第16話 平和な日常はすぐに壊れるものです
コンコン――。
今日も今日とて、ボクはノックします。
「おいレヴィ! まだか!! 俺様はまだ魔王様と燃えることができないのか!!」
そして、相も変わらず、扉は開いてくれないのです。
扉の隙間から熱気が漏れ出して、シュラ様は何やら火ッカとお怒りのご様子。このままでは魔王城の廊下が炭になってしまいます。
「まあ待てシュラ。乗り込んだところで入れなければどうしようもあるまい」
「どうして入れないと決める! たまたま入れるかもしれないだろ」
では、ボクはまたまた入りますね。
「あ、あの~、れ、レヴィ様」
「おっ!? スッララアアアアアン」
はい。レヴィ様より先に反応を示したのはシュラ様です。
「火ッカッカ! おっぱいだ! 本日も変わらずおっぱいだな!」
右手でプニプニ。左手でツンツン。
シュラ様は本日もお変わりなくシュラ様です。ボクにはよくわかりませんが、地球ではこういうのをセクハラと言うみたいですよ?
と、いつまでもプニプニツンツンされてるわけにはいかないのです。
「え、えっとレヴィ様。魔王様のおやつをたっぷり作ってきました」
「うむ。ご苦労。ではシュラ。おやつを届けに行く大役を任せてもいいか?」
「――レヴィ様!?」
その言葉に驚きを隠せないボクは、ない頭で必死に考えます。
だ、大丈夫でしょうか? レヴィ様。
「火ッカッカ! 任せておけ! では、黒焦げにしてくる!」
喜び勇むシュラ様は、ボクの不安的中に、持つモノ持たずに人界へ向かおうとします。いえ、それどころか、むしろ服も着ていないので素っ裸です。
もーほらぁ。つまり、スライムのボクが言うのもなんですがアウトです。
セクハラです。
まずはおやつ! おやつをシュラ様。早くも目的を忘れてるじゃないですか。
ど、どうしましょう……これは任せられませんよ? 本当に大丈夫でしょうか?
なんてボクの心配は、レヴィ様によって杞憂に終わります。
「二日後だ!」
レヴィ様は期日を伝え、炎を鎮火します。
「おい、どういうことだレヴィ! 俺様はすでに着火しているぞ!」
「クックック。より燃えるよう薪を焚べていると吾輩は言っているのだ」
やっぱり慣れません。その歪んだ笑顔にボクはプルプル震えてしまいます。
「まあ聞け。これより二日後。聖アルフォード学園から勇者候補生が雁首揃えてノコノコ出てくるとしたらどうだ?」
「火ッカッカ! なんだそれはレヴィ! 燃えるぞ!」
んん? どういうことでしょうか。
勇者候補生が聖アルフォード学園から出てくる? それは買い出しなどで数名は王都へ行くこともあるでしょうが、そうじゃなくて全員? いえ、それでも王都で戦闘を行えば、ハチの巣を突っついたように人界の強い人たちがわんさか押し寄せてきませんか? 結局は同じことかもしれません。
では一体どういうことでしょうか?
「シュラよ、聖アルフォード学園最初の恒例行事を知っているか?」
「火ッカッカ! 俺様を冷やかすなレヴィ! もちろん知らん!」
清々しいですシュラ様。ボクも見習いたいものです。知らないことは知らないとハッキリ言えるようになりたいものです。
「では聞け。二日後に行われる恒例行事。それは勇者候補生たちが王都メルクリスより更に北、迷いの森の先にある港町ポプラを目指す――行軍だ」
そ、それはまさか……噂に聞く歓迎遠足というやつではないでしょうか?
確かにそれはシュラ様におやつを届けさせるわけです。
あ、でもどうなのでしょうか。
遠足のおやつは三百ルクスまでと相場が決まっていたような。
あ、でもでも、バナナはおやつに含まないはずです。
そう聞いたことがあります。
むむむ。これはおやつの作り直しも検討すべきでしょうか。
そんな脳内プル回転のボクを置いてきぼりに、
「だが、今回の行軍はいつもと様相を変えることになるだろう。魔王様という爆弾を懐に忍ばせ、いつもと同じというわけにはいかないよな。クックック」
「なるほど! 一緒に爆発しろというわけだな! 火ッカッカ」
レヴィ様とシュラ様はクッ火ックッ火ッと笑うのでした。
ですが……ボクは畏れながらもシュラ様へ思いを告げるのです。
「あ、あの! シュラ様。お、おやつ。ボクのおやつを渡してくださいね?」
折角の遠足なんですから。大空の下で美味しく食べて頂きたいものです。
「シュラ。スラランの言う通りだ。貴様が第一にやるべきことはおやつを届けることだ。届けた後は、煮るなり焼くなり焦がすなり好きにしろ。クックック」
「では魔王様におやつを渡して、競争するのも面白いな。一番乗りで港町ポプラに辿り着き、火旗を掲げるとしようか。火ッカッカ! よし燃えてくる!」
「だから二日後だと言っておるだろうが、このゲロッ!」
魔王様、お元気でしょうか?
お変わりはありませんか?
おやつはまだありますか?
もし尽きてしまっていたら、あと二日だけ待っていてくださいね。
腕によりをかけたボクのおやつを持って、シュラ様がそちらに行きます。




