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エピローグ

――


 どこまでも青く綺麗な空が広がる。優しい風が肌を撫で、鳥達の囀る音が遠くで聞こえた。石造りの建物の中を見慣れた人影が通っていく。

「ちょっと、ルルシア。どこへ行くつもり?」

 呼び止めたのは彼女の姉・イレナだ。相変わらずのしかめっ面で仁王立ちしている。

「えっと……すぐそこの見回りを」

 見え透いた嘘を吐くルルシア。それを聞くや否やイレナはため息をついた。

「もう。あまり遅くならないようにしなさいよ」

 珍しく優しい言葉を掛ける彼女に一瞬驚きつつも、すぐにルルシアは微笑んだ。

「ありがとう、姉さん」

 そして彼女は駆け足で砦を飛び出した。


――


 何の変哲も無い小さな村。しかし見慣れたその場所は以前よりも賑わっていた。そして一際高く、木材を叩く音が響いている。

「……よし、あと一枚か……」

 ぼそぼそと一人呟きながら、その人物は額の汗を拭った。

「コースト〜!」

 バサリと大きな翼を羽ばたかせ、ルルシアは上空からその者の名を呼ぶ。

「うおああぁああ!」

 突然の声に驚いたのか、コーストは派手な音をさせながら屋根から転がり落ちた。

「あら、大丈夫〜?」

 ルルシアは心配しつつも、その表情はどこか楽しげだった。

「あ……あぁ、何とかな……って、お前なぁ!」

 上から来るのは反則だ、と言わんばかりに抗議をするコースト。しかしルルシアは全く気にせず話を続けた。

「まあいいじゃない♪それより今日はお祭り、なんでしょ?」

 改めて見ると村のあちこちに沢山の装飾がしてあった。一緒に飾られた花から、摘みたての良い香りがしている。

「ったく……まあな。折角この世界に戻って来れたんだ、お祝いの一つくらいしなきゃな」

 そう言ってコーストは空を仰ぐ。何より以前と変わらない日常が今は一番幸せだと感じるのだ。

「それもこれも、フルースの力のお陰よね……」

 ルルシアの言う通り、フルースが居なければこの世界に戻ってくる事は出来なかっただろう。

「でも、皆さんのお陰でもあるんですよ」

 久しぶりに聴いた懐かしい声色。振り返るとそこには、花籠を抱えたシーナの姿があった。

「シーナさん……」

 彼女もまた再生の力によって救われた者の一人だ。

「ねぇ、コースト? さっきも不思議なお二人さんと同じ話をしていたでしょ?」

 シーナの言う不思議な二人……もしやと思いルルシアは辺りを見渡した。だが何処にもその人影は無い。

「あぁ。レイルナとデューセルの二人か。アイツらも急に現れるからなぁ」

 言いながらちらっとルルシアを一瞥するコースト。明らかにさっきの事を根に持ってるようだ。思い出したように首の後ろをさすっている。

「そういえば、フルースが何処に居るか知らない?」

 尋ねるルルシアにコーストはすぐさま首を横に振った。

「この辺に居なかったら後は分からねえな」

 どうやら作業に夢中でそこまで気が回っていなかったようだ。改めて見回すがやはり見当たらない。

「フルースさんなら、エラさんの所に行くって言っていましたよ」

 微笑みながらシーナは言った。続けて彼女は遠くを指差す。

「確か向こうの方に行ったような……」

 そうして指し示したのは大きな樹のある丘。もしかするとここへ来る際すれ違ってしまったのかもしれない。

「ありがとう、分かったわ。それじゃまた後で」

 それだけ言うとルルシアは丘の方へと駆け出した。


――


 小高い丘の上。中央にある樹は以前よりも輝いて見えた。優しい木々のざわめきが聴こえる。

「エラ!」

 彼はその名を呼んだ。初めて出逢った生命の樹の下で、フルースとエラは再会する。

「フ、フルース?」

 まさか来るとは思っていなかったのだろう、エラは驚いて振り返った。急いで来たらしく少し息が切れている。彼はゆっくりと呼吸を整え、口を開いた。

「急に居なくなっちゃったから心配したよ」

 フルースのその言葉にエラはクスッと笑う。

「もう。それは私の台詞よ」

 以前何度も居なくなったのはフルースの方だったからだ。思い返せばいつもあまり良い状況では無かった覚えがある。思い出してエラはちょっと不機嫌そうに腰に手を充てた。

「ごめん……でも、僕はここにいるよ」

 無邪気な笑顔で答える彼。いつもの調子にエラの不機嫌さは吹き飛んでしまった。

「それはそうと、やっぱりまだ彼……フォルクは居るの?」

 ふと真剣な眼差しで彼女は尋ねた。フルースは静かに俯き、小さく頷く。

「えっと……うん。本当ならあの時消えてしまっていたんだろうけど」

 本来は浄化の影響で消える筈だったが、フルースが彼と協力する事を選んだ為再生したのだろう。そのお陰で彼の真の力が開花する事になったのだから文句は言えない。

「そうだ、エラ。『探しもの』は見つかった?」

 ふと、彼女がすっかり忘れていた事を口にするフルース。彼と最初に出逢った時の、些細な悩み事だった。しばらく考えてからエラは首を横に振った。

「いいえ……ここには無いみたい」

「そっか。見つけてあげられなくてごめんね」

 当の本人よりも残念がるフルース。そんな彼の素直さが、今は何より嬉しかった。

「だからわたし、他の所に探しに行かなくちゃ」

「そうなんだ……また、会えるかな」

 寂しげに呟くフルースにエラは優しく微笑む。そして目を逸らした。

「それは多分、難しいかもしれないわ」

 かなり曖昧な表現だが、それは別れを告げるという意味なのだろう。しかし彼女は女神、人とは違う。きっとまた何処かで会える筈だ。

――ヒュウウ。

「……よ……」

 風がフルースの言葉を掻き消してしまう。何と言ったのか分からずエラは聞き返す。

「忘れないよ、君の事」

 その言葉にエラはハッした。かなり昔、エラがある人物に言った言葉を思い出す。それはまるでその時の返答のようだったのだ。

「当たり前じゃない、忘れたら許さないわよっ?」

 冗談混じりに答えるエラ。心なしか彼女の表情はさっきよりも迷いが無かった。

「うん。絶対、約束だよ!」

 フルースは彼女に応えるように力強く返事をする。

「それじゃ、フルース。今までありがとう」

「エラも、ありがとう。元気でね!」

 別れの挨拶を交わした後、エラは背を向ける事なく天高く上昇して姿を消した。フルースは最後まで見送った後、皆の居る村へと歩き始める。


 こうして世界は平和な日々を取り戻したのであった……。

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