神様に怒られドーーーンされました
「倫悟!倫悟!目を開けて・・・返事して倫悟!」
「お母さん。。。大丈夫だよお母さんの顔見えてるよ」
そう云ったつもりだが、声にならなず吐息が酸素マスクをわずかに曇らせただけだった。
母の手を強く握り返し、無事を伝えるつもりだったが力が入らない。
中学に上がる直前にかかった若年性白血病で僕の人生の大半は病院で過ごすことになった。
親はそんな僕を不憫に思っていたようだけど、好きな本を好きなだけ読める日々は割と気に入っていた。小説の世界に没頭し、空想の中で様々な人生を味わうのも楽しかったし、歴史・経済学・地理・心理学・医学・漫画・ラノベありとあらゆる本を読み心の中には見渡せぬほどの大きな世界が広がっていた。
知識は人の役に立つことも身を以て知った。他の患者からオススメの本を聞かれること、入院中の子供への励まし方、しまいには看護師さんに痛くない注射の打ち方まで聞かれるようになり、歩くウィキペデェアだとか、あばあちゃんの知恵袋と言われるようになった。
本を買うための自由なお金を手にしたかったのと、親に迷惑かけたくなかったことを理由にお年玉を元手に始めた投資も順調で入院代をはらっても御釣りが来るくらいになった。
立って半畳寝て一畳の言葉通り、ベットから出られない生活でも僕は充実していた。わずかばかりでも人の役に立ち、金銭という面では自立できていた。
ただひとつ足りなかったのは健康。
お母さんを悲しませる事しか出来ない自分が不甲斐なかった。投資で稼ぎ出し「もう入院代は心配いらないよ」と云った時も「お金なんていいのよ。倫悟が元気になってさえくれれば」と悲しい笑顔を浮かべていた。
意識が遠のき目を開けてられない。
「倫悟!倫悟!・・・・」
大丈夫・・・聞こえてるよ・・・母さん
「ピーーーーーーーーー」
目を開かれ真っ白光にまぶしさを覚える
「午前9時6分ご臨終です
母さんの泣き叫ぶ声が聞こえる。
僕は死んだんだ。
これが死後の世界か。。。。
天使が降り注ぐわけでもなく
六文銭を求める船頭が現れるわけでもなく
母さんの慟哭だけが聞こえる
泣かないで母さん。僕は大丈夫だから・・・・だから・・・
ただ、溶けていくように意識が消えていった。。。。。
「倫悟・・・天田 倫悟。目覚めなさい」
暖かく優しい声に
「ん・・・お母さん?」
微睡みながら答え目を覚ますと
眼前には巨大な女性の顔があった。
視覚という感覚はないけど正面からもてっぺんからもその姿が知覚できるが、感覚としては蟻から見た人間のようなとてつもない大きい存在感だけがあった。
「誰がお母さんじゃ莫迦者」
叱責は心地よく意識に響いた。
「失礼しました。あなたは神様ですか?」
「そうだよ。あたしゃ神様だよ!」
まさか本物の神様があのギャグをやるとは思わなかった
「笑いの神様ですか?」
「だっふんだ!!」
「デュイデュイデュー!!ってもういいって本当になんの神様なんですか?」
「そうそうわかってるわねー。あのコントはデュイデュイデューまでがセットなのよ。ノリツッコミなんて君以外の明るいのね。もっと暗い子かと思ってた」
「そりゃあ暗くもなりますよ今際の際だったんですから。僕はもともとこんなですよ」
「うんうん元気が一番」
「死んでますけどね」
「あはははは。そうだねー死んじゃったね」
先ほどまで蟻と人間ほどの差があった感覚も下校中にクラスの女の子と話しているような距離まで近づいていた。
「何の神様って質問だけど私は思金神常世から訪れて長寿・富・幸福をもたらす「常世の神」なんて言われてるよ」
思金神といえば日本神話に登場する知恵と策略を司る神様じゃあないか。天照大神を天岩戸から出す作戦を考案したり天孫降臨に随行したりと日本神話の随所に登場する神だ。しかし・・。
「長寿の神って・・・僕めちゃくちゃ短命じゃあないですか?本当にご利益あるんですか?』
「ぐぬぬぬ・・・・痛いとこつくわね。でも君みたいな子は長生きして欲しかったから、こうして呼んだのよ」
「ひょっとして異世界転生ってやつですか?」
「よく知ってるわね」
「僕の半生ずっと死にかけてたんで、死後の世界についてよく考えたんですよ。」
「現代の異世界転生ものって一過性のブームかと思いきや、もう10年以上続くジャンルになっていますよね。この概念が受け入れられるのは日本限定かと思いきや世界中に波及しているんですよ。」
「八百万の神を信仰しているからキリストも神道もごっちゃに祝うような日本だけじゃなく単一伸を崇める宗教すら輪廻転生という概念を受け入れているのはユングの提唱した集合的無意識の周知なんじゃないかと思ったんです。」
「うーんほぼ正解だね」
「動物が初産で知識も経験もないのに完璧に子育てをするように、個の経験は共有し、全として収束するの。」
「電化製品と電気のような関係って事ですか?出力される機能は違ってもコンセントを通じて電力会社と繋がってるみたいな」
「人はそれをアカシックレコードなんていうわね。0と1が作り出すデジタルの世界もそうよ。事象が真理に近づいていっているの」
「面白いですね」
神様が世界の真理を教えてくれる。この時間がいつまでも続いて欲しいと思った。
「面白いでしょ?でもそれは君がとっても面白い存在だからなの。知識に貪欲でそれを正しく使う誠実さも持っていた。きっと君の名前が君を君たらしめたのね。倫悟くんとてもいい名前だわ」
「ありがとうございます」
この名前を授けてくれてた親を神に褒めてもらえた事にえも言えない感謝と感動が駆け抜けた。これが信仰というものなのだろうか。
「君があの世界で天寿を全うしたならば、きっと世界は変わったでしょう。そのくらいの人物なのよ君は」
「母さんを悲しませる事しかできなかった人生を、神様にそこまで評価していただけるなんて光栄です」涙が出そうになった。
「そんなわけでちゃっちゃと転生しちゃいましょうか?40秒で支度しな」
「こっちは感動で泣きそうだったのに、ラピュタネタぶち込んでくるとか本当にオモイカネなんですか?笑いの神の間違いじゃない?」
「このバカチンが!そのまま泣いときゃいいのよ!ラピュタは泣けるでしょ!」
「金八先生の真似をする三又又三とか、ネタがいちいち微妙に古いんですよ。天照太神の天岩戸開けた知恵の神なんて崇められてるけど、やった事といえば裸踊りでしょ?本当は芸人じゃあないんですか?でも、脱ぎ芸は芸人としては下の下ですよ」
「オーシャンパシフィックピースをディスってんのかこのやろう!履いてますよなんて世界に通じるネタだぞ!脱ぎ芸なめんな!』
「転生後の人生せいぜい楽しんきてねー。はい、どーーーーん」
小島よしお・とにかく明るい安村・江頭2:50。怒涛の脱ぎ芸人3連発・・・。
股間から突き上げる拳が光に包まれるとともに
奇妙な浮遊感を感じた直後に五感が蘇る
こうして神の怒りを買ったまま転生した。。。というか本当に神なのか?芸人としてのこだわり強すぎだろ!




