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女装探偵  作者: 相澤 沁
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偽物の代償4

土曜日の夜、美穂はアパートの小さなテーブルにノートPCを広げ、潜入開始からの記録をまとめていた。

録音データはすべて整理済み。

張との会話ログ、外国人労働者からの断片情報、倉庫内の写真、そして張の好色なボディタッチの頻度と内容まで、淡々と事実だけを箇条書きにした。

報告書のタイトルはシンプルに。


潜入調査報告書(第1週)

対象:偽片桐ファーマシー倉庫(埼玉県○○市××工業団地内)

担当:佐藤美穂(潜入役)主な内容:現場責任者:張(チャン、日系中国人、30代後半)。

好色傾向が強く、休憩時間に肩・腰へのボディタッチを繰り返す。

誘惑に乗せやすい性格を利用し、情報を引き出し成功。

引き出した主要情報(録音証拠あり):サイト・レビューはすべて捏造。「俺たちが書いてるだけ」。

商品は中国から安価輸入、高値販売。成分は「ちょっと強いかも」と自白。

中国側のトップは「リーさん」。詳細は不明だが、張は「李さんが全部管理」と発言。

注文は全国から殺到中。SNSバズを意図的に仕掛けている。

倉庫スタッフ:15名(主に東南アジア・中国系外国人労働者)。日払い制で不満は少ないが、長時間労働。

追加証拠:発送伝票サンプル写真(顧客住所一部モザイク処理)。

商品瓶ラベル写真(偽「片桐ファーマシー」ロゴ入り)。

張の会話録音ファイル(複数、抜粋で「レビュー捏造自白」「李さん管理」部分を強調)。


美穂はファイルを暗号化してUSBに保存し、バックアップをDVD-Rに保存した。

青いリボンを外しながら、鏡に映る自分の顔を見て小さく息を吐く。

「張はもう完全に落ちてる。来週は李の連絡先か、成分表の原本を狙う。……仁さんの会社、絶対に守る」

日曜の朝、Guardean事務所に仁と城崎が訪れた。

仁は、真剣で少しやつれた顔。

城崎は落ち着いた様子で、資料の入ったファイルを手に持っている。

高木がコーヒーを淹れ、皆がテーブルを囲む。

美穂は普段着に戻った健一として、USBを差し込み、報告書を投影した。

「今週の潜入結果です。張から引き出した情報が中心ですが、録音と写真を添付してあります。」

仁は画面を食い入るように見つめ、声を震わせた。

「美穂さん……いや、健一君。ここまで……ありがとう。李って人物が中国側のトップか。」

城崎は資料を一枚一枚めくりながら、感心したように頷いた。

「素晴らしい。自白レベルの録音まで取っているとは……これなら、弊社の法務部がサイト閉鎖要請の国際通報を正式に進められる。警察への被害届も、証拠が揃った今なら受理されやすいだろう。仁、君の調査顧問は本当に頼もしい。」

健一は穏やかに、しかし力強く続けた。

「ありがとうございます。来週はさらに踏み込んで、商品の成分分析用にサンプルを入手します。 出来るなら李の連絡先までと思ってます。…張は美穂に夢中になってるので、隙は多いですが…ただ…ボディタッチが増えてきているので、そこだけは用心します。女装だとバレたらアウトなので。」

仁は深く頭を下げた。

「無理は絶対にしないでくれ。美穂さん……健一君の安全が第一だ。会社は守らねばならないが、君たちの命までかけるわけにはいかない。」

城崎も頷き、静かに言った。

「昭和製薬としても、国際犯罪に強い人を一人紹介しよう。君たちの負担を減らせるよう、連携を取ってほしい。」

高木は、仁と城崎にコーヒーを注ぎ足した。

健一は画面を閉じながら、静かに微笑んだ。

「わかりました。仁さん、城崎さん。片桐ファーマシーは必ず守ります。あと少しだけ、時間をください。」

報告会はそこで終了。

仁と城崎は資料のコピーを持ち帰り、健一は再びアパートに戻る準備を始めた。

月曜から、再び美穂として倉庫へ。

張の欲望を逆手に取り、李の連絡先を聞き出す日が近づいていた。


月曜の昼休み、美穂はいつものように責任者室に呼ばれた。

張はすでにソファに座り、コーヒーを二杯用意して待っていた。

美穂が入室すると、張の視線がすぐに体を這うように動く。

美穂はそれを無視するように、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。

美穂は少し身を寄せ、甘い声で切り出した。

「張さん……あの、サプリメントなんですけど……私も、ちょっと試してみたくて。効果あるってみんな言ってるし……私にも、1瓶だけ……試させてくれませんか?」

そう言いながら、美穂は上目遣いに張を見つめ、軽く唇を噛むような仕草をした。

色目を使う――完全に計算された演技だが、張にとっては十分に効いた。

張は目を細めてニヤリと笑い、即座に立ち上がった。

「もちろん! 美穂ちゃんが欲しいなら、いつでもあげるよ。待ってて……」

張は部屋の隅にある段ボールを開け、「スリムエクスプレス」の瓶を2箱(計12瓶)も取り出して、美穂の前に置いた。

「これでどう?俺からの特別ボーナス!美穂ちゃんが綺麗になってくれたら、俺も嬉しいよ。」

美穂は目を輝かせたふりをして、張の手に自分の手を重ね、ゆっくりと握った。

上目遣いに見上げながら、甘く囁く。

「張さん…ありがとうございます。こんなにたくさん…本当に嬉しい……張さん、優しいんですね……」

張の息が一瞬荒くなった。

美穂の視線が自然に下に落ちると、張の股間がズボンの布地を押し上げるように膨らんでいるのがはっきり見えた。

美穂は内心で冷ややかに笑いながら、表面上は照れたように頰を赤らめて手を離した。

「ふふ……張さん、顔赤いですよ?私、嬉しいです……」

張は咳払いをして、誤魔化すように笑った。

「美穂ちゃんが可愛すぎるからさ……また、いつでも言ってくれよ。もっと特別なもの、用意してあげるから!」

美穂は2箱を抱えて部屋を出た。

倉庫の外に出て、すぐに高木にメールした。

「サプリ2箱入手。張は完全に美穂落ちてる。このサンプルは今日中に仁さんの会社へ郵送する。」

その日の夕方、美穂はアパートに戻り、2箱をそのまま段ボールに詰め直し、仁の指定した片桐ファーマシーの分析室宛に宅配便で送った。

数日後、仁から連絡が入った。

声は震えていたが、怒りに満ちていた。

「健一君……分析結果が出た。『スリムエクスプレス』に……発がん性物質が検出された。しかも、無認可の強力な食欲抑制剤と、ステロイド系の成分が大量に混入している。こんな物をを飲んでいたら……重篤な健康被害が出る可能性が高い。……うちの社名を使って、こんなものを売っていたなんて……」

健一は電話の向こうで、静かに答えた。

「わかりました。これで、警察への被害届がより強力になります。発がん性物質の検出は、単なる詐欺じゃなく、傷害や殺人未遂レベルの犯罪です。仁さん、城崎さんにすぐ報告を。俺たちは、張から李の連絡先を引き出すまで、もう少し粘ります。」

仁は落ち着きを取り戻し、心配そうな声で言った。

「……ありがとう。ところで、美穂さんの潜入は大丈夫なのか?張の行動がエスカレートしたらすぐに止めてくれ。会社はもう十分に守られたと思っている。」

健一は力強く答えた。

「まだです。李を特定してサイトの根本を断たないと。また新しい偽サイトが出てくる可能性があります。……あと少しだけ時間をください。」

電話を切った後、健一は鏡に映る美穂の姿を見た。

青いリボンを指で軽く撫でながら、静かに呟く。

「張……お前の欲望が、全部証拠になるんだよ。」

潜入は、さらに危険な段階に入ろうとしていた。

張の欲望が頂点に達する日が、近づいている。

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