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第24話 この門衛はそろそろクビにした方がいい

「ごめんなさいっ! リーダーとしてあるまじき失態でした!」


 六班のみんなへ向けて、シータは直角どころか、もはや折り畳み携帯のように腰を折り曲げ、地面に額をめり込ませる勢いで謝罪をぶちかました。


 こいつって結構簡単に謝るよな。

 まあ、非を認めて素直に謝ることができるってある意味才能だけど。

 俺、あんな風に絶対に謝れない。むしろ意地になるタイプです。


 はい。つまり、俺は謝らな――


「あんたも! ほらっ、ごめんなさいして!」

 ちょ、やめろ、俺は悪くない! 強引に頭をグイグイ押される俺。


「もうやめてください。ポイントのことはいいので、それよりもお体は平気なんですか?」


 下げた頭を上げようとしないシータの肩に手を触れ、謝罪の終了を促すセシルだったが、シータは頑として動かない、どころか、“ポイント”その言葉はポンコツを更に加速させる。


「――ポポポポポイントッ!? ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」


 やっぱ選抜試験の時と同じだな……。こいつ謝り始めると病的だ。


「もしポイントを気にしているのなら、その必要はありませんよ? リーダーが無事ならハイネは0ポイントで大満足です! ううん、むしろゼロ! 無能のゼロ! 0ポイントがいいでっす!」

 キャピっと笑顔の仮面をかぶりつつも苛立ちが隠しきれていないハイネ。


「0……ポイント。ゼロ……空っぽの私……ごめんなさい。ごめんなさい」


「だって、そうじゃないですかぁ。 何一つ成し遂げられなかったという完璧な実績。これって、ある意味で選ばれた人間にしか出せない数字ですよぉ? 普通は中途半端に1点や2点を取って、みっともなく足掻くんです。でも、シータお姉ちゃんはその次元を超越して『完全なる無』へと辿り着いたんでっす! 誇ってください!」


「……落第。不要。……空虚な私。うわあああああああああ」


 もうやめてやってハイネ!


 こうしてシータの謝罪は三十分に渡り続いたのだった。

 こいつマジめんどくせーっ!


「ひっくえっぐ……だからね……ダイチが……えっぐ。そのね。えっぐ。悪いの……全部……えっぐえっぐ。ダイチ、ひっく、えっぐえっぐ。ダイチが、えっぐえっぐ……えぐうううう」


 落としどころとして俺のせいってことで落ち着いた。

 いいよもうそれで。えぐみもきついし。


 声を掛けてよそ見させたのは俺だし。そもそもシュラが来たのもどうせ俺のせいだし。回復魔法で俺まで意識を失っちゃって、それが決定打となって、ドクターストップが掛かったわけだし。


 ……普通に俺のせいですね。


「おい、シータ。もういいだろ? お前鼻水ぐらい拭けよ美人が台無しだぞ」


「えっぐ……ズズ~、あんたが悪いんだから! 全部あんたが悪……っ!?」

 床に突っ伏して泣き喚いていたシータは、ピタリと泣き止むと、


「美人ってところを詳しく」

 この外道まんまと餌に食いついた。


 よろしくさ~んとチャドを見やると、俺の意図を察したか、


「麗しくも儚げな表情を併せ持つ君。まるで月夜に震える女神の如きその顔立ちに、僕の理性は銀翼を授かり、どこか遠い銀河へ飛んでいってしまうよ」

 おーけー。チャドだ。


 シータは心に刻み付けるかのように耳を澄まし、鼻を真っ赤にしながらも顔を上気させる。

 おーけー。シータだ。


「君の勇ましさを伝える金の目。僕の心を弄ぶ小悪魔的な銀の瞳。その両目が撃ち抜くさまはまさに恋の矢、一射絶命、いいや、そんなに気負わなくても大丈夫さ~。だって、君がどこへ矢を引こうが、それは全人類のハートに必中の恋の矢となるのだから」

 どうだ、これがチャドだ。


 シータは鼻水を洪水のように垂れ流しながら、徐々に足が内股に。


「ああ、なんて神々しいんだ。今、君の鼻から零れ落ちようとしているその一滴。それこそは悲しみが生んだ純粋なる結晶……いいや、万病を癒し、枯れた大地に奇跡の花を咲かせる『聖水』そのものじゃないか。その一滴こそが、僕たちの歩むべき光の道標だ」


「ズズズーチィィィ~ン。……こ、これ。少ないですが役立ててください」

「ああ~。綺麗だね~」

 シータは謝罪を切り上げ、恍惚の表情のまま、トイレに駆け込むのだった。


 ねえ、なんなの? この変態たち。


 それこそ水で俺を笑顔にしてくれるのは、やっぱスラランだけだな。

 ……元気にしてるかな、スラランのやつ。


 はあ~、なんだかおやつが食べたいな……。


       * * *


 ド、ドキドキ。


 ボクの正面には、白銀の城壁が天を突く王都メルクリス。


 まずこの薬を飲んで人に姿を変えるんですよね。

 えっと、それからそれから――


 スライム一匹浸み込ませないと噂の城壁を前にして、ボクはレヴィ様から教わったことを思い返すのでした。


『スララン。お前に高度な演技など期待していない。いいか、この血染めの封書を提出したら、あとは一言もしゃべらずただ震えて立っていろ。それで万事うまくいく』


 ……とのことですが、


 実のところボクは半信半疑です。

 本当にそれだけで、人類の牙城に潜入できるのでしょうか?


 プルプル。


 何はともあれ、まずは薬を一息に飲み干します。


 お、おぉ……!?

 視界が、景色が、ぐんぐんとせり上がっていきます!

 今まで地を這うようだった視点が、いきなり大人の腰の高さまで上昇し、

 え、ちょ、高い高い! なんだか怖い!


 どうやら子供の姿へ擬態したようです。


 手足があって、胸も首もあるのは素晴らしいことですね。

 これで胸を張れますし、首を差し出すことだってできます。

 死ぬときはこのように胸を張って、魔王様のために首を差し出したいものです。

 なんて勇猛果敢なボク。……に、憧れるボク。なのです。


 ですので、こんな入国審査ぐらいでプルプル怯えるわけにはいかないですよね。

 ふんす! さぁどんとこいっ!


「次。身分証の提示を」


 はわわわわ~。よ、よよよよ呼ばれちゃいましたぁぁぁ!

 巨大な槍を携え、鉄の兜から鋭い眼光を覗かせる門衛のおじさん。

 その威圧感に、ボクの胸あたりがバクバクと暴れ狂います。

 やっぱムリ~! こ、怖いです……。


「…………」

 プルプルプルプル震えます。


 全身プルプルぷるえて、言葉なく血染めの封書を差し出します。


 おじさんは怪訝そうに封書を受け取ると、魔物の返り血で汚された痛々しさに顔色を変えました。


「これは……辺境騎士団の、緊急伝令紋……?」

 どきどき。おじさんは震える手で中身を読み耽ります。


「…………っ!!」

 ひぃ。おじさんの鼻がヒクヒクと鳴り、一筋の液体が頬を伝わってます。


 プルプル。ブルブル。


「……怖かったな。坊主、本当によく……よくぞここまで生き延びたな!」


 ガシッ! と、ボクのぷるりとした肩が、鋼鉄の籠手に掴まれました。

 はわわわ! 捕まった!? 絞り殺されるのですか!?


 プルプル。ブルブル。

 ボクは極限の恐怖で小刻みに震えます。


「ああ、もう大丈夫だ! 震えることはない! ここは世界で最も安全な場所、王都メルクリスだ! 君の両親の勇気は我々がしかと受け継ごう!」


 な、なにが大丈夫なのでしょうか?

 ボクの両親ってどちらにいらっしゃるのでしょうか?


 胸を丸め、首を隠すボク。

 プルプル。ブルブル。


「さぁこちらから通るがいい。いいか、いかなる時も希望を捨てるなよ!」


 おじさんさんは、他の入国希望者を待たせたまま、ボクを「最優先保護対象」なんて言いながら門の奥へとエスコートしてくれました。


 あのー、レヴィ様。なんだかよくわからないのですが……。

 確かに一言もしゃべらず、震えて立ってるだけで入れましたー。


 なにはともあれ、潜入成功です。

 ボクは手を丸め、双眼鏡のようにして正面を覗きます。


 王都というと中央に王城がプルンと聳え立つものですが、ここでは違います。


 人類の希望である勇者。それを育て上げる聖アルフォード学園が、この王都メルクリスの中央に象徴の如く鎮座します。

 そこへ至る大通りの先――


 そこにあるのが第二の関門、アルス大聖門。


 魔王様のいらっしゃる場所まで目と鼻の先です。

 さーもう一息です、なんてわけはないですよね。


 ここから先は進入禁止です。

 ()()()()()()()()()()


 はてさて、どうしますかねー?


「スラランだニャ? きさまがスラランにゃんだニャ?」


 キョロキョロするボクを呼び止める声が聞こえます。

 目の前で招き猫のように手招きする少女は一体誰でしょうか?


「……え、い、いえ。あの……ぼ、ボクは人間……ですよ?」

「ニャッハッハ。人間がわざわざそんにゃことを言うかニャ?」


「ぼ、ボクはある方に会いに来ただけなんです……」

「ああ、知ってるニャ。だから、ここできさまが来るのを耳をにゃがくして待ってたニャ。さ、詳し話はアジトでするニャ」


「あ、あの……その前に……あなたは一体誰なんですか?」

 ボクは恐る恐る、オレンジ色の髪を猫耳のように二つのお団子頭にしている少女に問い掛けます。


「ララの名前はララと言うニャ。猫魔族のララだニャ。そしてきさまの言う“ある方”の『親衛隊長』を務めてるニャ」


「――!? こ、これは失礼しました! ぼ、ボクはスラランです。多分スライム族のスラランです。ある方のおやつ担当をしています」


「ニャッハッハ。にゃらきさまの役目はおやつを作ることにゃんだニャ」

「は、はい。ララ様。なのでボクはここまでおやつを作りに来ました!」

「それは殊勝にゃ心がけニャ。あと“様”にゃんてつけにゃくていいニャ」

「え、えっと、ではララさん。ララさんはここで連絡係をされているのですか?」


「そうニャ。ララはここで連絡係をしながら、ある方に不測の事態が起きた場合、脱出の手助けをするのが役目。……にゃんだけど」


 続けて、餌を貰う子猫のような鳴き声でララさんは言います。


「本職は“殺戮”だニャ!」


 そう言って、子猫はニャハハと鳴いたのでした。

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