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女装探偵  作者: 相澤 沁
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経理の闇2

健一は高木のPC画面を覗き込みながら、静かに言った。

「もう少し掘り下げた方が追い詰めやすい。金の使い道を洗えるだけ洗って、言い逃れを全て塞いでしまおう。大橋が横領金をどう使ってるか……これが一番の弱点だと思う。」

高木は画面をスクロールしながら、すぐに頷いた。

「いつものやり方だな。昭和製薬での初陣は、徹底的に勝ちを飾ろう。」

高木は小さくサムズアップを返し、健一も軽く拳を合わせた。

健一は腕を組んでニヤリとした。

「まずは、大橋の尾行から始める。銀行取引照会で、横領金の振込先口座から引き出された現金が、三年前から毎月決まったタイミングで使われている。この手の輩は繁華街の出入りから当たれば間違いないだろうけどな。」

健一は高木がまとめた報告書をパラパラとめくり、目を細めた。

「三年前……横領が本格的に始まった頃だな。引き出し額は月平均200〜300万円。現金で消えてるってことは、高級クラブ、キャバクラ、ホストクラブ……もしくはギャンブルか。いずれにせよ、足がつきやすい。」

高木はすでに地図アプリを開き、引き出しATMの位置と周辺の繁華街をプロットしていた。

「主な引き出し場所は歌舞伎町と六本木。特に歌舞伎町の『クラブ・エリート』と『バー・ルミナス』の周辺に集中してる。監視カメラ映像から、ほぼ確定だ。」

健一は顎に手を当て、静かに考え込んだ。

「……やっぱり、潜入調査した方が良いか。大橋がよく出入りする店を特定して、美穂として潜入するか。店内の常連客としての行動パターン、支払い時の態度、誰と一緒にいるか……全部押さえれば、言い逃れはできない。」

高木は頷き、すぐに次のステップを提案した。

「まずは『クラブ・エリート』から行くか。大橋はここの近くのATMを一番使ってる。美穂として潜入するなら、『新人のキャバ嬢』か『VIP客の連れ』として入るのが自然だ。僕は外から尾行と監視を担当する。」

健一は青いリボンを指で軽く撫でながら、微笑んだ。

「了解。潜入前に、店からの情報を集めよう。大橋の支払い記録が残っていれば横領金の流れがさらに明確になる。」

高木はPCに新たなフォルダを作成し、「大橋健司尾行計画」と名付けた。

「初陣は完璧に決める。大橋と武藤の言い逃れを全て塞ぐ。安達社長に『違和感を徹底的に調べました』と報告できるようにしないとな。」

健一は立ち上がり、悠斗の肩を叩いた。

「そうだな。昭和製薬の信頼を守るためにも、俺たちは負けられない。」

その晩、健一は美穂になってクラブ・エリートを訪れた。

「ママ、お久しぶり。 ちょっと協力してほしい事があるんだけど…」

クラブ・エリートは、ママがドラァグクイーンだが、普通の女の子がキャストを務める高級クラブだ。

ママは、美穂の顔を見るなり懐かしそうに目を細めて笑った。

「美穂ちゃん!すっかりお久しぶり!協力?前に店の乗っ取りを防いでくれた恩人だもの! オッケーに決まってるじゃないの!2つどころか5つも6つも返事しちゃう!ところで、どんな事?」

美穂は、大橋の写真を見せて言った。

「この人が来たらすぐ知らせてほしいの。そして、新人として席に付けてもらえる?」

ママは写真を見るなり目を丸くしたが、すぐにニッコリして言った。

「大橋さんじゃないの!わかったわ!すぐに連絡する。そしたら美穂ちゃんを新人キャストとして紹介する手筈でいいかしら?」

健一は美穂として、青いリボンを軽く揺らしながら丁寧に頭を下げた。

「ありがとう、ママ。今回はちょっとした調査で…訳アリでさ。」

ママはニヤリと笑って、言った。

「任せといて!美穂ちゃんの潜入、楽しみ~!」

その日の夜、歌舞伎町のネオンがギラギラと輝く中、大橋は一人で「クラブ・エリート」の扉をくぐった。

そして、いつものようにVIPルームに案内させて、シャンパンをボトルで注文して、ソファに深く腰を沈めた。

ママからの連絡を受け、美穂は新人ホステスとして控えめに登場した。

黒のミニドレスに青いリボンをアクセントに、ロングヘアを優しく揺らして、大橋の隣に座る。

「初めまして、新人の美穂です。今日はよろしくお願いしますね……♡」

大橋は、好色そうな目で美穂を見て、すぐに酔いの勢いもあってニヤニヤと笑った。

「おお、ずいぶん可愛い子が入ったんだな。今日は運がいいぜ。シャンパン、もっと持ってこい!」

次第に酔いが回り、大橋の舌が滑らかになる。

美穂は甘えるように身を寄せ、上目遣いに小橋を見つめながら、そっと尋ねた。

「大橋さんってお呼びしていい?、なんか……すごくお金持ちそうですね。どうしてそんなに余裕があるんですか?教えてください……♡」

大橋はグラスを傾け、ドヤ顔で胸を張った。

「いきなり名前を呼ぶなんて大胆だな!嫌いじゃないぜ?好きなように呼べよ!まぁ、金なんて頭を使えば簡単なもんだよ。会社でちょっとした『工夫』すりゃ、いくらでも入ってくる。俺みたいな賢い奴は、こうやって贅沢三昧さ!」

美穂は目を輝かせたふりをして、さらに甘く囁く。

「すごい……大橋さん、かっこいい……どんな『工夫』なんですか?」

大橋は一瞬、口を閉ざしたが、酔いが回って理性が緩み、すぐに大声で笑ってごまかした。

「ははは! 飲んでる時くらい、仕事の事なんて忘れさせてくれよ!今日は美穂ちゃんみたいな可愛い子と飲むんだから、そんな堅苦しい話はナシだ!もっと飲め、飲め!」

美穂は焦らずに微笑み、キャストとして自然に振る舞った。

グラスを傾け、大橋の話を聞き流しつつ、さりげなくスマホのボイスレコーダーをオンにしたまま、大橋の態度、言葉の端々、支払いの仕方、誰かと連絡を取る様子をすべて記録した。

大橋は夜が更けるまで飲み続け、最後はフラフラになりながらタクシーに乗って帰っていった。

美穂は店を出て、すぐに高木に連絡した。

「金の事は『金は頭を使えば簡単』とドヤ顔で自慢。仕事の話は酔ってごまかしたけど、録音は完璧。金の使い道は高級クラブとシャンパン三昧。次はもっと深く掘る」

高木は表情を崩さずに答えた。

「よくやった。これで大橋の行動パターンも掴めたな。次は、支払い時の領収書偽造の痕跡と、親族口座の残高変動を追う。」

美穂はネオンの下で青いリボンを直し、静かに微笑んだ。

「大橋 健司……お前の『工夫』、全部暴いてやるよ。昭和製薬からの信頼を裏切った分……しっかり返してもらう。」


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