第32話 終末の鐘は誰が為に鳴る
「二十九位。合計得点324点。――――」
教室に虚しく木霊する結果に、俺は神なんていないことを知り、
ゴンッ。
シータは机に額を打ち付けて……絶望の音を奏でた。
「では、本日は以上!」
終了を告げるディアマンテの声。
それはイコールで、俺とチャドの終了も意味していた。
死刑執行が、刻一刻と迫る。
さて、ここで現実逃避がてら、今回の学力試験結果をおさらいしよう。
シータ・フォン・アルス : 学力順位 一位(+10ポイント)
ハイネ・グリム : 学力順位 三位(+8ポイント)
セシル・フリップ : 学力順位 十三位(+3ポイント)
チャド・カレル : 学力順位 二十七位(-5ポイント)
そして……、
ダイチ・ヤギ : 学力順位 三十位(-10ポイント)
結果として六班は、血染めの六ポイントを獲得したのだった。
因みに俺の合計点数は255点。
つまり、断トツ最下位。
俺の死刑が無事確定したわけであり、チャドと共に震えるが、ディアマンテの発した言葉が判決を覆す。
「それとシータ。学園長がお呼びだ。至急行ってきたまえ」
聖アルフォード学園の学園長。いわゆる一番偉い人。
その名は――インザーク・フォン・アルス。
入学の際に姿を見たが、檀上に立つその姿を見た時の衝撃を俺は忘れない。
腰まで届く黒ひげに鋭い銀眼。齢八十歳を超えてるであろうじいちゃんが、真っ赤な制服を身に纏うというファンキーぶり。
そんな人界最強の血筋“アルス”の現当主にして、
シータのじいちゃん。
「……おじいさまが。……私に」
その表情はどういえばいいのか。
怯えと喜びが入り混じった、何とも言えない表情のシータが佇む。
「手順は?」
シータは短くディアマンテに尋ね、
「三塔二階の直線廊下を振り返ることなく行き止まりまで」
ディアマンテもまた端的に答えを返すのだった。
「先に帰ってて……ご飯までには帰るから」
聞くや、俺たちの方を振り返ることなく、シータは一人教室を出ていく。
きっと俺たちに見せたくない表情をしていたのだろう。
じいちゃんに会う孫として、鼻の下が伸びた緩んだ表情なのか。
それとも、お偉いさんに会う緊張から、強張った表情なのか。
それはわからないが 見栄っ張りのこいつだ。表情を隠したことが答えとなる。
なんにせよ、これで鳴り響く終末の鐘の音は、一時停止することになった。
「なんだか……怖い顔してましたねシータさん」
セシルがポツリと誰に告げたわけでもない声を漏らすが、俺はお気楽に答える。
「そうか~? 試験結果の発表中のシータに比べたら可愛いもんだろ」
「ふふっ、ほんとそうですね。あれは怖かったです」
「ははっ、だろ」
「ふふっ、あはは……っ!? って、やだ、こっちのが怖いっ!」
目元を隠す紫に染まる前髪の隙間から目が合うと、セシルは怯えて目を逸らし、
「お、落ち着いてセシル。あれはカボチャ。固くて冷たいカボチャよ! カッカ~カボチャ~、カボチャチャチャ~、カチカチヒエヒエ、カボチャチャチャ~」
カボチャの歌を歌いながらそそくさと帰り支度を始めるのだった。
いや、ちょっと、あの……すみません男性恐怖症さん?
一か月も同じ屋根の下で暮らして、俺っていまだに固くて冷たいカボチャなの?
ディアマンテ先生。
早くも赤の他人のために涙を流せそうです。
こうして俺たちは、まとまりなく帰路に就き、
――シータは……ご飯の時間に帰ってこなかった。




