プロローグ
ライナ・エドワードは、至って普通の人間だった。
普通の日常。
普通の生活。
何処にでもいるような人間・ライナは
しかし或る日、何者かに気絶させられ、縛られ、そして
拉致された。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・。
まだボーっとした頭を覚醒させ、ライナは目を覚ました。
「ここは・・・・・・・・・・・・?」
目が覚めると、知らない部屋だった。
「・・・・・・どうなってんだ?」
目が覚めると、知らない天井を見ていた。
「・・・・・・・・・・・・確か、登校中だったはずだよな?」
目が覚めると・・・・・・見知らぬ女が傍に居た。
「ってか、あんたは誰だ!?何の目的で―――むぐっ!?」
「静かに。」
抗議する俺の声は、しかしその「何者か」によって遮られた。
仰向けで、しかも手足を縛られている俺の口は、いとも簡単に塞がれた。
「・・・・・・・・・・・・」
すっ と、俺が暴れないのを確認すると
その女は手を離した。
そして、名乗る。全くの無表情のままで。
「私の名前は、アル。 アル・アーヴァイン。」
「アル・・・・・・」
そして、
「あなたの、力が必要です。かつて、世界を救った英雄 ライナ。」
なんてことを言う。
「えい・・・・・・ゆう?」
「はい。あなたは間違いなく、その張本人だと。」
なんてことを言う。
それに俺は、こう答える。
「あの、さぁ?」
「?」
「多分、って言うか絶対にあんたは勘違いしてるぞ。」
女・・・・・・アルは、微かに動揺した顔を見せたが、こう返す。
「何を、でしょうか?あなたは確かに・・・・・・」「確かに、俺の名はライナだが」
「でしたら」「だ・が!」
「・・・・・・?」
アルは、「何を言いたいのか分からない」とでも言いたげな顔でこちらを見る。
それに、ライナは言ってやった。
「俺は!ただの高校生で!!あんたの言うような英雄なんかじゃ、これっぽっちも無いんだよ!!!」
と、ライナは言ってやった。
アルは驚愕に顔を歪めたが、だがこれもやはり一瞬のことであった。
「あなたが、ただの人間である事は存じておりますよ?」
「だったら・・・・・・」「ですがそれは、あくまでそれは、『現実世界での話』でしょう?」
「?」
わけが、わからなかった。
(現実世界では?何を言ってるんだ、この女は?)
「ってか、いきなり拉致って縛り上げておいて何を言い出すんだあんたは!?」
取り敢えずライナは今のこの、あまりに理不尽な状況について文句を言ってみた。
あまりに展開が謎過ぎるので、善良な一般人であるライナにはそのくらいしかする事が思い付かなかった。
それにアルは、こう答えた。
「ここまでお連れしたのは、二人きりで話したかったから。縛ったのは、暴れられると嫌だから、ですが?」
至極淡々と、こう答えた。
「・・・・・・・・・・・・。」
なんだろう。一発くらいブン殴ってもいいんだろうか、この女。
とか考えたが、
残念ながら縛られているので実行不可。
「ああ、もう!」
あまりに理不尽な状況に、もう相手にまかせるしか選択肢は無くなったようである。
「・・・・・・現実世界では、ってのはどういう意味だ?」
と、取り敢えず一番の疑問について聞いてみる。
それにアルは、
「ですから、言葉どおりですが・・・・・・。」
なんてことを言う。
「だからそれが意味分かんないんだって言ってんだよ!!なにか?あんたは現実世界じゃない所から来た、とでも言うつもりか!?」
自分で言っておいてなんて馬鹿馬鹿しい、と思う問いに、
「その通り、ですが」
アルは、そんなことをいう。
「は・・・・・・?」
驚いた口からは、思わず素っ頓狂な声が漏れる。
「ですから、私が本来居るべき世界は、あなたのいる現実世界ではありません。」
と、そのとき不意にライナの頭に一つの答えが浮かぶ。
あまりに馬鹿らしいので、考えの候補にも上らなかった答え。
(だが、この女の口ぶりからして嘘をついているようには見えないし・・・)
「あの、さあ・・・・・・。」
そんな突拍子もなさ過ぎて口にするのも恥ずかしくなるような、質問をぶつけてみる。
「もしかして、ゲームの中から来た・・・・・・とか?」
・・・・・・言ってしまった。とうとう。
これで自分は、「中二病ワロタwww」とか後ろ指刺されても文句はいえないだろう。
それだけ馬鹿馬鹿しい事を、口にしてしまったのだ。
さあ、この女もさぞかし呆れた目で俺を・・・・・・
「その通りですよ?」
見なかった。
そして、先ほどまでの無表情とは違う、明らかに嬉しそうな顔でこんな事を言う。
「あなたが1年前に魔王を倒したオンラインゲーム、『Angel Strike!』 その世界、オルタナ。」
「は・・・・・・・?」
「私はその世界の中の国の一つ ユクモ村の、村人Bでした。」
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・。
こうして出会った、攫われの元・英雄ライナと、村人B。
そして・・・・・・
「今、再び魔王に襲われたオルタナを救えるのは、貴方しかいないんです。」
なんてことを言う。
「かつて討伐不可能とされた魔王を、只ひとりで狩った英雄、ライナ。」
なんてことを言って、女はライナに頼み込んだ。
「貴方が、今の魔王を直接倒すしか、オルタナを救う方法はないんです。」