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第03話 いわゆる陽キャがちょっと苦手です

 さてと、困ったことになった。


 おい、どういうことだ?

 魔王なのに魔界を追い出されたぞ?

 え、なに? これ異世界召喚じゃなくて追放ものだった?


 いや、確かに言ったよ。言いました。

 俺が勇者の学園を潰してやる的なことを。


 はい、調子に乗りました! 乗りましたとも。

 だって魔王なんだもん!


 で。その結果……、一体なにがどうしてこうなった?


 スラランへ向けてカッコつけたはいいが……

 俺は聖アルフォード学園のある王都メルクリスを前にして立ち尽くしていた。


 グルリと王都を一回り、見上げるほどに高く聳える白亜の外壁。巨人の侵入すら許さぬその威容は、まさに人類の砦。


 聖アルフォード学園へ潜入の前にに立ちはだかる、第一の関門。


 ――入国審査。


「……ふぅ。落ち着け俺。レヴィの用意したこの偽造……もとい、特製書類があれば、何の問題もないはずだ」


「次。身分証の提示を」


 門衛の鋭い視線。俺は勇者の適性を示す印籠代わりの書類を、どこかのスライムよろしく、プルプル震える指先で差し出した。


「こ、これが……目にはい……入らぬかぁ~。ゆゆゆ、勇者の……」


「おおっ!?  適性値Aランク! すごいじゃないか少年、未来の勇者様万歳!」


 一転して、門衛の顔が太陽のように輝いた。

 握手、声援、そして周囲からの羨望。なるほど、これが『勇者』という名のブランドか。適性があるだけで、見ず知らずの他人が笑顔になる。


 だがしかし、「頑張れよ」の後に続いた言葉で、俺の引きつった笑顔は消え失せ、

 そして、思い知る。


「適正者百名の中から、栄えある勇者候補生三十名に残れるように祈ってるよ」


 その先にあるのが、茨の道だということを……。


 書類を出して「ハイ合格!」じゃないの!?


 茨の道どころか、断崖絶壁、行き止まり。

 とはいえ、試験を受けるところまで根回ししていたレヴィの手腕を褒めるべきか。



 城門をくぐり抜けると、そこには魔界では決して拝めない光景が広がっていた。


 まず目に飛び込んできたのは、空を切り裂くように立ち並ぶ尖塔と、それを繋ぐ真珠色のアーチ。石畳は一点の曇りもなく磨かれ、道の両脇には飲むことすら可能と思えるほど透明度を増した水路がキラキラと陽光を反射している。

 魔界の硫黄臭い泥水とは大違いだ。ここでは空気さえも、焼きたてのパンと花の香りが混ざり合ったような、暴力的なまでの『平和』に満ちている。


「で、目的地は、っと」


 ふむふむ、なるほど。

 メル大講堂、っと。


「……どこだそれっ!」


 完全なる迷子。

 この眩しすぎる街並みの中では自分がどこを向いているのかすら分からなくなる。

 地図を回しながらその場で一周クルリと回ったところで、同じように回っているやつを発見。


 だが、俺と違って目を回しているわけじゃなく……、

 コマのようにクルクル回り俺のほうを向いてピタリと止まると。


「やあ! 君も適正者か~い?」


 ボリュームの壊れた甲高い声が飛んできた。

 片目を覆い隠すサラサラの青髪が風に揺れ、細身の体形をアピールするためか、ピッチリとした真っ白な服を着こなし、胸元は情熱的にパックリ開く。

 髪をかき上げサラサラ~ン。白い歯を輝かせキラキラ~ン。

 

 この痛い系王子様を一言でいうと、


「チャラッ!」

「チャラ? ん~? ノンノン。僕の名前はチャド! よろしくさ~ん」

「なあ、今いってた適正者って……勇者の?」

「ああそうさ~! その書類には僕も見覚えがあってね~」


 チャドは俺の書類を指さしながら自らも同じ書類を手にしてキラリと笑う。


「おおー助かった! 俺はダイチ! いやー行き先がわからなくて途方に暮れてたとこだったよ」

「ダイチ? いい名だね。テラ・グラドの寵愛を一身に受けていそうな、まさに大地の化身といったところかな~?」


 その名は知っている。いわゆる地の精霊的な奴の名だ。

 でも、残念だったなチャド。俺が受けてる寵愛は魔王によるものだよ。


 なんてこと当然言えるはずもなく、


「そうそう。大地の寵愛を受けてるんだ俺! ダイチなだけにね」


 と、まあ、とりあえず話を合わせ、メル大講堂への行き方を聞き出そうとした。


「おやおや? そんな重要な情報をライバルの僕に教えていいのかな~?」

「ん?」


 髪をかき上げ、ニヤリとしたり顔のチャドと、その意図を図りかねる俺。


「今の会話で君が土属性を得意とすることが僕にはわかってしまったよ~」

「ああ、まあそうなるの……かな? でも別によくない?」


「ふふ、器が大きいのか、ブラフか、それとも隠し玉があるのか。なんにせよ、僕の直感がこう言ってるよ~。君との対戦は注意しろと」


 は? こいつ今……なんて?


「対戦? ……って?」

 そんな質問を受け、チャドは大きく目を見開く。


「……ダイチ? 君、勇者候補生の『選抜試験』を受けに来たんだよね?」

「その……つもり」

「まさかと思うけど、試験内容は……?」


 唾をゴクリと飲み込み、じっと見つめるチャドの視線の先に、


「知らない」


 ノープランの魔王様がそこにいた。


 ヤベーッ! 一夜漬けで試験を受けるどころじゃない。

 俺ってば勉強どころか試験内容すらわかってないです!


「ね、ねえ、ごめん! ちょっと教えて! 選抜試験って……何すんの?」

「おうけ~。困ったキャットボーイだ。いいかいダイチ。勇者候補生になるには、学科と実技の試験を突破する必要があるのさ~」


 見た目はチャラいチャドだったが、その見た目にそぐわず、どうやら面倒見はいいようだ。本来であればライバルの蹴落としなんて当たり前だろうに、懇切丁寧に教えてくれる。よし、お前は生かしておいてやろう。


「まず学科。これは勇者候補生であれば当り前の基礎問題である勇者学から五問。魔法学・生産学・魔物学・人界学これらの冒険に必要な基本項目から合計十五問。合わせて二十問の試験となるのさ~」


 くっくっくっ。

 一年に渡るレヴィの個別指導の成果を発揮する時がきたようだ。

 魔王学に始まり、闇座学、ひいてはサキュバスの生態に特化した夢魔学まで。

 学力に関しては、……関しては……、


 ん? 勇者学?


「次に実技。これは単純明快。勇者候補生に相応しい実力を示す。つまり、一対一の模擬戦闘さ~。そして、合否に最も直結するのがこの実技試験。ということになるかな~」


 ふむふむ、わかりやすくていい。ようは強ければいいんだろ?


「僕としてはダイチ、君には僕のように美しく勝利してもらいたいところだよ」

「任せろ! 相手の体力を吸い取り、骨と皮だけにすればいいんだな?」

「い、いや、ちょっと……それは美しくないかな……」

「あ、じゃあ、黒い向日葵を咲かせる。これは美しい勝利だよな?」

「ほほ~う。黒い向日葵が咲くと相手はどうなるんだ~い?」

「大地に影のみを残して消滅する」

「死んじゃったね、それ……」

「あ、殺しちゃダメ?」

「ダイチ? 君、勇者の試験を受けに来た。ってことでいいんだよね……?」


 ドン引きのチャドの言葉に、俺は実技試験の考えを改める。


 おそらく模擬戦の勝利自体は問題ないはず。惜しむらくはその勝ち方が問題だ。

 つまり、魔王の力を行使せずに、模擬戦を勝利しないといけないってこと。


 はぁ、ったく。……前途多難なことで。


 俺はチャドの後ろを、まるで迷子の子犬のように追いかけながら、ようやく見えてきた歴史漂わす巨大建築――メル大講堂の受付へと向かった。


 握りしめた書類は、すでに手汗でフニャフニャだった。

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