第28話 連続クエストは続くほど難易度が跳ね上がる
「まお……だ、ダイチ……さま……さん!」
クエストの開始を告げるプニプニの声。
振り返ると青髪のおかっぱ頭を揺らし駆けよる子供。
……を、懸命に止めようとする三人組。
まるでアイドルに駆け寄るファンと、それを守護するガードマン。
うん、それでこそ魔守護狼隊だ。
って、そうじゃなくて……そこの三人組は親衛隊だと知っている。
……っが! 駆け寄るお子様……これは一体誰ですか?
「え~……っと?」
「スラランです! まお……だ、ダイチ……さま……さん!」
これまたどえらい緊急クエストが発生した!
ニッコリ笑顔でスラランと名乗った、おかっぱ頭で青髪の子供。
……の後ろで、魔守護狼隊の奴らも青に染まり、顔面蒼白でその様子を窺う。
「あら、ダイチ、知り合い?」
シータがスラランをじっと見つめながら声を掛けてくる。
くそ、なんでここにスラランがいるんだよ……。
いや、今考えるのはそこじゃない。この場を自然に切り抜けることに注力しろ!
「ああ、買い出しで王都を出歩いてた時に知り合ったんだよ、なっ? スララン」
「はい! まお……だ、ダイチ……さま……さん!」
「ははっ、もうさっきからなんだよそれー。ダイチさん! だろ? なっ?」
「はい! まお……だ、ダイチ……さま……さん!」
おいダメだそのスライム。そいつ多分NPCだ。
さっきから同じことしか言わねー!
「お、おーっす、ダイチ。今日は何を買いに来たんだよー?」
ヨルが空気を読んで慌てて軌道修正。
ナイスだヨル。あとで骨付き肉をやろう。
「おいーっすヨル。元気してたか? 今日はケーキの材料を買いに来たんだよー」
と、まあ何気ない世間話へシフトチェンジした。
……つもりだったのだが、
「ケーキ!? はわわわわわ。や、やっぱりボクのおやつはもういらないということですか? まおダイチさまさん!」
やっぱダメだこいつ。早く何とかしないと。俺が死ぬ!
「な、何を言ってんだスララン。おやつ作りにおいてお前がナンバーワンだ!」
「ほ、ほんとですかー?」
「ああ本当だ! あそこにいるシータの作るおやつなんて酷いもんだ!」
「ほんとにほんとですかー?」
「お前が作るものを“おやつ”と言うのなら、あいつのはただの“おぶつ”、うんこだ」
「ぼ、ボク、おやつをいっぱい作ってきたんです」
「そりゃ嬉しいな!」
「沢山食べて欲しくて。いっぱい……いっぱい作ってきたんです!」
「ありがとうスララン! これでウマくもなく、マズくもない、五十点のうんこを食べなくて済むってもんだ! 今から受け取りに行くよ! いやーよかったよかったー!」
「本当によかったあああ~! やっとボクのおやつを受け取ってもらえる~!」
ふぃ~、これにてクエスト完了~!
「ねぇ、ダイチ」
安堵の表情を浮かべる俺の肩をポンポンと叩くシータは、満面の笑みで、
「その前に話があるから」
……はい、皆さん。どうやらクエスト失敗のようです。
生きてたらまたお会いしましょう。
* * *
「ったく、スララン! 来るなら来るって言えよ!」
両頬を真っ赤に腫らしながら、スライムに説教する魔王さん。
場所は王都の西の西。貧民街。
腐敗臭が充満し魔界と見間違う、そんなゴミ溜めの室内。
あの後、シータは俺を街角という体育館裏に呼び出し、見事な往復ビンタをお見舞いすると、荷物を持って一足早く寮に帰った。
「す、すみません。ですが……魔王様が心配で心配で……」
「ん? なんか心配させるようなことしたか?」
特に問題を起こしたつもりはないし、むしろ問題を起こして心配をかけたのはお前の方なんだが?
「魔王様がシュラ様に殴られてぶっ飛んだとお聞きしました。……どこかお体が悪いのではないでしょうか? ボクのおやつを食べてないからではないでしょうか? そう思うといても立ってもいられなくなって……」
なるほど。どうやら盛大な勘違いが発生しているようだ。
その要因の一つはシュラ。
そして、根本的な原因は……、
『はぁ~、アルス。アルスだよ』
なんて言った俺の不用意な発言か。
魔守護狼隊の三人も心配そうに見つめている。
「心配かけたなスララン。大丈夫だ。そのぶっ飛んだ奴は、俺じゃないよ」
レヴィへの報告も兼ねて、俺はたっぷり時間をかけ詳細に説明をした。
シータを助けた部分を……語ることなく。
「魔王様、レヴィ様へその報告をしてもよろしいでしょうかニャ?」
ララが片膝を付き確認を取るが、言うまでもない。
「頼む。それとシュラにはしばらくの間、人界への外出禁止令を出しておけ!」
あいつには自由を奪うことが何よりの罰だろう。
学園流に言うとしばらくお前は停学だ。
退学にならないだけマシと思え!
「それとアルスの存在。こちらも正確に報告しますニャ。本物でにゃいにしてもその血縁。始末は如何されますかニャ? ご命令でしたらララが殺りますニャ」
「手を出すな! 俺に任せておけ」
「わかりましたニャ。全ては魔王様のお心のままに」
ララは面を上げることなく百依百順、忠実な態度をとる。
さて、残る問題点は……、
「スララン。お前いつまで王都にいる予定なんだ?」
心配事が解決し、ポヨンポヨンと飛び跳ねるスラランへ滞在日程の確認。おやつの在庫もさることながら、まさかと思うけど、スララン……お前。
「魔王様が役目を果たすまでおそばにいます!」
ですよね。言うと思った!
大丈夫かよ……。だって、お前どうみても隠密に向いてるキャラじゃないよ?
それが証拠に、さっきもお前勝手に飛び出して行ったでしょ。ララたちすげー慌てて止めてたけど。
……ただまあ、それはそれだな。
俺の心配をしてここまでやってきた気持ちは嬉しいし、これでおやつに困ることもなくなり、そこも嬉しい。それに本当に大変なのは……俺じゃないし。
「ララ。スラランのこと任せるな」
「にゃにゃ!? それって……魔王様が役目を果たすまでってことですかニャ?」
「そそ。んじゃ、よろしく~」
「ボク魔王様のそばにいたいんです! ど、どうかよろしくお願いしますっ!」
「にゃ……にゃぁ~」
猫耳のようなお団子頭がほどけ、崩れ落ちるように頷く猫。
ララ、もうわかってると思うけど。
そのスライム、想像以上にヤヴァいから気を付けて!
「これでしばらくは安泰だな」
ふ~ヤレヤレ。ようやくクエスト完了だ。
こうして俺は報酬としてリュックにおやつを詰め込み、寮に帰還し、これから起きる“事件”と共に、早くも前言を撤回することになるのだった。




