネ。
小心者のようなか弱い雰囲気を放つショートヘアーの少女――和田ユリ。
そして、この俺。
この中で館から無事、出られるのは3人のみ。
そのためには、誰か2人が死ななければならない。
それは、果たして他人か自分か。
突如として、俺達は……頭のイカれた奴が始めたデスゲーム【BLACK JOKER】に巻き込まれることになったのだった。
【次回予告】
〈じゃあ、第1回戦を始めましょうか〉
ついに行われるカードゲーム【BLACK JOKER】。
俺の相手は、川越タケル。
タケルは試合前に、俺に黒のカードを出すように言ってくる。
黒のカードは互いのライフにポイントを加算するカード。
先着3名の中に入るために、少しでも周りの奴らとのポイント差を着けるという提案だった。
しかし、タケルは本当に黒のカードを出すだろうか?
果たして俺は、どちらを選ぶべきなんだ?
赤の【嘲笑】と黒の【信頼】が、俺に決断を迫ってくる。
次回、中編―【DILEMMA】