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ゆらぐ世界のわたしたち  作者: 石江京子


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2.わたしたちの冒険

 わたしたちはそれぞれ、第七公園の二つのブランコに乗って、手をつないで向こうの世界に行くことができた。


「まずは、からあげを確認しようよ」


 初めて二人で世界を渡るときも、お財布(さいふ)を用意してきた。わたしもからあげを食べてみたかったからね。

 早速(さっそく)お弁当屋さんのほっこほっこ弁当に行って、からあげ弁当を買った。


 食べる場所は、公園のベンチ。

 鈴葉ちゃんが言うように、もとの世界で青いベンチは本当に赤い色になっていた。


 前に、わたしもほっこほっこ弁当のからあげを食べたことがある。だけど、香ばしい(にお)いやぱりぱりっとした口当たり、柔らかくて汁がじゅわっとくるところにも驚いた。

 やっぱり鈴葉ちゃんが言うように、この世界のからあげはすごくおいしかった。


「不思議だね。本当においしい」


 わたしが次のからあげを口に運びながら話すと、鈴葉ちゃんはにっこり笑った。


「そうでしょ。何で違うのか、調べたいよね」

「探偵みたいに?」

「そう。こういうことするのって『メェくんと名探偵』みたいじゃない?」

「本当だねぇ」


 わたしと鈴葉ちゃんの会話は弾む。


『メェくんと名探偵』は、市立図書館にある本。わたしも鈴葉ちゃんも大好きなお話だ。

 主人公の女の子サツキが、羊のぬいぐるみのメェくんと話し合いながら日常の(なぞ)を解決するというシリーズ物だよ。


 今、わたしたちはもとの世界と向こうの世界の違いについての謎解きを始めようとしている。

 そう思ったら、胸の(おく)からどきどきわくわくする気持ちが()きあがってきた。



 

 けれど、ほどなくして、わたしたちは向こうの世界には長くとどまることができないと分かった。


 なぜか、この世界にいると「ここにいてもいいのかな」という思いがだんだん()きだしてくる。鈴葉ちゃんも同じ感じみたい。

 違う世界にいることで、違和感が()もってくるんじゃないかな。

 しかも、時間が()つにつれて大きく強くなっていく。「ここにいるのは何か違うなあ」って気持ちがどんどん(せま)ってきて。

 わたしも鈴葉ちゃんも結局、走ってブランコに乗って帰ってくることになる。


「タイムリミットがあるって意識しながら、探検しようよ」

「そうだね。時間の制限がある冒険ってことだね」


 わたしたちはそう決めておきながらも、からあげがおいしくて。

 いつもお弁当を味わいながらおしゃべりを楽しんだ。それから、ようやく腰を上げて、この不思議な冒険を始めることが多かった。




 まずは、からあげの謎を解くことにした。

 お弁当屋のおばさんに「ここのからあげ、おいしいですね」と話しかけてみた。


「わたしが作っているわけじゃなくて、業者(ぎょうしゃ)さんから仕入れているからねぇ」


 お弁当を包みながら、おばさんはほほえんだ。


「作っている人が、おいしい作り方を知っているのかもしれないわね」


 そうつけ加えて。


 業者さんをたどって、作っているたくさんの人たちのなかからその人を探す。

 それはちょっと難しそうだなと、わたしたちは考えた。


 はっきりしない結果だけど、作るのに(たずさ)わっている人が少し違うのか、それとも同じ人でもからあげの味を工夫しようと思ったとか、そういう小さな理由でも味は変わるよね。


 ベンチの色が違うのは、わたしが公園の管轄(かんかつ)は市役所で分かるかも、と言い出したことがきっかけで。鈴葉ちゃんが市役所の公園課とかいうところに電話をしてくれた。

 でも、園内の物に()る色をどうしているかまでは(くわ)しく分からなくて。


「ボランティアの人に任せているところもあるから。そのときの状況で、色を決めているかもしれないね」


 市役所の人の返答もあいまいだった。

 でも、はっきりしてない、ということは、ひとつ世界が違うとずれやすい、ということなのかもしれない。

 他にもそんなずれがないのか、わたしも鈴葉ちゃんも気になった。


「もっといろいろなところへ行って、もとの世界との違いを探してみようよ」

「そうだね。他にも何かあるかもしれないよね。あと、からあげ弁当以外のものもいろいろ食べてみるといいかも」


 わたしが考えながら話すと、鈴葉ちゃんは(ほが)らかな声を出した。


「それ、いいね」


 だけど、わたしたちはもう一つ、この世界にあまり滞在(たいざい)できない理由を見つけることになった。

 あるとき、わたしと鈴葉ちゃんが歩いていると、遠くの方に二人の人物を見つけてしまった。向こうは背を向けていて、こちらには気づいていない。けれど。


 わたしたちがもうひと組いる。


 その事実に、背中がぞくぞくっとする。急に怖くなった。もう一人の自分に会ってしまったら、大変なことになるんじゃなかった? 


『恐怖! みんなの怪談集』の第三巻だったと思うけど、自分とそっくりな人がいるというドッペルゲンガーのお話があった。そこでは、自分が自分に会うと悪いことが起こると伝えられていた。

『タイムスリップ学園』シリーズでも、過去の自分と会うのは「重大なタイムパラドックスが起こるかもしれない」って危険性を説明しているし。

 両方とも図書館の本のなかの話だけど。


 ところが、次の瞬間、いきなりわたしと鈴葉ちゃんはブランコに乗っていたんだ。

 一瞬のうちにもとの世界に帰っていた。お互いがお互いに出会うのは、こうやって防いでくれるみたい。

 ただ、そのときわたしも鈴葉ちゃんも頭痛とめまいがあった。

 すぐに収まったけれど、もうその日はブランコに乗る気になれなかったし、こういう経験は二度としたくないなと感じた。


 向こうの世界の自分と会話ができたりしたら、おもしろそうだとは思う。

 けれどどういうわけか、自分が二人いるっていう現実を目の前にすると、ぞわっとくる。鈴葉ちゃんも「何だか怖かったなあ」と話していた。

 そういうものなのかなって感じる。


 ついでに。

 このパラレルワールドにいる時間そのものは、なかったことになる。

 もとの世界からすると、わたしたちが向こうにいる時間は全く消えてなくなってしまう。こっちの世界でブランコに乗っていただけになる。わたしたちからすれば、時間が巻き戻ったような感じ。

 とりあえず、この冒険はどこにも影響がなくなるらしいので安心できた。


 からあげ弁当を食べても、もとの世界に戻ればお弁当を食べていなくて、買ったこともなくなる。お金も使っていなかったことになる。それに、お腹もいっぱいになったはずが、そうでなくなる。

 

 けれども、わたしも鈴葉ちゃんも向こうの世界での出来事は、すべて記憶に残っている。もちろん、おいしい味も覚えていられるんだよ。


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