第1話「転生」
――痛っ。
トラックに轢かれた瞬間、世界は一瞬で白く光った。
次に目を開けると、広大な草原の真ん中に立っていた。
「え……ここ……?」
周囲を見ると、村人たちが一列に並び、無言で手を叩いている。
「……あの、俺、勇者……ですか?」
村人は一切返事をせず、ただ手を叩き続ける。
主人は頭を抱えた。
「勇者って……どういう意味で勇者なんだ……」
そのとき、ゆっくりと一歩、老人が近づいてきた。
「今日は風が強いですね」
「はあ……?」
主人は意味が分からず、周囲の草原を見回す。
風は、確かに少し強い。
しかし、勇者としての使命感はどこにも届かない。
とりあえず、村を歩いてみることにした。
村人たちは目もくれず、無言で拍手を続ける。
「……普通に会話できないのか?」
すると、小さな建物が目に入る。
「宿屋……かな?」
中に入ると、宿屋の主人が淡々と帳簿を広げていた。
「宿泊ですか」
「ええ、そうですが」
「では、一泊500ゴールドです」
主人は財布を取り出すと、宿屋の主人は何の感情もなく受け取った。
「……あの、世界の説明とか、勇者の使命とか、そういうのは……?」
宿屋の主人は微笑みもせず、ただ壁の時計を指差す。
翌朝、主人が外に出ると、宿屋は消え、そこにはコンビニが建っていた。
村人たちは何事もなかったかのように、無言で拍手を続けている。
「……え? 昨日の宿屋は?」
誰も答えない。
主人は空を見上げた。
広がる草原、変わらぬ拍手、意味の分からない風の音。
「……俺、勇者……って、どういうことなんだろう……」
こうして、彼の異世界での、意味のあるようで意味のない日常が始まった。