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第12話 人は群れると急に強気になる

「まずは班分けを発表する!」

 唐突な第一声をもって色めき立つ教室内。皆一様に緊張の面持ちだ。


「では、班分けの書かれた紙を配るので、それに沿って席を移動するように」


 そこに記された班分けは、“五名体制”の全六班。


 ざわめく教室内から聞こえてくるのは、

「よしっ」だの「がんばろう」だのと言った鼓舞の声。

 なんだか早くも結束を固めている様子。


 一方、俺はと言うと……。


「え、なに? 班? って、なになに、え、待って。どういうこと?」

 当然、理解不能に陥る。


「ダイチ、ほら、何ぼさっとしてるのよ。さっさと来なさい! いい? 言っとくけど、あんた足を引っ張ったらタダじゃ置かないからね! はあ……もうヤダ。なんであんたと同じ班なのよ……お先真っ暗じゃない」


 そんな中、グイっと俺の腕を引く高飛車エリートのシータさん。

 どういうことだろう。それは俺のセリフなんですが?

 不平不満を口にするシータによって強引に連れてこられた先。


 そこにいたのは――


「やっ、ダイチ! よろしくさ~ん」

 まずは自己紹介不要のよろしくさん。


 更に、見覚えのある幼女。


「これから一年間よろしくお願いしまっす! ハイネ・グリムです」


 足を揃え、折り目正しく、ぴょこんと一礼。

 実技試験の初戦で見事な戦いをみせたハイネ。

 春の若草のような鮮緑色のくせっ毛をポニーテールにまとめ、大きな瞳をキャピっと輝かせる。小柄な体に真っ赤な制服がよく似合っていて、これぞ癒やし系マスコット。


 そして、最後の一人。


「あ。え……っと。セ、セシルです。セシル・フリップ……です」

「ああ、よろしく。ダイチ・ヤギだ」


 印象が薄かったのか、それとも影が薄いのか、ちょっと記憶にない少女。見た目はおっとりポワポワ系。染物のように美しい京紫のパッツン前髪で目元を隠し、年は俺より少し上にみえる、二十歳かそこらのお姉さん。

 ……だが、視線を隠した瞳で差し出された手をじっと見つめるセシルの様子は、年上と呼ぶにはあまりにかけ離れた姿だった。


 ビクビクと手を出したり、引っ込めたり。


「あの~。……セシル?」

「は、はひ。……手。手ですね。繋げばいいんですよね。わかってます……よ?」


 どうしたセシル。手を繋ぐなんて甘酸っぱいやつじゃなくて、握手。な?


「大丈夫。大丈夫よ、セシル。あれはカボチャ。固くて冷たいカボチャよー。ほ、ほら。あーおいしそ。うわー手を伸ばして掴んでみよー。わー、柔らかくて温かいカボチャだー。生きてるみたいだー、……ひいいい!」


 カボチャ、カボチャと唱えながら、俺の手を指先だけで掴むセシル。

 わーこの世界にもカボチャってあるんだー、って、セシル。保健室に行こう。この手がカボチャに見えるならお前ちょっと重症だ。


「お、おい……セシル?」

 呼びかけた俺の声に、思わずセシルの視線が上向く。


 パッツン前髪の隙間から顔を出す朱色の瞳は、艶やかな牡丹の花を連想させたが、花を愛でる暇なく、


「ぎゃああああああああやっぱ無理いいいいいいい」

 百花を散らすほどの絶叫。


 教室内に声を響かせ、手を振りほどくと、しゃがみ込み震えるセシルと入れ替わるように怒号が花を添える。


「何をしてる! 六班! 貴様らが最後だ。マイナス1の減点とする」


 ディアマンテによる叱責と共に告げられた結果を受けて――


 カボチャお姉さんは依然しゃがみ込み、無理無理と震えてまして、最後に『生理的に無理』とか言われると、魔王さんちょっと泣きそうになりますよ?


 よろしくさんは相も変わらずよろしくさんで、俺の肩にそっと手を置き『女の子を泣かせちゃダメさ~ノンノンノン』なんて言って指をチッチッチと振るので、その指を掴んでポキッと折ってみます。あさっての方向に指が曲がってるのに笑顔のこの人マジ怖い。


 続いて背中をトントンと突かれると、ニッコリ笑顔の幼女と目が合います。唯一の癒しに思わず頬を緩めて近づくと『マジぶっこ』なんて幻聴が聞こえて、魔王さん明日耳鼻科に行かなくちゃ。


 そんな中、血筋だけは立派なエリートさんは、目を血走らせ、後ろから黒いモヤを発生させ、もうどっちが魔王かわからない。俺の足を踏みつけるだけならまだしも、先生に見えない位置で腹パンするのを今すぐヤメてもらっていいですか? それただのいじめです。


 あの……すみません皆さん。俺、何かやっちゃいました?


「席に着け六班! 更に減点されたいのか?」

 脅しにも似た叱咤に、慌てて席に着く六班と呼ばれた俺たち五名。


「改めてメンバーに間違いがないかを確認しろ。この班が一蓮托生。いわば運命共同体だ」


 依然頭上にクエスチョンマークが浮かび続けるが、それでも俺だって勘が鈍い方じゃない。各々の反応である程度の推測はできた。


 恐らくはこういうこと。


 五人一組でポイントを競い合う。

 それによって順位をつける、とかそういうことだろう。

 いわゆるモチベーションの向上だ。


「いいか、これよりこの五人一組で一年間を過ごしてもらう」

 ねっ。ほら。


「そして各班で“合計ポイント“を競い合ってもらう! 一年を通じて行われるカリキュラム全てに優劣をつける」


 やっぱ予想通りだったな。

 ふっ、わかりやすすぎるぜ、聖アルフォード学園。


「尚、一年修了時に合計ポイント下位二組は()()()()()()()()退()()()()とする」


 そうそう。

 下位二組は退学。


 ……ってええええーっ!?

 この一年で十名をふるいにかけるってこと?


「但し、下位二組内から、個人成績上位一名を補欠繰り上げとする。よって二学年へ進級できるのは二十一名だ」


 なんですか? この苦難の路。


「二年次はスリーマンセルとなり脱落は三組。つまり三学年へ進級できるのは十二名。最終学年である三年次はツーマンセルとなり、上位一組に勇者の称号が与えられる」


 最後まで個人勝負ではないんだな。

 なんて俺の心を見透かしたのか、補足が入る。


「命が一人で生まれることがないように、人は一人で生きてはいけないものだ。だから君たちはこれから三年間で、仲間と呼ばれる存在と手を取り、言葉を紡ぎ、わかり合い、支え合い、助け合い、繋がり合って、勇者と呼ぶに相応しい存在へと成長していくのだよ」


 ディアマンテによる授業は更に続く。


「現在、不戦の契りこそないが、人界と魔界の天秤の針は釣り合っているように思える。だがその平穏が偽りとすれば? その時、君らは世界の安寧を一人で守るのか? そんなことはないよな。かつてそれを体現したのは勇者アルスただ一人だ。文字通り一人で――」


 レヴィの教える魔王学で、それは知っている。

 レヴィが憎しみを込めて語る、その忌み名。


 “アルス”――女神レキアに遣わされ、地球から召喚された原初の勇者。


 かつて、魔王レイス・デス・ヴェリドを一人で倒した、人界の英雄であり、


 ――シータの血族。


 一見すると討伐されたこと自体何ら不思議はないように思える。

 実際おれもそう思った。


 だが、そうではない。これは()()()()()()なのだ。


 人間と魔物に力の差があるように、勇者と魔王にも力の差がある。

 どちらも圧倒的に後者の方が――強いのだ。


 だから、人類は身を護るようにコミュニティーを形成し、集団で行動する。


 それはまた勇者も変わることなく――勇者は魔王に対抗するため集団で戦う。

 いわゆるパーティーを組むというやつだ。


 人は、勇者は、その差を他者と繋がることで埋める。


 対して、魔物は違う。

 四鬼将を例にとっても、まとまりなく各々自分勝手に自己中心に動く。それを魔物の血と言えばそれまでだが、それでも強さゆえの慢心、怠慢。元人間の俺から見て、そんなものがないとは言わせない。


 まあ、なんにせよ。結果的に魔物は個人プレイを好む。

 魔物の王様である俺が、一人でこうしてここにいるのがいい例だな。


 一方で、人は、勇者は、数の暴力をもって脅威に立ち向かう。

 なるほど、だから聖アルフォード学園のカリキュラムは必然的に集団行動を主とするんだな。


 ディアマンテの説明も、ようやくストンと腹に落ちた。


「だが、君たちはアルスじゃないんだ。アルスになる必要もない。一人になるな」


 続けて発したディアマンテの言葉。

 それは俺たちに向けてか、それともシータに向けてか……。

 それはわからないが、次に紡がれた言葉だけは、俺に向けてのものだった。


「人は手と手を取り合うものだ。だから君らに真の仲間と呼べる存在ができた時。その時は信頼も信用も全てを投げうって、仲間のために命を懸けろ。仲間に命を預けろ。こうして人は繋がりを深めていくものだ。きっとその時、君らは仲間のために血も汗も、そして、涙も流せるよ。な? ダイチ。そうは思わないか?」


 ――勇者とはどうあるべきか?


 勇者学第一問。

 十万字に渡る解答のプロローグが示され、俺は無言で頷くだけだった。


 一時限目、道徳の授業がこれにてようやく終わりの鐘を鳴らし。

 頷いた頭を下げたまま、俺の頭上に次のクエスチョンマークが点灯していた。


 聖アルフォード学園……。


 ――滅ぼすの無理じゃね?

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