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第23話 スライムが主役の作品は既にある

 大変なことになっています。魔界は上を下への大騒ぎです。


 それでは、皆さま暫しのお立合い。

 回想シーンのはじまり、はじまり~。


 何はともあれ、まずはここからスタートしましょうか。


 事の発端は――コンコン。

 いつものようにノックをしたところから始まります。


 もちろん、説明するまでもなくお返事はありません。

 ……ですが、


「れ、レヴィ様~。シュラ様がお帰りになったと聞いたのですが……」

 ボクはシュラ様にお聞きしたいことがあるのです。


 魔王様にきちんとおやつを渡してくれたかどうか。

 それが気がかりで自慢のプニプニ肌がブニブニ肌に肌荒れしちゃってます。


 よって、例によりソロリソロリと扉を開け。

 ――本題である騒ぎの狼煙が上がりました。


「火ッカッカ! ああ、ほんとだ。いきなり魔王様が斬りかかってきたんだ!」

 狼煙なんて言いましたが、爆炎が上がりましたと言った方がいいですね。


 そこにいるのは四鬼将の皆様。

 そして、シュラ様が……えっ!? 何ておっしゃいました?


「……ふむ。それは本当に魔王様だったのか?」

 腕を組み、シュラ様へ再確認をしたレヴィ様は、何やら難しいお顔です。


「俺様が魔王様を見間違うわけがないだろっ! あれは確かに魔王様だった!」

 ピーッと鼻から蒸気を噴き上げ、まさに鼻息荒くシュラ様は断言します。


 大丈夫ですか? シュラ様って人の姿をしたものは全部可燃ゴミに見えてますよね? 魔王様のことを燃えるゴミと見間違ったりしてないですか?


「あらぁ、それじゃ、魔王様ってば洗脳でもされちゃったのかしらねぇー?」

 ゼパル様は唇をぺろりと舐め、三つの瞳を蛍光ピンクに輝かせます。


「もぐもぐ。きっとお腹が減って気が立ってたんデス。むしゃむしゃ」

 レッドグリフォンの卵を大事に抱え、プリン様の目の前は酒池肉林の光景です。


「それで、貴様は魔王様に手を出したというわけだな?」

「火ッカッカ。そうだ! 襲いかかってくるもんだから、遊んでくれるのか? と聞いたら、遊ぼうと魔王様の方から誘ってきたんだ!」


 ボク、思うのですが……。

 魔王様は一人で寂しいのではないでしょうか?

 聖アルフォード学園に馴染めず、一人っきりで寂しい思いをしてませんか?

 だから、見知ったシュラ様に嬉しくて、飛びついたんじゃないのでしょうか。

 遊ぼうと、声をかけたんじゃないのでしょうか。


 きっとそうです。そうに違いありません!


 だって、魔王様は常日頃、お勉強の時間を抜け出しては、ボクと遊んでたじゃないですか。だから、一緒に遊んでくれる遊び相手がいなくて、寂しがってるんです! つまりは、ボクを必要としてるんです!


 ふんす。ボクはひとりプルルンと息巻きます。


「でもよー、魔王様ったらひでぇんだぜ! 俺様は魔王様と殺り合えると思ってワクワクしながらファイアーパンチを繰り出したってのによ、魔王様、よそ見してワザと俺のパンチを食らいやがるし、ど派手にぶっ飛びやがるんだもんなー!」


「「「ぶっ飛んだっ!?」」」


 四鬼将の皆様が揃ってシュラ様の報告に首を傾げます。傾げる首はないですけど当然ボクだって同じ反応です。よそ見をしてようが、無防備に受けようが、それでも魔王様がぶっ飛ぶ姿というのは想像がつかないものです。


 レヴィ様なら何かわかるのでは、


「レ、レヴィ様」

「……やはり……魔王様の身に“何か”が起きているのか?」

「レヴィ様!」

「ん!? なんだスララン。いつの間にそこにいたのだ?」

 ようやくボクの存在に気が付いてもらえました。


「魔王様……どこかお体が悪いのでしょうか……?」

「クックック。案ずるな。お前はお前の役目を果たせばよい」

 なんてボクの心配をレヴィ様は一笑に付すのでした。


「おおー! スッララアアアアーンッ!」

 そんな中、今回の元凶であるシュラ様は本日も開口一番セクハラです。


「シュ、シュラ様、畏れながらプニプニを一度おやめください。今はそんな場合じゃなくてお聞きしたいことがあるのです! あの……魔王様におやつを渡してもらえましたか?」


 ニカッと満面の笑みのシュラ様。

 お、おおー? こ、これは!


「火ッカッカ! 渡した! 渡したら、投げつけられて斬りかかってきた。つまり、喜んだってことだな! 火ッカッカ!」


 渡せてないですシュラ様! どうやったらそれで喜んだと思えるんですか?

 うう、魔王様受け取れてないじゃないですか……。

 いえ、それよりも状況は芳しくないですよ。

 魔王様はボクのおやつを投げつけて、シュラ様に斬りかかった。

 つ、つまりですよ……喜ぶどころかおやつがお気に召さなくてお怒りになった。

 ……そういうことになりませんか?


 失態です。これはボクの首が飛んでもおかしくない失態です。

 飛ぶ首はありませんが。魔王様へ、ない首をどうやって差し出すか迷う中、


「なっ、シュラ! 貴様、魔王様にきちんとおやつを渡してないのか?」

「レヴィまでなんだ、だから渡した! そしたら投げつけられて斬りかかられたと言ってるだろうが、きっと興奮を抑えきれなかったのだろうな、火ッカッカ!」


 ボクはレヴィ様と顔を見合わせます。


「レヴィ様……ボクはどうすればいいのでしょうか……?」

「すでに魔王様のおやつは切れていて……それによっての反動? なんにせよ王都に潜伏中の魔守護狼隊フェン・リルに安全確認を取るしかあるまいが……」


「レヴィ。その魔守護狼隊フェン・リルからの報告はどうなってるんデス?」

 食事を終えたプリン様はお口を拭い、レヴィ様に定期連絡の確認を行います。


「黒髪の女と一緒に港町ポプラに搬送されたと連絡はあったが、詳細はわからぬ」

「黒髪の女? おお! そうだそうだ! それだ! 思い出したっ!」


 シュラ様は突如大声を上げ、パンッと手をひと叩き。

 こうして紡がれた次の言葉に、


「そいつは()()()だ!」


 ――魔界は上を下への大騒ぎとなりました。


「う、ううううっそぉー? アルスって、あのアルス?」

 ゼパル様が椅子から転げ落ち、反動でプルンと胸を揺らし、


「それは同じ名前なだけなのなのね! アルスは千年前に姿を消したんデス!」

 プリン様が大きな口をパクパク開けながら、レッドグリフォンの卵を床に落とし、


「火ッカッカ! どうだ、燃えてきたか?」

 シュラ様は蒸気を噴き上げ、ニカっと笑顔。


 どうして笑顔なんですかシュラ様!


 人界にアルスの名を持つ人はいるのでしょうが、それでも自らをアルスとは名乗りませんよね。命名でアルスなんて名付けることもしないでしょうし、そりゃそうですよ、ボクがヴェリドの名を付けるようなものです。


 “スララン・プル・ヴェリド”

 はわわわ、畏れ多くてとてもじゃないけど無理です。

 ムリムリ、名前に殺されます!


 うーん、これは流石にシュラ様の勘違いかと思われますが?


「だが、俺様の最大火力のキャンドル・サー・デスを受けて無傷だったんだぞ?」


 なんですと――!? 無傷?

 そ、それは……そんなことができるのは魔界では魔王様ぐらいのものです。

 魔王様と同等のことができて、その人物がアルスと名乗った。

 かつて魔王レイス様を一人で討ち滅ぼした勇者アルスの名を……。


 どうしたことでしょう。

 こ、これは一気に信憑性が出てきましたよ。


「……それでもそいつが魔王レイス様を討ったアルスとは思えない。……が、調べる必要はあるだろうな。さて……どうしたものか。スララン、万が一の状況も考えられる……今すぐ王都に向かえ!」

「え!? お、お言葉ですがレヴィ様、そんな敵陣ど真ん中に向かってもボクには何もできません……」


 ボクにできることなんて……、


「できるだろ、おやつを作ることが」


 そうです。たったそれぐらいのことしかボクにはできません。


「前にも言ったであろう。魔王様があのような魔王様でいられる原因はお前の魔水のお陰かもしれないと。だからわざわざ四鬼将を使って確実におやつを運ばせたというのに……シュラのやつめ、まったくゲロの役にも立たない!」

 にわかには信じられないことですが、語るレヴィ様からは鬼気迫る緊迫感のようなものを感じます。


「ならば直接行くしかあるまい! 依然として自我を保ち、人としての記憶を消さず、されど魔王の力をその身に宿す。その原因がスララン、お前のおやつにあるとしたら、聖アルフォード学園攻略の是非はお前にかかっていると言っても過言ではない」


 傾げる首も、張り出す胸も、歩みを進める足もないけれど、考える頭だけはあるのです。

 ボクは脳内プル回転で考えます。


 早口でまくし立てるレヴィ様の焦りから察するに、


「レヴィ様……最初にたっぷりと詰め込んだおやつはすでに――」

「在庫切れを起こしているだろうな」


 レヴィ様の推察が正しいとするならば、


「ボクのおやつを食べない状態が続くと、魔王様は――」

「魔王の力に呑み込まれ、暴走する可能性がある」


 回れ右でボクは飛び出します。

 あの時のシュラ様同様に、裸一貫、この身ひとつで、ボクは飛び出します。


 こうしてこのボク、スラランの大冒険が始まったのでした。

 なんて言うと、お姫様を救いに行く勇者の冒険のスタートみたいですが、逆です逆。勇者に捕らわれし魔王様を救出に行くのです。

 いえいえ、それもまた大袈裟ですかね。


 では、スラランのはじめてのおつかい。そんな感じでどうでしょうか?


 よーし! 待っててくださいね、魔王様! 


 ボクは日の当たる場所を目指して、一歩を踏み出すのでした。


 いえ、ですから、足もないんですがね……。

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