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蜻蛉の三題噺

ふやけたお麩は、いかがですか

作者: 尻切レ蜻蛉


セミの抜け殻が目立つようになった、夏本番。

夏が両手を広げて、町全体を包み込んでいるようだ。

暑さを理由に、今日もオレは友人とゲームセンターに行く。

メインは、バイトをしている友人の冷やかしなのではあるけれど。

通ううちに、少し気になることもできた。

毎日、同じUFOキャッチャーをやっている、おとなしそうな女の子。

律儀に一日一回だけ。

未だにとれないらしく、毎日しょんぼりと帰っていく。

狙っているのは、女の子達が群がるような茶色や白のクマとか千葉の有名なネズミやアヒルでもない。

とっても微妙な顔をした”ふやけたお麩人形”とかいうシロモノ。

あんなものが本当に欲しいのか、オレには良く解らない。

けれど毎日、場違いなほど真剣な顔でUFOキャッチャーに向かっている。

そんなに欲しいのならば、もうすこしお金をつぎ込めばいいようなものだが、彼女は必ず一日一回きり。

ゲームセンターに一人で来るような雰囲気でもないから、いやでも目に付く。

気が付けば、友人と話していても視線は彼女を探していた。


「今日はまだ来てないぞ」


にやにや笑う、スタッフの友人を睨んで見せる。


「何がだよ」

「あのまっじめそーな子だろ?この頃毎日きてる」

「え?なに?お前だれかナンパすんの?」

「めっずらしぃ」

「誰だよ。どれ?」


一緒に来た友人達が途端にわいわい騒ぎだした。

迷惑なことこの上ない。


「うるせぇよ。なんでもねぇっての。昼飯いこうぜ」


肩を竦めてさっさと歩きだせば、なんだかんだ騒ぎながら友人達もついてくる。

気づけばいつもの台の向こうに、彼女の顔が見え隠れした。

オレは思わず立ち止まる。

ふやけたお麩は、あとひとつ。

彼女は祈るように100円玉を入れて台の前に立っていた。

アームを動かす手がわずかに揺れる。


「(あ)」

「あっ」


降りたアームが、人形を掴んで上がると、彼女の顔が輝いた。

その途端、騒いでいた友人の肩がUFOキャッチャ―にわずかに当たる。

あっと思う間もなく、アームは人形を放り出していた。

騒ぐ彼らは気づかない。

彼女の表情を見ることもなく、オレは機械に向かうと100円玉を入れていた。


「悪い奴らじゃないんだけど。ごめん。真剣にやってたのに、邪魔した」


ひょいとアームに引っかけて、取り出し口から転がり出た微妙な顔の人形を彼女の手にのせてやる。

そのまま友人を追いかけようとしたオレは、ぐいと服の裾を掴まれた。


「え?」

「あ、あの。これが取れたら、貴方に告白しようと思ってたんです!!」


今にも泣き出しそうな顔でそう云われて、オレの思考は一瞬停止。


「と」

「?」

「とりあえず、友達からでいい?」


携帯を取り出したオレに、彼女はにっこりと頷いた。


【三題噺】UFOキャッチャー、携帯電話、セミの抜け殻

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